脳のある場所
「三年間ありがとね。寂しいけど……バイバイ」
卒業式の日、彼女は僕にそう言った。口は寂しがっているが、顔はもう会うことはないよね? そう言いたいようにも見える。
僕は小さくうなずき手を振る。
「バイバイ。僕も楽しかったよ」
そう静かに返す。
彼女は納得したような、安心したような顔で、徐々に後ろに下がっていく。一歩ずつゆっくりと僕から離れていく。一〇歩くらい離れると手を高く上げる。そして僕の存在を消し去りたいかのように、大きく大きく手を振り始める。
君は僕にもう会いたくないんだな。嬉々として手を振る彼女の手を、じっと、じっと見つめる。
手を、触れると壊れてしまいそうなほど細く小さな手が微笑んでいる。僕に会いたくないと言っている。僕は遂に気がついた。人の心は脳にあるのではない。胸にあるのでもない。顔にもない。全ては手の中にあるのだ。
ならばただの肉の塊である体はいらない。僕は、君の心だけを切り取り、仲良く二人で暮らす。待っていて。
僕はそう決意し、笑顔で手を振り返す。大きく、肩の可動域の限界を超えそうなほど大きく。少し遠くで肉の塊が安心した表情を浮かべている。彼女も嬉々としている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます