第11話 フラニー、伯父エサルの真意をたずねる


 ♢♦♢ ――フラニー――



 会がおひらきになっても、エサル公とフラニーはしばらく部屋にとどまっていた。

「会はどうだ? 勉強になっただろう」

 エサルは、五公たちに向かうのとは違う優しい声で姪に話しかけた。「グウィナ卿は善良で頭が切れるし、胆力もある。ちょっと人が好過よすぎるきらいもあるな。……逆にナイル公はああ見えてしたたかだぞ。種の値下げもずいぶん渋られたしな。メドロートのほうが扱いやすかった」

「伯父上……」

 姪の呼びかけにすぐには答えず、エサルは話し続けた。「あのエピファニーというのは、よくわからん。リアナ王配が五公にねじこんだ、もとは御座所の文官でな。政治には無関心な印象で、害にはならんと思うが、票を投じるとなると王配リアナ派だからなぁ」


「私をお連れになってよかったのですか? 王と独立であるべき会の原則に反しているという、グウィナ卿の指摘もありましたが……」


だからこそ、破るなら前例を作っておかねばならん」エサルは抜け目なく言った。「あの二人がいない今が好機ということだ」


「私は……」

 フラニーはためらいがちに言った。「お二人の手助けになればいいと思って職務を受けました」


 エサルがさきほど五公たちに向かってみせたふてぶてしく横柄な態度が、フラニーはまだ気になっていた。彼女にとっては大切な伯父だし、怒った顔のひとつも見たことはないくらいだが、ほかの者たちにとっては違うという事実を目の当たりにして、やはり少なからずショックを受けていた。


「王のおぼえがめでたいのはいいことだ。エクハリトス家は頑健だし、デイミオン王の治世は長く続きそうだからな」

 エサルは姪の葛藤に気づいた様子はなく、優しく言った。「おまえが第二配偶者になるというのが一番よかったんだが、失敗した以上、やり方を変えねばならん。……せめてナイメリオン卿が成人していたらよかったんだが。あいつを夫にすれば、グウィナ卿を引きこめる。かなり、当家に有利になったはずなのに」


 ナイメリオンを夫に? フラニーはぎょっとした。ついこのあいだまで、おもちゃを壊されてべそをかいていたような子どもではないか。それにエサルだって、本来は政略結婚には慎重だったはず。

 

「伯父上」

 フラニーはあらためてエサルを呼んだ。「なぜそんなにも基盤固めに熱心になっておられるのですか? 当家は、王都でも竜騎手団でも十分な存在感があると思うのですが」


 エサルは琥珀色の目をまばたいた。かわいい姪がなぜそんなことを聞くのか、理解できないでいるようだった。

 だが、子どもに言い聞かせるような口調で説明を続ける。


「いいかフラニー。〈呼ばい〉による王権の移動は、じょじょに意味をなさなくなりつつある。そんななかで、黒竜と白竜の王がつがいになって子を産むんだぞ? それがどういう意味を持つと思う?」


 フラニーはけげんな顔で伯父の説明を待った。「意味? ……」


 エサルはうなずいた。

「その子が次の王となる可能性は高い、ということだ。人間たちのように、ひとつの王家が玉座を独占する……そういう可能性だってあるんだ。――俺がおそれているのはな、王朝の誕生だ」

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