第14話『だれも仕掛けてこない』


漆黒のブリュンヒルデ・014


『だれも仕掛けてこない』 






 その姿で決まりか?




 二日目の朝、豪徳寺の角を曲がると、すでに奴はねね子の姿で前を歩いていた。


「だって、名前つけてもらったニャ」


「気に入らないんじゃないのか?」


「いいのニャ。あの三億円も、最初はほんとうの女子高生と思って声をかけてきたのニャ、大学生って感じでニャ」


「あいつ、ナンパしてきたのか? こんなところで?」


 豪徳寺の周辺は落ち着いた住宅街だ、ナンパ目的の大学生風が歩いているとは考えにくい。


「ハハ、まさかニャ。アキバに行ってたのニャ」


「アキバ? ちょっと遠いぞ」


「ちょくちょく行くニャ。勉強になるニャ、このアバターもアキバで仕入れたニャ」


「仕入れる?」


「いろいろ見て研究ニャ、そしたら三億円が寄ってきたニャ」


「その三億円を教えろ。三億円がらみの事件が具現化したとか言ってたが」


「昭和の昔、練馬、有楽町、府中の三つの三億円事件があったニャ。三つとも三億円の現金が強奪された事件ニャ。府中のがチョー有名ニャンだけども、事件や犯罪もおっきいいのは、いつか命が宿って妖になるニャ」


「そうか、ここは、そういう異世界なのか」


「ほかにも、いろんなものが妖になるニャ。これからも、いろんな妖に出遭うニャ」


「そうなのか?」


「うん」


「フフフ……」


「な、何ニャ?」


「いや、面白そうだと思ってな」


「さすがは、ひるでニャ(o^―^o)」


「おまえの名前は?」


「ねね子ニャ、猫田ねね子」


「それは、わたしが付けた、本当の名前を聞いているんだ」


「だから、ねね子ニャ。お気になのニャ」


「嫌がっていたのではないのか?」


「嬉しくなきゃ、嫌がったりしないのニャ」


「よく分からんやつだ」


「あ、もう踏切ニャ」


「ああ」


「今度は、学校でも会えるかもニャ!」


 


 昨日と同様、角を曲がって踏切が見え始めるところでねね子は消えた。




 おはよう! おはようございます! おはようございます先輩!




 顔の見える生徒会諸君は、生活指導の先生と正門の両脇に並んで、登校する生徒たちに『おはよう』の十字砲火を浴びせている。


 昨日同様の挨拶攻撃。


 しかし、わたしに顔を向けての挨拶攻撃は芳子だけだ。他の者は微妙に顔を背けている。


 どうも、学校でのわたしはコワモテらしい。


 しかし、これだけの挨拶アタック、過ぎたるはなんとか、一般生徒も鬱陶しくはないのだろうか。


 


 まあ、いい。


 新会長の小栗には、あれだけ言ってある。あとは、あいつらの判断だ。




 ……ヌヌ、だれも仕掛けてこない。二つ尾の犬と猫でおしまいか?




 今朝は、ちゃんとスパッツを穿いてきた。むろん、弁当なんかじゃないから、いつでも立ち回りができるんだぞ。


 昇降口まで行って二回、教室まで行って一回、水を飲むふりや忘れ物を取りに行くふりとかして、三回も正門付近に戻ってみるが、何事もない。


 数人が靴下を注意されただけ、それも従順に注意されておしまい。


 平和だ。




 こんなことなら、お弁当を持ってくるべきだった。


 

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