第7話 ハリィ
「ハリィ君っ!
お待たせっ!」
「ううんっ!
僕も今来たところだから…。」
萌美が手を振りながら男に声を掛けている。
アイツがハリィかぁぁぁ!
見たところ萌美より少し年上くらいの少年だ。
線の細い色白で…ん?頭に耳がある…狐っぽい耳が…。
もしかして…やっぱり、後ろには狐尻尾があるし…。
この子は獣人族の子供か。
くっ…ここはしばらく様子を見るか…。
俺はラノベ特有の獣人に憧れていたんだ、この街にも獣人が居るのは知っていたが、俺が見たのは全てゴツいオッサン獣人でこんなフワモコな獣人は初めてだ。
俺が人間の身体なら抱きしめてモフモフしてたところだ、モコフワは正義だ。
「さあ行こう。」
ハリィが萌美の手を取り一緒に走りだす。
「ピッ(くっ!)」
今は我慢我慢…。
お….俺は認めんぞ…恋人などはまだ早い…。
こっそり離れた位置から尾行すると、なにやら露店が集まる場所に来た。
萌美とハリィはその一角の中の一坪程に区切られた場所に着いた。
そこは既に荷物が幾つも置かれフリーマーケットの露店に似ている。
「おじさんありがとう。」
ハリィが隣りに居る白髪の爺さんに礼をすると爺さんは無言で片手を上げた。
なるほど、ハリィはこの爺さんに留守番を頼んだんだな。
取り敢えずはコミュ症では無いようだ。
まぁ、萌美と仲良くなるんだからコミニュケーションは大丈夫だろう。
しばらくすると準備が整ったのだろう、ハリィと萌美が元気よく声を張り上げる、
「はいっ!
らっしゃいっ!らっしゃいっ!
今日は魔獣の毛皮が安いよっ!
ホワイトイエティの毛皮が初入荷したよっ!」
「いらっしゃいませっ!
安いよっ!」
ハリィの掛け声の後に続き萌美も声を張る。
も…萌美…いつの間にこんなに成長したんだ…。
ぐすっ…
パパは嬉しいよ…恋人はまだ早いけど…。
まだ早い時間帯だが客も多く居て賑わいがある。
露店自体は各種あり食い物の屋台等が半分くらいを占め残りが生活用具や衣料の店だ。
その中でもハリィの店は毛皮を扱うからか結構人気だ。
順調に商品が売れている。
萌美も金のやり取りも危なげなくしており感心だ。
ちょっと前までは引き算が苦手だった子が…ぐすっ…。
ハリィの店の商品は昼前には売り切れて店仕舞いするよだ。
今日一日でかなりの売り上げがあった筈だ。
こいつ…侮れない…。
一応家族を養う術は持っている訳だ。
もしこいつが萌美を嫁にくれと言って来たらどうしてやろう?
どうやって萌美を養うんだっ!て聞いたら、『商売人ですっ』
て言うだろうな。
ならば俺との勝負に勝ってからにしろっ!
『お義父さんに手を上げる事なんてできませんっ!』
誰がお義父さんだっ!
『パパやめてっ!
私のお腹にはハリィとの子供が…』
『えっ?
モエミっ!
本当かっ?
やったぁ〜っ!
お義父さんっ!
良かったあぁぁぁぁっ!』
も…萌美本当なのか…萌美…。
萌美が優しくお腹を摩り…。
『お義父さんっ!
僕はモエミを愛してますっ!
さっきの申し出受けます。
お義父さんを倒してでも萌美とお腹の子を守りますっ!』
萌美…。
『お義父さん僕と…いや俺と勝負して下さいっ!
必ずお義父さんに認めてもらいますっ!』
ふっ、ハリィ…萌美を幸せに出来るか?
『…約束は出来ませんが、努力します。』
ふんっ、今はそれでいい…萌美を頼むぞ…。
『はいっ!』
『パパっ!大好きっ!』
萌美ぃぃぃぃっ!
「きゃっ!」
いきなり萌美の小さな悲鳴が聞こえた。
ん?なんだアイツら…俺の萌美妄想を邪魔しやがって。
いつの間にかハリィの露店の周りに人相の悪い奴らが取り囲んでいる。
萌美はそいつらの一人から押しのけられたようだ。
「ハリィ、今日の稼ぎはどうだ?」
人相の悪い奴らの中でもより一層厳ついやつがハリィに手を出す。
「はい、ガルゴンさん今日はこれだけです。」
ハリィが今日の売り上げの入った革袋全部をガルゴンに渡す。
「ほう…中々なものだな…。
ではこれが今日の報酬だ。」
売り上げの半分をハリィに渡す。
それでもかなりの銀貨がある。
「で、借金の利子がこれだけ溜まってるから…。」
ハリィに渡した銀貨からゴッソリと抜くガルゴン。
結局はハリィの手元には銀貨二枚しか残らなかった。
「ハリィ…」
奴らが去った後、萌美はハリィにこれ以上の声を掛けられなかった。
「よ、良かったぁ、今日は銀貨二枚もあったんだから…。
これでお母さんと妹にご飯を買って行けるよ。
萌美ありがとう。
今日の稼ぎの半分は萌美のものだからはいっ!」
ハリィは銀貨一枚を萌美に渡す。
「い、いやコレはハリィ君の…」
「モエミ、コレは正当に働いた報酬なんだ。
だからモエミが受け取る義務があるんだよ。
だから受け取って…。」
「はい…。」
萌美が涙目になって受け取る。
「だからね、モエミ。
僕は必ず借金を払い終えて自分の店を出す。
その時にも僕の店を手伝って欲しい。
そして必ず君にふさわしい僕になるから。」
「う、うん…。
で、でも私たちはこの街にいつまでも居ないの…。
直ぐに旅立つの…。」
「大丈夫だよ。
将来僕は大陸中に名前を轟かす大商人になるから。
必ず君を見つけ出すから。」
「うんっ!」
萌美が涙目になりながら嬉しそうに笑う。
「その第一歩に明日からダンジョンに潜って魔獣の毛皮狩りだっ!」
「ハリィ君…毛皮は卸して貰った方がいいよ…。
危険だよ…ダンジョンは…。」
「でも、自分で狩った方が儲けも大きいからね。
この前のスタンピードで危険な魔獣がほとんど居なくなったから随分楽になったって言ってたんだ。」
「誰が?」
「ハンターのババァさんがだよ。」
「ババァ?」
「うん、僕に毛皮を卸してくれるハンターさん。
凄く大きな身体だけど毛皮を傷付けない様に解体する技術はピカイチなんだよ。」
ハリィは笑いながら店仕舞いを続ける。
ハリィええ子や。
泣けてきたわ…。
でも、萌美はやらん。
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