第4話 異世界の街(ファーストコンタクト)

「キャーッ、速い速いっ!

 パパッあそこっ!

 シカかなっ?」

 助手席に座った萌美がはしゃぎながら道中の車窓から見えたモノを教えてくれる。

『萌美、危ないからちゃんと座ってなさい。』

「はあーい。」


 憑依している最中のインコの身体はプーと一緒に鳥籠に入っている。


 憑依により車になってからカーオーディオから声を出す事が出来る様になり、萌美と意思疎通出来るようになった。


 しかし、車の制御以外の事が出来ない。火魔法や水魔法はインコの身体でないと使えないようだ。


 俺の視界はドラレコの視界と同じでフロントとリアと車内の三箇所を同時に見る事が出来る。

 最初は戸惑ったが、慣れるとフロントをメインに意識して車内とリアを意識の外に置くと違和感が無くなった。


 しかし、既に百キロは走っているが動物は見るが人には遭遇していない…道なき道…草原をずっと走っているからかな…。

 萌美もガタガタ道でお尻が痛そうだし。

 走る方向はカンで南に向かっている、この世界に磁界があるか分からないけど磁石が南を指したから一応。


「ねえっ!

 パパっ!

 アレっ、町じゃない?」

 そうなのだ、萌美が指す方には建物が立ち並ぶ風景が見えてきた。


『そうだな、町みたいだな。

 行ってみようか?』

 萌美に聞くまでもなく行くけど、萌美が怖がったりしたら…、

「あったり前じゃない。

 ママも同じ事言うわよっ!

 絶対ママも見つけるんだからっ!」

 恵子のアグレッシブさは確実に遺伝しているな…。




 程なくして町に到着した。

 俺は感動している。ラノベの世界観そのままの町だから。

 町をぐるりと覆う街壁、門に集まり入場を待つ人々、商人の物らしき馬車。

 うーん俺を裏切らない中世ヨーロッパ仕様。

 やっぱりこの世界にも魔獣とかいるのかな?そして冒険者ギルドとかあったりして…。


 期待に胸を膨らませて入場の列に並ぶ。

 が、周りからの視線が痛い…。

 し…しまったぁぁ!

 俺は今は車だったんだぁぁっ!

 はっ、そうだ萌美は…もう目をキラキラさせて車窓から外を見てるし…。

『萌美、いいかい…これから言う事を良く聞くんだ。』

「はいっ!

 パパっ!」

 あっ、これは聞く気が全くない時の反応だわ。

『萌美っ!

 ちゃんと聞きなさいっ!』

 少し声を荒げる。

「はいっ!」

 萌美が座席の上で正座する。

 まあ、いい。

『まずは、言葉が通じるかが問題だが…。』

「それは大丈夫だよ。

 さっきから聞いてたら日本語みたいだったから。」

『へっ?

 本当に?』

「うんっ、周りにいる人の話はわかったよ。」

 リアカメラに意識を移すと確かに俺の周りに人々が集まっていた。

『確かに…なら余計にだ…。

 この車はゴーレムで家にあった物を持ち出した。数日さまよい迷子になった。行方不明の母を探して旅をしている。

 って言う設定でいくからな。』

「うんっ!

 分かった。」

 俺は一抹…いや、かなりの不安を抱えて順番を待った。この設定自体穴だらけで、突っ込みどころ満載だ。

 どかぞの大金持ちの家でもこんな車を持って無い筈だぞ、しかも小さな女の子一人旅。怪しさ満点。俺が門番なら絶対に中には入れないだろう。

 あとは、ラノベ特有のご都合主義を祈るしかない。




「この馬車はどうして動かすんだっ!」

 案の定門番から詰問された。

 萌美も怖がってるし…

『あの〜、この車の魂ですがちょっといいですか?』

「うおっ!

 どこから声がっ!」

 門番がうろたえる。

『すみません。

 このゴーレム車の魂です。』

「ゴーレム車?」

『はい、私はこのゴーレム車を動かす魂です。

 ですから、中のお嬢様にはどうして動くかは知りません。

 お嬢様は世間知らずで何も知らずに私に乗って旅をしているのです。

 身分を証明するには何が必要でしょうか?

