第2話 魔法?

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


(むっ、真っ暗だわ…。)

 んんんっ微かに何か見えてきた…かな?

 ふ…ん…?

 蚊?

 もしかして…ゴキ?

 足元になんか居る…ゾワゾワするし…嫌…助けて…あなた…はっ、萌美は…どこ…?


 足元には小さな何かが蠢いていたので身動き出来ない。


 ゴキなら嫌だなぁ、踏み潰すとニュッて変な汁が出るし…。


 ようやく暗闇に目が慣れて周りが見えてきた。


 足元にいるのは…小人?人間の形をした人形みたいなものが動いている。

 わらわらと動き回ってるけど何してるんだろう?


 よく見ると私の足元に祭壇?みたいなものがあってその上に果物や動物のようなものが所狭しと並べてある、ミニチュアサイズだけど。

 私が気付いて首をもたげて顔を祭壇に向けると小人たちが慌てて逃げていった。


 なんなのよ、もう。

 まぁいいわ、まずは萌美を探さないとね。

 貴志さんと一緒に居るといいんだけど。


 ………か…身体が重い…身体が動かないわ…やばい…オシッコしたくなったらどうしよう?

 金縛では無いはず…う…ん…指先…動く…足…動くけど重い…腕…これも動くけど重い…。

 筋肉が弱ってるのかな?仕方ない…まずは体力作りと腹ごしらえかな?

 ちょうど祭壇にミニチュアサイズの果物があるし、少し頂きますか…。

 首は動くから口で直接食べる格好になるけど行儀はこの際目をつぶってしまおう。




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 萌美が最後部座席に積んでいたお土産の中からお菓子とメロンゼリーを取り出して食べている。

 ちゃんと一食分だけを取り分けて、水分は水筒に入ったお茶を飲んでいる。

 我が娘ながらよく出来た娘だ。

 しかし、両親が居ないのにしっかりしている…実際は俺が側にいるけど。


 この日は車から外に出る事なく過ごし、真ん中の座席で萌美の手の平の上で寝た。


 〜〜〜…パパ…ママ…どこ…。


 ん?萌美が呼んでる…。


 あっ!パパだ〜っ!

 どこにいたの〜っ!

 寂しかったよぉぉ…ひっぐ…うぇぇ〜ん…


 俺の胸に飛び込んで泣き出す萌美…。


 ここは?

 周りを見回すと白い靄のような世界だ。

 今日の出来事が夢で無かったらここは萌美の夢の中だろう。

 だったらやる事は一つだ。


 泣き止んだ萌美と同じ視線まで腰を下ろして座り萌美に、

「いいかい、萌美。

 今からパパの言う事をよく聞くんだよ。」

「は、はい…。」

 萌美も俺の真剣な表情に何かを感じ取ったようだ。


「まずはね、パパはインコのピーちゃんになってしまったんだ…。」

「はぃ?

 パパ?私、十歳だけど小説も読めるしスマホやタブレットも使えるから色々知ってるよ?

 パパは天国に行って、もう…あ、会えないから夢に出てくれたんでしょ…私が寂しくないようにピーちゃんになって見守るなんて嘘を…うぇ〜ん…パパ…萌美は大丈夫だから…死んだパパの分まで生きるから…。」

 くそっ!スマホの弊害がこんなところにも…。

 三歳頃からタブレットを与えていたら見る見る間に使い方を覚えてしょっちゅうネット動画を見る様になっていき、知らない言葉とか意味は検索で調べていたようだ。

「勝手に殺すなっ!

 生きてるわっ!

 本当にピーちゃんになったの。

 証拠に起きたらピーちゃんに右と左の羽の上げ下げさせなさい。

 萌美の言う通りにするから。」

「えーっ?

 本当に?」

 こいつ…こんなに疑り深かったか?

 恵子の教育の賜物だろうか…。


 まあ、それは置いといて現実の話だ。

 生き延びるための話をしなければ…。


「…………、……。

 と言う訳だ。

 後、食料と水は………。」

 俺は、七輪と炭火の起こし方、クーラーボックスに入った肉の焼き方、調理方法や米の炊き方などを説明した。

 多分半分も頭に入ってないだろうが経験すればこの時の会話を思い出し多少は間違いの修正になる筈。




 翌朝は萌美の手の平の上で目覚め、まだ寝ている萌美の顔に乗り鼻を啄みついばみ萌美を起こした。

「う〜んっ!」

 パシッ!

