ピピピッ!

第5話

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 …………。


 …俺は夢を見ているのか?




 スタンピードの報が入ったのは昨日の夕方だ。北方面の魔獣の森から大量の魔獣が何かから逃げる様にこの町方面に来ていると。

 先日も、北に生息するロックタートルキングが消滅したと報告があったばかりだ。

 あの、ロックタートルキングが消滅したと言う事はにわかには信じられないので、事実確認を数人のハンターに依頼をした。

 ロックタートルキングは一言で言えば災害級の魔獣だ。昔は岩山の様なヤツの移動する先に街があれば全員が避難してヤツが通り過ぎるのを待つだけだった。分厚い岩で出来た外殻には攻撃が全く通じないから。

 そして何も無くなった更地にまた街を作るのだ。


 今回のスタンピードはロックタートルキングの消滅に関連しているのかも知れない。


 それよりも、今、目の前で起こった事の方が重要だ。


 俺はこの町の統治責任者としてハンターギルドも預かっている。なのでスタンピードに対応する為に屈強なハンターを約百名集めてスタンピードを迎え討つつもりだった。

 スタンピードの魔獣の数は約千匹、一人当たり十匹だ…流石に死ぬ…。一人一匹ならばなんとかなるだろうが、その十倍だ…だが、逃げる訳にはいかない。

 町の住民が全て隣町まで避難が完了するまで時間稼ぎしなければならないのだ。


 外壁を背に魔獣を待つ、軽口をたたく奴は誰一人としていない。

 それはそうだ、誰もが死を覚悟して挑んでいるのだから。死の恐怖に負けて逃げ出さないだけでも大したものだ?


 そんな中、女の子が俺の側に来た。

 こんな最前線に女の子が居る事が不思議でならなかったが、先日から外壁横で身分証明を待つ女の子とゴーレム車がいた事を思い出した。

 そしてその女の子が魔獣の露払いをすると言う。

 この娘の頭は大丈夫か?と思い頭を見ると頭上に鳥が座っている。

 不意にその鳥が口を開けたと思ったら口から光が出て首を振る…数秒後。

 ズドドドドドドドドドドドドドッ!

 見える範囲の魔獣が一気に焼け、殲滅された。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「それでは、失礼します。」

 萌美が静かにその場を後にしようとすると、惚けから復活したハゲのリーダーが、

「おいっ、その頭の上の鳥はなんなんだ?

 いきなり光を出したと思えばこれだ…。

 お嬢ちゃんはテイマーか?

 しかし、小鳥があれだけの魔獣を一瞬で…。」

「はい。

 この子はピーちゃんです。

 私の大切な友達…。

 とっても強いの。

 でもね、パパからあまり目立つなって言われてるから…。

 この街から直ぐに離れないといけないの。」

((((((充分、目立ちまくってるがなっ!))))))


 周りのハンターの心の突っ込みがはもった。


「あ、ああ。

 分かった。

 しかし、俺も街を守って貰った恩がある。

 礼もしたいから付いて来てくれまいか?」

 ハゲのリーダーが子供である萌美に向かって頭をさげる。

 周りの武器を持った男達もそのハゲの仕草に驚いていたが、

「そうだぜ、俺達は死ぬ覚悟で出て来たんだ。

 家族にも別れの挨拶をせずにな…それが…グスッ…お嬢ちゃん…ありがとうな…恩にきる…グスッ…。」

 ハゲの隣に居た身長二メートル位の大男が泣きながら萌美に礼を言う。


「パパ…どうしよう…。」

 頭の上から腕に移った俺を萌美が不安そうに見る。

「ピッピッ(世話になるか)」

 頷きながらハゲを見て羽ばたく。


 俺たちはあまりにもこの世界の事を知らな過ぎる。

 なるべくならこの街で情報を仕入れてから恵子を探した方がいいだろう。

 それにこのハゲや大男たちは悪い人間には見えない。

 不意に現れた得体の知れない女の子を邪険にせずにちゃんと対応してくれたしな。





 門から中に入れて貰い、ハンターギルドと言う建物に案内された。


 街中は人っ子一人居なく、とても静かだ。


「今はまだ避難した連中が戻ってないからな。

 もうすぐ戻って来るから賑やかになるぞ。」

 キョロキョロする萌美にハゲ…バッケンさんが説明してくれた。


 …あの後、魔獣たちの全滅を確認してから街に連れて来て貰った。

 それぞれ自己紹介してもらい、ハゲ改めバッケンさんはこの街の統治者の様な役目の人だそう。

 そしてありました…ハンターギルドが…全転生者、転移者の憧れのハンターギルド。


「ピピピーーーッ(ウォォォォーー)」

 思わず興奮して叫んでしまった。


「ど、どしたのピーちゃんっ?」

 萌美が驚いて頭上を見る、と同時に滑り落ちる俺。


「おっと…。」

 落ちる俺を慌てて手を伸ばして手の平で受け止めてくれるバッケンさん。二人は見つめ合い…ハゲ頭がキラリと光る。

「ピーピッ(まぶしっ!)、ピッピピピ(助かった)。」


「なあ、お嬢ちゃん…この鳥って人の言葉が分かるのか?」

 バッケンさんが萌美にハゲ頭を…いや顔を向ける。

「はい、とっても頭がいいの。

 パ…ピーちゃんっていいます。」

「そ、そうか…あの怪光線はどんな時に出るんだ?

 お嬢ちゃんが指示するのか?」

「え…えと…」

 困ったように俺を見る萌美。


「ピーピピピーーーッ(このハゲっ!萌美を困らすなっ!)」

 バッケンの頭乗り、ハゲ頭を啄んでやった。

「イテッイテッイテッ。

 わ、分かったから止めてくれ。」

 ハゲ頭のてっぺんあたりに赤い点々が浮かび上がる。


「ピッピピピ(今日はこれくらいにしてやる。)」

 萌美の頭の上に戻り踏ん反る俺を見て、

「ピーちゃんと言ったな、悪かった。

 これ以上は詮索はせん。

 改めてこの街を守ってくれてありがとう。

 助かった。」

 俺と萌美に深々とお辞儀をするバッケン。


 なんか俺が悪役になった気分。


「ピ…ピピピッピッ。(ま…まあ、いいって事よ。)」


 ハゲ頭を上げたバッケンが真面目な表情で、

「それでだ…お前さん達…モエミだったな、行く宛はあるのか?」

「…はい、ママを探します。

 必ずこの世界の何処かに居る筈だから。」

「そうか…モエミの事情は俺には分からない。

 だが、急ぐ旅では無いならばしばらくはこの街に滞在してくれ。

 宿は俺が用意する。

 その間にモエミのママの情報を出来るだけ集めてみよう。

 どうだ?」

 俺としたら願ったりだ。

 この街に居る間は安全性が上がるから、その間に出来るだけ情報を仕入れたい。

 恵子の情報も出来るだけ知りたいが、恵子の写真は無いしな…いやっ、俺のスマホに確かあった筈…そう言えばスマホどこだ?



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