第10話 殴り込み
ランクルバージョンの俺は大きくて頑丈そうな門扉に突っ込んだ。
幅十メートル位で高さが五メートル位の大きな門扉で普通の人間や馬車や魔獣では突破出来ないだろう程の物だ。
だが、俺の車の正面は俺の錬金魔法で強化したカンガルーバンパーで並大抵の物ではかすり傷すら付かない。
更にはボディーや窓ガラスまで特殊強化しているのでこちらもキズが付かない。
室内は重力魔法で保護しているので衝突のショックは全く無い。 所謂慣性制御だ。
そしてその大質量の門扉に対して自らの質量を重力魔法で増して軽く数百トンまでなったランクルをぶつけた。
ドカッンッッ!ズズズズッ!
大きな門扉がゆっくり倒れる。 その門扉を難なく乗り越えて広い庭に入り一直線に屋敷の玄関に向かう。
異様に深い轍を刻みながら屋敷の前に到着する。
すると、ようやく屋敷の中から厳つい顔の男達がわらわらと出て来た。
「なんじゃゴラァッ!
カチコミがぁっ!
野郎どもっ!やってやれっ!」
先頭にいたガルゴンが叫び周りの下っ端に指図して俺に攻撃を促す。
しかし、それを躱す事なく真っ直ぐに走り、槍や刀を持った奴らが俺に向かって走って来るが、俺はスピードを緩めずに玄関扉に向かう。
もちろん俺を止める事が出来る奴はいる筈も無く目の前を走り抜けるのを見送るしか無かった。
ドガッ!バァァァンッ!
キキーーーッ!ギャリュンッ!
大きな玄関扉が弾け飛び俺はエントランスでランクルを半回転させ停車させ重力魔法を解除する。
重力魔法を解除しなければこの建物の土台を破壊する可能性があった。
「おいおい、派手な登場だな……。
街の英雄がなんの用だ?
えぇっ?ピーチャンさんよ?」
エントランス中央の階段の上から目的の人物……ハミル男爵が俺を見下ろす。
『ああ……アンタのやってる事についてちょっな……』
この男、元々爵位を持っていた訳では無く金の力で爵位を買いそれをカサにきて法外な利息で金貸しを行いやりたい放題しているのだ。
「アンタ……正義の味方のつもりで俺を退治に来たって訳か?
まあ、俺も散々汚い事をして来たからな……。
アンタには勝てる気がせん。 今更だが、覚悟はできてる。 やるならスッパリとやってくれ」
ハミル男爵が自分の首に手刀を当て、首を切るジェスチャーをする。
「ただな、部下達は助けてやっちゃくれないか?
まあ、荒くれた連中だが気のいい奴らばかりだ……。
誰もアンタには敵わない、死なすのは忍びない」
この男、ただ単に私利私欲に走っている訳では無い。
『最初に言っておくが、俺は正義とか何とかは関係ない。
俺はモフモフなしっぽと可愛いモノが好きなだけで、それを汚されたから話し合いに来ただけだ』
「は…話し合い?
これだけ派手に入り口を破壊して?」
まあ、普通は殴り込みだと思うわな。
俺はこの街の事をギルドマスターでありこの街の統治者であるバッケンにハミル男爵の事を聞いていた。
このハミル男爵は街のゴロツキを纏めている所謂ギャングのリーダーだ。 しかし、必要悪でもあり小さな悪事から大きな悪事までを纏めて見ることによって更に凶悪な犯罪を未然に防ぐ防波堤の役目を負っている。
しかも、自らが囲った女達はなるべく不自由なく生活させている。
街の噂にある様な奴隷商人売るなどは無くワザと悪意の噂を流し自分の威厳かつ恐怖を演出していたのだ。
〈俺がハミル男爵を滅ぼしたらこの街はどうなる?〉
〈それは困る、悪事が地下に潜り込み目に見えなくなり制御出来なくなる。
ハミル男爵はあれでもこの街の世話役でもあるからいくらかの人望もある。〉
俺はこの話を聞く迄は街の害虫のハミル男爵を痛め付けて借用書を奪ってから街を救うって妄想していたが全く違った。
『なあ、ハミル男爵……さっきも言ったが、俺はモフモフだけが大切だ。
だから、ハリィの家の借金を俺が肩代わりする。
それであのミリィさんの事を諦めてくれないか?』
「ミリィ?あの獣人の未亡人か?
別に何とも思って無いが?
あまりにも悲惨な生活してるから俺の家のメイドに雇い入れようかと思っていたが……悪かったか?
すまない……アンタの想い人だとは知らなかった」
はい?
……でも親分のモノになれって言っていたけど……。
うーん…ニュアンスの違いか?
『別に俺の想いびとでは無いが、ただ娘が世話になったから礼がしたかっただけだ』
「はぁ?
娘が世話になっただけで俺の家に殴り込みに来るのか?
気が狂ってるな。
だが、この噂が広まったら貧乏人がアンタに群がるぞ?
ちょっと親切にしただけで借金がチャラになる便利な鳥が居るんだからな」
『分かってるよ。
だからこその殴り込みだ。
俺たちはこの後街を去る。
その後はハミル男爵が適当に話を作って……そうだな……トチ狂ったゴーレム車が家に殴り込みに来たのを撃退したが、中の鳥と娘に免じて追放だけで許した……とか何とか適当に噂を流してくれ。
そう言うの得意だろ?』
最初俺は普通に話し合いに来て借金の肩代わりをするつもりだった。
だけど、ハミル男爵の指摘する様な事も頭の隅を過ぎったので、こう言う乱暴なやり方にしたのだ。
まあ、俺たちは所詮は異世界人だし、フラッと現れた変わった奴らが街で暴れてサッサと街から追い出された。そう言うストーリーが一番後腐れないはずだ。
『それでだな、これがこの家の修理代とハリィの借金だ。
足りるか?
足りないならまだあるが……』
俺はランクルからピーの身体に憑依を変えてから予め用意していた大人の拳大の宝石を運んだ。
「ピッ(これだ)」
ハミル男爵の目の前に飛びその手の上に宝石を落とした。
この宝石は最初に岩山を破壊した時に辺りに散らばっていた奴だ、綺麗だから宝石だと思うがもしただの石ころだったら少し恥ずかしい。
「こ、これはっ!
ま、魔石か……?
こんなに大きなモノはあり得ん……。
アンタコレをどこで……?」
『ん?
ここから北の方に居た時にちょっとな……』
ピーからランクルに憑依を移した俺が答える。 いちいちめんどくさい。
「まさか……いや、しかし……確かに時期的には合うか……」
何やらブツブツ呟くハミル男爵。
『どうだ? 足りそうか?』
「ん? ああ、充分だ。
なんならこの屋敷毎ハリィにやろうか?」
『まあ、足りたんならいい。 後の事はたのむぞ。
俺たちはこのまま街を出て行く。
邪魔したな』
俺たちはそう言い残してハミル男爵の屋敷を去った。 萌美はその茶番の最中に寝てしまったようで後部座席でイビキをかいていた。
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