 ピギャッギャー!

 萌美の手が飛んできて俺を叩き落す。

 萌美の朝の寝起きの悪さは相変わらずだった、自分がインコになってるのを忘れてた。

 俺の悲鳴を聞いて萌美が起きた。

「あっ、ゴメン…ピーちゃんだと思わなかったんだ。

 いつものパパのイタズラかと…。

 ん?パパ?」

 萌美がインコの俺をジッと見る。


みっぎ上げて、ひだり上げないでみっぎ下げないっ!」

 いきなり萌美が音頭をとりながら左右の腕を上げ下げするポーズをとった。

 俺も踊る様に右羽を上げて左を上げかけてから下ろし右羽を上げたままでジッとする。


「や、やっぱり夢の中の事は本当だったんだ?

 ピーちゃんはパパ?」

「ピピッピピッ(そうだよ。)」

 萌美の肩に止まり顔を頬擦りする。

「んんっ、パパ…くすぐったい…。」

 萌美が笑いながら顔を振る。

 萌美もようやく受け入れてくれた様だ。


 それからは、萌美の頭の上に乗り朝食の用意をした。

 まずは、後部のラゲッジスペースから七輪と炭を出させて、簡易卓上ガスバーナーと炭用鍋で炭を起こさせる。


 簡易卓上ガスバーナーは元々は登山用の物だ、それに底に穴が幾つも開いた小さな鍋に備長炭を入れ火をかけ、備長炭に火入れするのだ。

 何故わざわざ炭に火入れさせるかと言うと、ガスバーナーのガスが残り少ないので炭火にして長持ちさせる目的と多少の風では消えないからだ。


 備長炭が少し赤くなったら七輪に炭バサミで備長炭を移す。これで七輪に備長炭の最強調理コンロの完成だ。



「あっ!」

 炭おこし鍋から備長炭が一本こぼれた…萌美が手を伸ばし備長炭を掴もうとしている!


 あっ!バカっ!

 炭は赤くなってなくてもかなり熱いんだっ!

 このままだと酷い火傷を…


 俺は全速力で萌美を飛び越し炭に覆い被さり萌美の手を守るっ!


 ピギャァァァッ!

 身体が焼けるっ!

 熱い熱い熱いっ!

 萌美…ゴメン…もう…一緒にいられない…。

 焼き鳥になったパパを食べないでね…美味しそうな匂いをさせて備長炭でこんがり焼けた焼き鳥を食べながらビールをキュ〜ッと飲みたかったなぁ〜…ん?

 何故俺は焼き鳥になってないんだ?

 さっきまでの身体全体の熱さは無くなってるけど?


 ピコンッ!

 〈対象者は火魔法を会得しました。

 これにより魔法使用ルーチンに入ります。〉

 へっ?

 何かが語り掛けてきた…いや、頭に直接言葉とイメージが入ってきた…。

 火魔法と言う魔法の事、魔力の意味、魔法全般の知識、魔法の限界まで無理矢理理解させられた。


 そして、

「ピーちゃんっ!ゴメンねっ!熱かったよねっ!

 こんなになっちゃって…ゴメンなさい…ぐすっ…ぐすっ…ふぇぇぇんっっ!」

 萌美が泣き出す。

 萌美…大丈夫だから…

 萌美の肩に止まり頰を伝う涙を羽で拭う。


「でも、でも…真っ赤になってしまって…火傷じゃ…。」

 萌美が泣きながら俺の羽を撫でる。

 ゆく見ると羽が深紅に変わっていた。首を回し身体全体を見ると確かに全身が深紅だ。

 何か嬉しくなった。なぜか赤って興奮するよな?赤い彗星になったような…。


 嬉しさのあまり萌美の肩から飛び立った俺は辺りを飛び回り目に付いた遠くの岩山に向かって覚えたての火魔法を放った。

 元から届く距離では無いし、軽い気持ちでの初魔法だ。ライター位の火は出るだろう?


 魔法の行使は全てイメージだ、今の俺のイメージはゴ◯ラだ。

 口から放射線を吐くイメージで火を吐いた…。


 ビーーーーーーーーーッ!


 数秒後…

 ドォゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!


 光一閃

 デカい岩山が一発で粉々になった、いや表面が溶けて熔岩の様になった後に爆発したのだ。


「ピッ?(はい?)」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る