第11話 王都へ
俺たち親子が街道を進み既に五日が過ぎた。
整備された街道は多少の轍はあるがランクルには快適な道が続く。
途中にある川などには大きな橋が架けられていて一応は渡る事が出来た。
街道は基本的に馬車が行き来しているが、たまにゴーレム車が通っていた。 形は馬車だが馬無しで走る幌馬車って感じだ。
おかげで俺たちのランクルも形は珍しいがさほど警戒されずに済んだ。 がスピードが段違いなので追い越しやすれ違う場合はかなりスピードを緩め、辺りに人影がなくなってからアクセルをふかす様にした。
途中の街へはバッケンが用意してくれた身分証……ハンターライセンスがいい仕事をしてくれた。
若干十才の萌美も立派なハンターとして見てくれるようになり、俺はテイムされた魔鳥扱いでランクルは萌美専用の魔導ゴーレム車として登録してあるからどの様な街へも出入り自由だ。
俺たちは今、王都手間の街に滞在している。 ランクルなら三時間位の位置にある街だ。
昨日の夕方にこの街に到着したのだが、なんでも昨日から王都では入場制限されて中々入れない状態が続いているそうで同じ待たされるのなら宿屋でゆっくりしたいのでこの街に滞在した。
ドンドン
「お客様、いらっしゃっいますか?」
部屋のドアがちょっと乱暴気味にノックされ客室係が呼びかけてきた。
「は、はい」
ドアを開けずに萌美が答える。
「ああ、よかった。
王都へ向かうお客様に連絡して回ってるんです」
萌美が俺の方を見るので首を縦に振り萌美の頭の上に飛び乗る。
「今開けます」
萌美がドアを開けると客室係の女性が丁寧な仕草で礼をする。
「朝早くから申し訳ございません。
取り急ぎ王都方面に行かれる方にお知らせがありましたので」
萌美が頷く。
「実は王都へドラゴンが向かっているとの通達がありました。
王都は現在戒厳令が敷かれ、住民はそれぞれのシェルターに避難したり王都から逃げたりしてる状況だそうです。
そして、この街にも戒厳令の余波で魔力を持っている者は暫くは魔力を封印しろとの仰せです」
???
「なぜ魔力を封印するの?」
萌美が俺の代わりに聞いてくれた。
「はい、ドラゴンは総じて魔力の塊りの様な存在でしてより強い魔力に惹かれる性質をしているそうです。
そして、王都には魔導部隊や姫巫女様を始めとしてかなり強力な魔力を持つ人々が居ますのでこれに惹かれたと思われます。
そして、今回のドラゴンを王都郊外で迎撃する為にも周りの街々での魔力行使と魔力の封印をしてドラゴンの気を王都郊外に集中させる狙いかと」
な、なるほど……。
ドラゴンってかなり危ない存在なんだな。
しかし、魔力の封印ってどうやるんだ?
ナビちゃん知ってる?
ピコンッ
〈はい、封印は魔法を使えなくする方法です。
呪符を身体の一部に貼る事で魔法が使えなくなります。
しかし、マスターには効果ありません。
魔力が外に漏れなくするだけなら隠蔽魔法で充分です。〉
最近のナビちゃんは俺の事をマスターって呼ぶ様になった。
じゃあ隠蔽っ!
ゴォォーッ
「キャァッ!」
「いや〜んっ!」
いきなり部屋の中に風が吹き荒れた。
ビックリする萌美といきなりの風でスカートが捲れ上がる客室係さん。
いや〜、朝から福眼ありがとうございます。
「今のピーちゃんなの?」
明らかに萌美が怒ってる……。
「ピッ(い、いや)」
「えっ?今の風はこの鳥さんが?
凄い……でも、鳥さん用の呪符は無いし……」
客室係さんがスカートを直しながら萌美の頭の上の俺を見る。
「あっ、だ、大丈夫です。
ピーちゃんにはいい聞かせますから。
もう絶対に魔法を使わせません」
萌美が慌てる。
「そうですか。
テイマーの方がそうおっしゃるならお願いします。
では」
と、封印用の呪符を一枚萌美に渡してから次の部屋に向かう客室係さん。
その後、ランクルに憑依してから萌美に隠蔽魔法を説明したが客室係さんのスカートの中身をじっくり見た事についてコッテリ絞れました。
******
その頃の王都郊外。
「おかしい……」
「どうなされました姫巫女様?」
迎撃本部用に誂えた大型テントの中で地図と睨めっこしていた姫巫女サリア様が唸っている。
「はい……さっきまで捉えていたドラゴンの気がいきなり消えたんです」
「えっ?
本当ですか?」
「はい……」
「いや〜、よかったぁ〜」
姫巫女サリア様の不安そうな顔とは正反対の顔をしてお付きの魔導騎士が破顔する。
今回のドラゴン騒動は想定外だった。
本来、ドラゴンは人族の土地には存在しない。 魔族領の山奥にヒッソリと存在する至高の存在なのだ。
神に次ぐ力を持っているとも聞く。
それがいきなり現れた。
いや、誰もその姿を目にはしていない。
この場に居る星読みの姫巫女サリア様が二十日ほど前に人族の土地の北部に巨大な魔力の存在を感じたのだ。
そね魔力の巨大さから古のドラゴンかとも思われたが、古のドラゴンが目覚めるにはまだ早い。 では別のドラゴンか?
まだ、誰も確認出来ていない。
情報が少な過ぎる。
しかし、ドラゴンの気はこちら……王都に向かって来ている。 ドラゴンにしては余りにも遅い速度だが、確実に近づいている。
王都の目と鼻の先に来てもその存在を目にする事が出来ない。 余程上空にいるのか隠蔽魔法で姿を見えなくしているのか?
どちらにしても姫巫女には隠し通す事は出来ない……筈だった。
それが…….いきなり存在の気が消えた……ありえない……消滅したかのように。
本当に消滅したならば必ずその痕跡はある筈だし、あれだけの魔力を持ったドラゴンが消滅する時の余波は軽く王都を飲み込むほどの衝撃がある筈。
それすらもなくいきなり消えた。 そう
(隣でバカみたいに喜んでいる魔導騎士は事の重大さに気付いていない。
もしかしたら何かに変化して王都に潜り込んで内部から破壊しようとしてるかもしれない……ふっ、それはありえないか……あれほど強大な魔力の持ち主ならばクシャミ一発で王都は滅びるからな。
杞憂だろう……もしかしたら只の観光だったりして……。)
姫巫女サリア様は意外にも一番真実に近い答えを出していた。
******
「ピチュンッ」
なぁにピーちゃん風邪?
気をつけてよ」
萌美の頭上でまったりしながら街を散策していたらいきなり鼻がムズムズした。
花粉症かな?
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