第15話『ひるでの誕生日』
漆黒のブリュンヒルデ・015
『ひるでの誕生日』
ガラにも無く余韻に浸っている。
この異世界に来て三日目、祖父母が誕生日を祝ってくれたのだ。
この三日、二人とは挨拶以上の会話はほとんどなかった。
学校でもコワモテの前生徒会長で、話しかけてくるのは福田芳子だけだ。父オーディンが設定に手を抜いたのかと思ったりしたが、今夜の祖父母は饒舌だった。
「最初は戸惑ったのよ、生まれたって言うから、おじいちゃんと二人、矢も楯もたまらずに飛行機に乗ってベルリンまで行ったのよ。生まれたばかりのひるでは、色白の、とっても清げな赤ちゃんで、これがわたしの孫だって、最初は実感できなくてね」
「そうだったの?」
「ああ、オレもばあさんも胴長短足の平たい顔。しずく(母)も一筆書きで描いたようなうりざね顔。それが、教会のフレスコ画に描かれた赤ちゃんのように色白で彫りの深いベッピンさんだ」
「ハハ、赤ちゃんにベッピンさんもないでしょ」
「あるのよ、まるでマリアに抱かれた赤ちゃんのキリスト」
「ハンス(ドイツ人の父)に言われて、やっと抱っこしたら、ねえ……」
「おれたちの顔見て、ニッコリ笑ってくれて……なあ、婆さん」
「匂いがするのよ、赤ちゃんの匂いが。それが、赤ちゃんの時のしずくといっしょで、ああ、わたしたちの孫なんだって実感できたのよ。ほんと、ベルリンまで行って正解だったわ」
「それでも、オレはどこか気後れしたんだが、しずくが耳打ちしてくれたんだ『この子、お父さんと同じ出べそなの』ってな」
―― で、出べそ!? ――
ひそかに狼狽えたぞ。この世界に転移して三日、風呂にも入ったが出べそには気づかなかった。いや、デフォルトなので意識しなかっただけか(;'∀')? 思わずへそのあたりをさすってしまった。
「わたしは気にしたんだけどね、しずくもハンスも平気だし、成長すれば普通になるってお医者様もおっしゃったとかで。実際、うちに来て幼稚園に上がるころにはお医者様の言うとおりになったしね」
な、なんだ、そうだったのか(^_^;)。
それから、写真を出したり、わたしが幼稚園や小学校だったころの作文やら図工の作品やらを出してきて、深夜まで語り明かした。
全て、わたしが、この世界に転移するについて作られた情報ばかりだ。
この老夫婦……お祖父ちゃんお祖母ちゃんにとって、ひるでという孫娘は生きる希望であるにちがいない。
かりそめの祖父母と孫娘だが、この愛情には応えなければならないと思った。
バースデイプレゼントのリュックは三日前に不可抗力で見てしまっているので、驚いてあげるのに苦労するかと思ったけど、十分感動した後だったので、素直に喜ぶことができた。
ひるでぇ、もう遅いからお風呂入ってしまってぇ。
階下から祖母の声、時計を見ると日付が変わりそうだ。
「うん、いま入る!」
湯船に浸かって、念のため確認する。よしよし、出べそじゃなかった。
お腹を撫でながら思った。祖父母には孫娘はおろか、一人娘のしずくもいないのだ。みんな、わたしが転移するために老人夫婦の生活に割り込ませた設定だ。設定だが、孫娘のわたしを思う気持ちに嘘はない。
あの二人には孝養を尽くさねばと思う。
ヘクチ!
我ながら可愛いクシャミが出た。
ん?
湯船の中をうかがうと、戻ってしまっていた……出べそが!
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