第13話『ねね子危うし!』
漆黒のブリュンヒルデ・013
『ねね子危うし!』
バタン!
窓を全開にすると三つ向こうの屋根の上を目指してジャンプした!
あ……
思ったほどの飛距離が出ない。
学校で二つ尾の犬と猫を追いかけた時はいけたのに……そうか、あれは、塀に飛び移るとか、ほんの僅かのジャンプだった。
ひるでの身では、屋根三つ分は能力を超えるのか……。
思い当たっているうちに、体は降下していく。上着を脱いだだけの制服姿なので、スカートが翻って、ほとんどオチョコになっている。並の女子高生ならば「キャーー!」とか悲鳴を上げ、前を押えて落ちていくんだろう。
だが、それはみっともない。せめて、体操競技のフィニッシュのようにきれいに決めよう。
Vの字に手を挙げ、両足をきれいに揃えた。
あ……
なんと、啓介の部屋の窓の真ん前を落ちているんだ。
まあいい、啓介は引きこもり、めったに窓の外を見ていることなど……目が合ってしまった。
なんで……そうか、表札の件で見ておいてくれと言ったのは、ついさっきだものな。
ピンク……刹那、啓介の思念が飛び込んでくる。
ズサッ!
蹲踞の姿勢で着地すると、そのまま地面を蹴って、三つ向こうの通りを目指してダッシュ!
見上げた屋根の上には、ねね子の姿も良からぬ者の姿も見えない。ジャンプ力が足りない分、時間を喰ってしまった。
瞬間立ち止まって、意識を集中。戦場で敵をロストすることはままあることだ、諦めなければ道はある。
あそこだ!
戦う、あるいは逃げるにしても、ねね子ならば、敵に一撃を食らわせて時間を稼ぐだろう。
広い場所に出る可能性が高い。インストールされているマップから直近の公園を選んだ。
居た。
中央のオブジェを軸に対峙しながら、ねね子と良からぬ者はジワジワと周っている。
ねね子は押され気味だが、臆することもなく一撃を加えるタイミングを計っている。
「ねね子!」
一声叫んで、間合いを作ってやる。攻めるにしろ逃げるにしろ貴重な一瞬になる。
ねね子はジャンプして、良からぬ者との間合いをわたしと同じにした。敵は、どちらを相手にすべきか迷いが出る。
良からぬ者の表情が読めない……やつには顔が無いのだ。全身、白……というよりは褐色に近い地肌に数字の0と3がまだら模様のように散りばめられている。こいつは二股の犬猫の比ではないな。
ゆっくりと腰のオリハルコンを……無い!?
そうか、ひるでの身では一切の武装が無いのだ。敵は、組みしやすしと判断して跳躍してきた!
グォーーーー!!
背後に飛んで、コンクリート塀を二度キックして、敵の側背に蹴りを入れる! 同時にねね子も蹴りを加える! いい呼吸だ!
ズゴーーーン!!
両側背から強力な蹴りを受け、良からぬ者は吹き飛ぶと、公園の隅まで転がって尻餅をついた。
反撃を警戒したが、即座に不利と判断したのだろう、屈伸すると後ろ向きにジャンプして姿をくらました。
「しつこいやつだったのニャ、どうも、ありがとうなのニャ」
「いったい、あれは、何者なのだ?」
「三億円なのニャ」
「三億円?」
「ハイニャ。東京には三億円がからんだ事件が三つもあってニャ、その悪意が凝り固まって具現化した妖なのニャ」
「妖なのか」
「会社で言えば課長級かニャ?」
「中間管理職か……なんでまた、そんなのに追いかけられてるんだ?」
「ねね子を攻めれば、ひるでが出てくると踏んだのニャ」
「わたしか?」
「うん……でも、ちょっと疲れたのニャ。ハフーー 説明は明日ニャ」
そう言うと、公園の出口へ歩き出したかと思うと、五六歩で耳と尻尾が生えて、公園を出た所では、すっかりネコに戻って駆け去っていった。
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