第6話数日経った

「モエミ〜迎えに来たよ〜」

 宿の部屋の前から声が掛かる。

「うんっ!

 今行くっ!

 じゃあねっ、パパ行って来ますっ!」

 頭には小鳥をモチーフにしたカチューシャをした萌美が元気に出て行く。

「ピーピピピッ!(行ってらっしゃい。)」




 萌美とこの街に滞在して既に三週間が過ぎた。

 異世界に一週間と言う概念は無かったが、取り敢えず車にあった俺のスマホのスケジュール管理アプリで一週間と一カ月間を区切り生活する事にした。

 元々この世界にも季節や暦は存在していて、月単位は日本に似ている。

 それに週と言う単位をバッケンに提案したら気に入ったのかギルドで採用する事になり日曜日は休息日に制定された。

 そして、今日は日曜日で萌美がこの宿"天狼飯店"(何故か中国読み?)の看板娘のチコリちゃん(九才)に誘われて遊びに行った。


 萌美も年の近い友達が出来て嬉しい。

 最初は人見知りしていたチコリちゃんも萌美のグイグイ入っていく性格に諦めたのかいつの間にか仲良くなってくれている。


 この街に来た最初の頃は四六時中萌美の頭の上に居座り周りを警戒して萌美に近づく男達を牽制してあたり構わず魔法で蹴散らしていた。

 そしてそれを見ていたバッケンに、

「おいっ!

 ピーッ、ちょっと来い。」

 怒り顔で呼ばれて、バッケンの腕に飛び乗った。

「ピピピ?(なんだ?)」

「おいっ、お前さんがモエミの事を心配なのは分かるがな、もう少しモエミの事を信用してやれ。

 このままじゃ友達すら作れ無いぞ?

 この街の連中は気の良い連中ばかりだ、それにこの街を守ってくれたモエミに危害を加える奴が居たら街中の者が守るから安心しろ。」

「ピーピッ!(わ、分かったよ)」

 確かにバッケンの言う通りだが、親バカで子離れ出来て無いのは重々承知しているが、異世界に来て二人っきりの親子でもし、万が一億が一萌美が居なくなったらと考えたら俺の小さな身体が張り裂けそうになる。

 近くでバッケンと俺のやり取りを見ている萌美の方を向くと通りを過ぎる同い年位の子供達をチラチラ見ながらも俺を気にしていた。萌美なりに俺に気を使っているようだ。

「ピーピッ(はぁー。)

 ビッピーッ(そうだよなぁー)」

 はぁー、分かってたんだ…この街に滞在している間だけでも…。

 俺は渋々バッケンの言う事に頷いた。



 でも、親バカの俺は諦め切れずに萌美の為にでき得る限りの防御を施す為に日夜魔法を研鑽して遂に錬金術を会得した。


 この世界に来て魔法を取得してからいつも思っていたが、魔法はイメージの産物であると。

 イメージ…つまり想像力とそれを成しうる知識だ。

 例えば氷を作る過程で気温が三十度の時に水を凍らせようとするとまずは水をタライなどの限られた空間に入れ周りを結界魔法で覆い、その周りの気温をマイナス以下にしなければならない。

 その為には水魔法で出した水を重力魔法で圧縮してから小さな穴からその圧縮水を放出して水を気化させ周りの気温を奪う。

 その奪った気温を結界魔法の外に放出して中の気温を下げ、マイナス以下にして水を氷にする。

 んで、これを踏まえてから一気に手順をすっ飛ばして近場の滝に氷結魔法をイメージしたらあっさりと氷瀑が出来た。


 風魔法に重力魔法で気圧を掛けたら竜巻が起こってバッケンに怒られた。


 土魔法に憑依魔法や重力魔法を掛け合わせる実験をしていたらいきなり、

 ピコンッ

『錬金魔法を取得しました。』

 いつもの声が聞こえて新たな魔法を取得したのだ。



 で、萌美の頭には俺が作ったカチューシャがある訳で。

 錬金魔法と火魔法と水魔法と土魔法と重力魔法と憑依魔法と…覚えた全魔法を混成した魔法を付与した魔道具だ。

 まぁ、簡単に言えば萌美を護る為の護符のような物。

 最悪もし萌美が危険な目に遭った瞬間に俺がその場に召喚されるようになっている。

 それ以外は簡単な電撃魔法や火魔法で暴漢を撃退するのだ。




「それでねぇ、ハリィ君がねえ白い毛皮を見せてくれたの?」

 ん?ハリィ君?誰だ?

 嬉しそうに今日あった事を俺に説明してくれる萌美の言葉の半分くらいから頭には何も入らなくなった。

 ハリィ君だぁ?

 君と言うからには男か?

 萌美に色目を使いやがって…。

 俺が直々に成敗してくれる…!


「ねえパパ聞いてる?」

「ピッ?ピピ…。(ん?ああ…。)」

「やっぱり聞いて無い…。

 もういいっ!

 パパ嫌いっ!」

 萌美が怒ってベッドに潜り込んでしまった…。


 パパ嫌い…パパ嫌い…パパ嫌い…パパ嫌い…


「ピピピピピピピピピピピピピィィィィィ!(ウォォォッ!

 おのれハリィィィィィ〜!

 お前のせいで萌美に嫌われたぁぁぁぁっ!

 この恨みはらさでおくものかぁぁぁぁぁっ!)」

「パパうるさいっ!」

 ベッドの中から怒鳴られてしまった…。




「パパ行って来ますっ!」

 頭には小鳥をモチーフにしたカチューシャをした萌美が元気に出て行く。

「ピーピピピッ!(行ってらっしゃい。)」


 一晩経って萌美も機嫌を治してくれて、今日は一人か遊びに行くのだ。

 宿の看板娘のチコリちゃんは朝から宿の手伝いがあるので一緒には行けない。


 よって俺がこっそり後を尾ける。


 …ハリィィィィィ思い知らせてやるぞおぉぉ。

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