世の中は些細な理不尽でできている
川中は電車で眠っていた。が、隣に座っている男性の舌打ちで目が覚める。周りを見渡すと、抱っこ紐で抱かれている赤ん坊が泣いていた。赤ん坊の母親とおぼしき女性が困り果てた表情を浮かべている。
どうしようかと考え、閃く。川中は真っすぐに腕を突き出し、親指を立て、小さく頷く。
母親が川中を見て、微笑む。口の動きで「ありがとう」と言っているのが見える。
いやいや、そんなこと気にしないでくれ。と首を振り、腕を畳む。親指を片付け、拳を作る。
ジッと拳を見つめ、舌打ちをしている男性を殴りつける。
唖然としている男性を横目に見ながら、小さく呟く。
「仕方ないだろ。自分に不幸なことがあったからってキレるなよ? あの母親も子供が泣きだして、どうしようもできないのに、見知らぬ男に舌打ちされるっていう不幸なことがあったんだ。
俺も見知らぬ男の舌打ちで目覚める、っていう不幸なことがあったんだ。
だけど両方キレてない。だからお前もキレちゃいけない。
オーケー? じゃあ舌打ちを止めるんだ」
川中はそう言い、目を瞑る。電車の揺れがさざなみの様で安らかな眠りに入る。
が、突然左の頬に大きな衝撃を感じる。目を開くと男が拳を見つめている。
「俺は怒ってはいない。が、納得がいかないからな暴力に訴えたんだ。
怒るなよ? ほら理不尽なことはあるもんなんだ。俺だって無意識に出た舌打ちで殴られたんだ。じゃあお前が殴られても問題無い」
「オーケー。これでお互い様だな」
川中はそう言いながら、もう一度男を殴りつけ目を瞑った。
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