第8話 ハリィの家
「…でね、ハリィ君が銀貨一枚くれたんだ。
ハリィ君も銀貨一枚…銀貨一枚あったらお腹いっぱいパンを食べられるからって…。
ご飯食べられなかったら辛いよね…。
パパ…このお金、ハリィ君に返した方がいいかな?」
宿に入るなり俺に向かって来て、少し悲しそうな表情の萌美が今日あった事を話した。
そんな萌美に俺は首を横に振る。
「ピッピッ(ダメだ、一度男が出した物を返すなどと失礼だ。)」
「そうだよね…。
返すにしてもハリィ君の家知らないし、あっそうだお金の代わりにお土産にあったメロンゼリー上げたらダメかな?」
確かにメロンゼリーはいっぱい買ったな、でもそれは恵子が好きだから沢山買ったんだよな…でも、まっいいか…いくらお土産用といってもいつかは腐ってしまうから少しは食べても怒られないだろう。
「ピッピッピッ(ああ、いいと思うぞ。明日にも持って行ってやりなさい。)」
首を縦に振ると、
「ありがとうパパッ!
今から持って行くねっ!」
言うが早いか萌美が部屋から飛び出した。
「ピッピピピッ(ま、待てっ!ハリィの家知らないだろうっ!)」
萌美を追って行くとランクルから器用にお土産の箱からメロンゼリーのパックを取り出した。十二個入りの奴だ。
それを脇に抱えるとさっきまでいた露店まで一気に駆けつけた。
上空から見ると、まだ昼過ぎだから露店商達は沢山いる。萌美と顔見知りも数組いたようで、ハリィの住所を聞いて回って、
「ああ、ハリィかい…アソコの先のゴミ屋敷裏の小屋だよ。」
親切な獣人のおばさんが教えてくれた。
早速ハリィの住む小屋に…小屋?…壁に見立てた板切れが囲う…屋根?みたいな板葺きの揶揄ではなく吹けば飛ぶような小屋モドキの様な物の中に三人の獣人が肩を寄せ合っている。
「あ…の…ハリィ君のお宅でしょうか…?」
ノックしたら壊れそうな扉を模した何かの前で萌美が小さな声をだす。
「えっ?
モエミッ?
良く来てくれたねっ!
入って入ってっ!」
小屋モドキの中から気付いたハリィが出てきた。
「う…うん…。
お邪魔します…。」
萌美が恐る恐る中(外から丸見えだが)に入り、
「あの、これ今日のお礼に…。」
メロンゼリーの箱を渡す。
「えっ?
あ、ありがとう…でも、今日は僕の店を手伝ってくれたのはモエミでお礼をするのは僕の方で…。」
メロンゼリーの箱とモエミを交互に見ながら戸惑うハリィ。
「ピピピッ(貰っとけ)」
萌美の頭の上に止まりながらハリィに言う。
「あっ、パ…ピーちゃん。
付いてきたんだ?」
「えっ?
あなたがピーチャンさんですか?
モエミと一緒にこの街を助けてくれた…?
あ、ありがとうございます。」
ハリィが頭を深々と下げた。
そう言えばハリィとは初めて会う、モエミの頭上から街を見て回ってる時は周辺の男達を威嚇していたからな。
そして、小屋モドキの奥を見ると少し震えながら萌美と俺を見る美しい狐獣人の女性と少女がいた。
「ピッピピピッピーッ!(モフモフ天国やぁーっ!)」
ハリィ君と同じようなモフモフ尻尾で狐耳の美女と美少女が肩を抱き合いながらコッチを見ている。
「あっ、僕の母と妹です。」
「ハ、ハリィの母のマリィです。
この子は妹のミリィです。
汚い場所ですが、どうぞ中へ…。」
遠慮なく中に入り、
「キャッ!」
マリィさんのモフモフ尻尾にダイブした。
身体全体をモフモフ尻尾に埋め至福の時を…
「パパァ!