 お嬢様と私は気付いたらこの地に居ましたので身分証明書は持っておりません。』

「うーむ、不思議な…。

 だが、身分が分からない者を町には入れられんからな…。

 しかし、犯罪者で無ければなんとかなるが…。

 犯罪履歴の照合だけしたら入れるか…。

 よしっ、すまんが二、三日まってくれ。

 俺がなんとかしよう。」

『はい、構いません。

 街壁の隅でも貸して頂ければそこで待ちます。』

「なら、あの隅で待ってくれ。

 中のお嬢さんには不自由かけるが、これも規則だからな。」

『はい、ありがとうございます。』

 この世界の人は話が通じる人みたいだ。

 とりあえずはコミニュケーションは取れる。

 後はモラルがどの程度かだ…。

 いきなり襲いかかる蛮族ならば殲滅するしかなかったけど、対話が出来る人種がいるなら萌美を車外に出しても大丈夫だろう。


 萌美を車外に出す時には俺はインコに戻り萌美の頭上から目を光らせ萌美に危険が無いか見張る。




 その日から俺と萌美は町の話題になっていた。

 可愛い少女が得体の知れないゴーレム車で来て、街壁の隅でキャンプをしているのだから。

 時折り件の門番の男が様子を見に来てくれ、

「俺にもこの子と同じくらいの子供がいるんだ。

 ………。」

 世間話のついでにこの世界の事も教えて貰った。


 昼間は萌美が行き交う人々に話しかけて情報を仕入れてくれた。


 まず、この国はセグリッドと言い、王国制を導入敷いている。

 この町は王都から約二十日程離れた町でセガンと言う。この町は街道の要所になる町らしい。

 そして、やはり魔法が文化の要になり魔獣が郊外に存在して、それらを狩るハンターギルドがあるそうだ。

 貨幣は銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨があり普通の宿屋に宿泊するのに銀貨五枚が一般的で、食堂での食事は銅貨五枚から。

 貨幣価値はよく分からないが、ラノベ基準に近いかな?




 そして、二日が過ぎた…。


 この日は不思議と街道に人影が全くなく、街壁内の街中が慌ただしく思えた。


「おいっ!

 あんたたちも早く逃げろっ!

 スタンピードが発生したみたいだっ!

 じきに魔獣がやって来る。

 国からの援護も間に合わない。」


 いつもの門番がわざわざ言いにきてくれた。

 しかし、中には入れてくれないようだ。いや、入っても同じだから早く逃げろと。街そのものが潰されてしまうから…。




 そして、凱門が開き中から如何にもな男達が出てきて陣形を組む。


「よおーし、一丁やるかぁー!」

 一際大きな筋肉質でスキンヘッドの男が叫ぶ。

「おぅっ!

 そこのお嬢ちゃんとゴーレムは早く逃げろよ。

 襲われても助ける余力がないかもしれんからなっ!」

 この世界の魔獣とかにも興味があるが、萌美を守る為には逃げるに限る。

『萌美、逃げるぞ。』

「パパ…チャンスよ。」

『はい?』

 この娘は何を言ってるんだ?

「この町を救ったヒーローになったら後はテンプレでやりたい放題になる筈よ。

 さあ、チート魔法でレッツゴーッ!」

 待て待て待てっ!

 そういえば、こいつも深夜アニメの異世界物を見てたんだった…。


『いや…モエちゃん…良く考えてみようね。

 今、パパが魔法で魔獣を倒したとしますぅ。

 次にはもっと沢山の魔獣を倒してくれと頼まれますぅ。

 しまいには、そんな力があるならみんなの為に使えと無理強いされますぅ。

 断ったら悪人にされますぅ。

 この国に居られなくなりますぅ。

 さて、どうしたらいいでしょうか?』

「うっ、やっぱり逃げる…。」

『はい、正解。

 だから、無闇やたらと力を誇示したらダメなんだよ。

 面倒くさくなるから。』

 ラノベ読者は最悪を想定して行動するのが一番だ。

 自分にとってのご都合主義は他人にとっては側迷惑にしかならないから。


『…でも、寝覚が悪いから…ちょっとだけ魔獣をやっつけてから逃げるか。

あの門番さんにも萌美と同じくらいの子供がいるそうだからね。』

「やったぁー、パパ大好きっ!」


 そして、インコに戻り萌美の頭の上の定位置に座り込む。


 萌美にはあまり前に出ない様にいい含めてあるし、場合によっては障壁魔法があるから大丈夫だろう。


 魔獣の大群が目視できる範囲に現れた。

 様々な形態の動物たちがいる。

 動物園にいる象の倍くらいの大きさの魔獣がほとんどだ。


 緊張が走るハンターさんたちの陣形の先頭に萌美が行き、

「あの…、パパからの伝言です。

 逃げる前に露払いするから後は宜しく…です。」

「はっ?

 お嬢ちゃんは何言ってるんだ?

 それより早く逃げなさいっ!」

 ハゲのハンターのリーダーらしき人が萌美を心配してくれている。


 容姿は別にして娘を心配してくれてる人がいる事には正直に嬉しい。


 だから、俺は少しでも手助けしよう。

魔獣の強さは分からないけど、火魔法で多少は何とかなるだろう。



 萌美の頭の上から地平線に向かい水平に火魔法を放つ。


 ビーーーーーーーーーーーーーッ!


 首を回しながら見える範囲に火魔法の光線を放ち魔獣を焼いていく。


 はるか遠くだが、見える範囲が燃え上がる。

 多分魔獣だけが…。

 もしかしたら森なんかが焼けたかも…その時はごめんなさい。

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