第9話 モフモフは俺が守る

「こんな家を建てられるんなら先に借金を返して貰おうか?」

 いきなり来ていきなり借金の取り立てをするガルゴン。

「まっ、待って下さい。

 利子は今日払ったじゃないですか?」

「それは昨日までの分だ、今日の分は?」

「そ…それは明日…。」

 ハリィが弱く俯く。

「しかも、いつの間にかこんな立派な家を建てられたら俺たちの面子が立たないんだよっ!」

 バギッ!

「がっ!!!」

 ガルゴンが家の外壁を殴るが逆に拳を痛めたようだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 ハリィが手の腫れたガルゴンを心配する。

「だ、黙れっ!」

 うわっ、恥ずかしっ。

 格好を付けて壁を殴ったのに…俺が補強した壁はかなり硬いからな。


「しかし、俺も鬼じゃない。

 いつも言ってるようにマリィが親分のモノになるなら借金は帳消しにしてやる。

 どうだ?」

「そ、それは…「断るっ!」」

 マリィさんに被せる様にハリィが言い放つ。


「はっ、利子を払うのがやっとのお前に借金を払い終える事が出来るか?

 無理だろう?

 お前も親離れしてマリィを自由にしてやれ。

 ああ、それからな、毛皮の卸は別の奴にしたからな。

 明日からは別の商売を考えるんだな。

 ワッハッハッハッハッ!

 また明日来る。

 それまでに覚悟を決めておけ。」

 高笑いしながらガルゴンが去って行く。


 改めて家の中に入りながら事情を聞いた。

「借金自体は金貨十枚だったんです。

 夫がダンジョンで亡くなり、それまで営んでいた毛皮屋の運営費として借りました。

 そしたらみるみる間に利子が膨れ店や家を取られてこんな見窄らしい生活に落ちました。

 私も身体が丈夫な方ではなく、ハリィが毛皮を仕入れて売ってきてくれる利益から細々と生活してたんですけど…うっうっ…。」

 マリィさんが感極まり泣きだした。


「だっ、だから僕がダンジョンに入って魔獣の毛皮を取ってくるから、そしたら利益も倍になるから…いや魔石が取れるから三倍にはなる筈だよ。

 だからお母さんは心配しないで。」

 ハリィがマリィさんの肩を抱く。

「ハリィ、それはダメだと何度も言ったでしょ。

 あなたもお父さんと同じ様に死にたいの?

 お父さんの死に様は悲惨だったと聞くわ。

 最後は魔獣に喰い散らかされながら死んだの。

 ハンターは派手だけど常に死と隣り合わせの世界なのよ。

 あなたには死んで欲しくないわ。

 私があの親分に身を捧げたらいいだけなのよ。

 そしたらあなた達もいい生活が出来るかも知れないでしょ?」

「ダメだっ!

 それだけはダメだっ!

 お母さんもあのハゲオヤジの噂は聞いてるでしょっ!

 最初はいいけど、女に飽きたら直ぐに奴隷商に売るか娼館に売るって…。」

「知ってるわ…でもね…あなた達の幸せの為ならお母さんはどんな事にでも耐えられるわ。」


「でもっ!

 …………」


 俺は萌美に目配せして、そっとハリィの家を後にした。




 その夜、萌美の夢に出て。

「萌美…ハリィ君を助けたいか?」

「うんっ!

 助けたいっ!」

「かなり乱暴な方法になるし、ハリィ君にはもう会えなくなるかもだぞ?」

「構わないわ。

 ハリィ君はいつか立派な商人になって私を探すって言ってたから、いつか会えるから…。」

「分かった。

 計画はこうだ…………。」

 俺は萌美に翌日の事を依頼して眠りに付いた。



 翌日、俺はピーの身体からランクルに乗り換えてバッケンの居るハンターギルドに横付けした。

『おおぉーいっ!

 バッケンさんは居るかいっ!』

 大音量でギルド内に喋ると慌てたバッケンが直ぐに出て来た。

「何事かと思えばゴーレム車さんかいっ!

 何用だ?」

『ちょっと乗ってくれ。』

「いっ?

 アンタにかい?」

『なんだ?

 怖いのか?

 大丈夫だ別にとって食おうって訳じゃ無い。

 相談があるんだ。』

「相談?

 ま、まぁいい乗ってやるよ…。」

 助手席側のドアを開け、バッケンを促し乗ったらすぐに発進させた。

「うをっ!

 は、速いな…。」

『すぐ慣れる。

 ところで、相談なんだが…ハリィって獣人の子供を知ってるか?』

「ああ…知ってる…ウップっ!」

『なんだ?

 酔ったのか…仕方ないな…。』

 俺は適当なところに停車してから本題に入った。




 その夜…防壁都市セガンの郊外にある屋敷の前に萌美を乗せてランクルでやって来た。

 大きな屋敷だ、門の中には大きな庭があり、その奥に二階建ての建物がある。

 夜にも関わらず庭には煌々と光りが溢れていて昼間の様に明るい。

 屋敷の主人が暗いのが嫌いだそうでエネルギーの無駄遣いながらも明かりを付けているそうだ。

 こんな環境では使用人も落ち着いて眠れなく、体調を崩して辞めていく使用人も後を絶たないらしい。


『萌美…行くぞっ!』

「はいっ、パパッ!」

 俺はランクルのエンジンを目一杯吹かして門に突っ込んだ。


 モフモフは俺が守るっ!



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