ママに言うよ!」
萌美が怖い顔をして俺を睨んでいる。
「ピッ!(はっ!)」
モフモフ天国が目の前にあったから我を忘れてしまった。
「ピピピッ!(ゴメンなさい!)」
萌美の頭の上に移動してからマリィさんに頭を下げた。
「い、いえ…コチラこそ…こんな汚い場所で…すみません…。」
まあ、確かに…は…はっ…
「ピチュンッ!(ハックションッ!)」
いかんっ!クシャミと一緒に風魔法が…。
グラッ…グラグラッ!
辛うじて柱と呼べるものが軋み崩れ始め、
「「危ないっ!」」
ハリィ君が萌美を、マリィさんがミリィちゃんを庇う。
俺は全員の周りに防御魔法でバリアーを張る。
ガラガラッバギッズボンッ!
屋根らしきものも全て壊れてバリアーの周りに落ちた。
周りのホコリが落ち着いてからバリアーを解除して外に出る…どこからが外か分からないが。
「ピピピッピーピッ!(すみません、お住まいを壊してしまって。
直ぐに直しますっ!)」
そして…
「ピピピッ(土魔法アンド錬金)」
ズズズズッ!
萌美やハリィ君が呆けている隙に土魔法で家の外壁を作り上げ、錬金魔法で木材を再加工して家具を作った。
ついでに壁はちょっとやそっとでは壊れない様に補強しておいた。
その間、約五分。
うん、まずまずの出来だ。
さっきの小屋モドキ十個分の大きさの家が目の前に出来上がった。
周りはゴミだらけの土地だから多少は構わないだろう。
「はぃ?
パパ…何したの?」
「ピッピピピッ(ん?ハリィの家を直しただけだ。)」
「あ…あの私達の家がなくなってしまいましたが…。」
マリィさんが悲しそうに元小屋モドキの場所をみる。
「ピッピッピピピ(まあまあ、こっちに来て。)」
マリィさんを玄関ドアに手招き…羽招きしてドアの横の表札を見せる。
マリィ、ハリィ、ミリィ
覚えたての異世界文字で表札に名前を彫ってみたのだ。
「えっ?
これは私達の家?」
「ピッ(はい。)」
萌美の頭の上から頷き、左の羽を開きマリィさんをドアに誘導する。
ガチャ
恐る恐る中に入るマリィさんとハリィ君とミリィちゃん。
中は個室を三部屋とリビングとキッチンと風呂場とトイレを作った。
個室はそれぞれ四畳半くらいで、リビングとキッチンは合わせて十二畳くらいかな。
鍋やフライパンなども備えている。
ちゃんと水道もあるから蛇口をひねると水が出る様にしてある、水源は真下に井戸を掘って地下水を汲み上げている。
細いパイプを通してあるから地下水の水圧でもかなりの量の水が湧き上がる。
トイレはこの世界ではポピュラーなスライム浄化方式だ。
まあ、トイレの下の穴にスライムを住まわせているだけで排泄物をスライムが分解してくれるそう。
もちろん個室にはそれぞれベッドを備え付けて、タンスや机もある。
「こ、これが私達の家…?
え…?
本当に?」
マリィさんは未だに信じられないようだが、
「わあ〜い、お風呂があるぅ〜」
ミリィちゃんが家の中を見回ってはしゃいでいる。
「ピーピッ(はい、家を壊してしまったお詫びです。)」
萌美の肩の上から頷き、
「多分ピーちゃんのお詫びですよ。
クシャミで家を壊したから。
ピーちゃんって加減を知らないからちょっと大きく作っちゃって。」
その通り。萌美、良くできました。
「ありがとうございます。
なんて言っていいか…ありがとうございます。」
マリィさんが涙を流しながら礼を言う。
「お礼はいいですよ…元々はピーちゃんが悪いんですから…。」
「おうっ!
なんじゃこりゃぁっ!」
外から聞き覚えのある野太い声が聞こえたので外を見ると、借金取りのガルゴンが下っ端を引き連れて家の前に来ていた。
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