「はー、はー、はー。」




何でこんなことになったんだろう?


街を走り回る私は、刑事だ。




始まりは、上杉達也の妻和子が警察署に娘の希望の捜索願いを出した事だった。






小学一年生の希望が日が暮れてもまだ帰って来ないと、和子が慌てて警察署に駆け込んできた、上杉家はこの地域の名家で、所長の指示により多くの警察官が駆り出され捜索が始まった。






何も手掛かりないまま、三日が過ぎた。




所長の怒号が署内に響き渡る。


「何故手掛かり一つないんだ~~、お前たちしっかり捜査しろ。」




そんな事、叫ばれても仕方がない、本当に何もないのだから、下校途中の怪しい車や怪しい人、しかも、犯人からの身代金要求まで、一切の手掛かりがないのだから。






本当に希望は突然と消えていなくなってしまったのだろうか?




「はー、はー、はー。」




え?




じゃあ何で今、私が走っているのかって?




さっき、事件に動きがあったのだ、上杉家に電話があり達也が出たのだが…いや正確にはこちらに教えてなかった達也が隠し持っていた携帯電話にだった。






つまり、会話の内容や逆探知もできないまま、達也が走りだし、それを私は、追いかけているのだ。




回りの捜査員が右往左往するなか、私は、見失わないように全力で追いかけた。






無線で達也の事を注意してみる怪しい人がいないか探させる、だが街中を走り回るスーツ姿の男がいたら、関係無くても注視してしまうものだ、全然手掛かりにならない。




しかし、達也は金等を用意はしていたが、それを持たずに飛び出した、一体何が起きているんだ?






「おい、達也さんが隠し持っていた携帯電話の解析は進んでいるか?」




無線に応答がなかった、まだ何も分からないのだろう、うっかり通知ありでかかっていたらと甘い期待をしていたのだが、残念だ。






「はー、はー、はー。」




いつまで、走るんだ…あれ?




いつの間にか、タブレットを持っている、何時手にいれたんだ?






達也がタブレットを凝視しながら、走っている。






まずい、誘拐が金目的ではないのなら、今走らされている達也の命が目当てなのではないかと思い付く。




辺りのビルやマンションで狙撃出来そうな場所、人を見張ってくれ、息切れでちゃんと喋れたか分からないが無線で伝えた。






達也が、壊れた塀の間を抜け自宅の庭に着いた。




「どうなっている?上杉家の庭の塀は何時壊れた?」




ぷーぷー、無線から「事件前から、壊れていたようです、それと今、達也さんが持っているタブレットは娘さんの物のようです、先ほど奥さんから確認とれました。」




「そうなのか、犯人が置いたということか?」




「確かに、行方不明になった時に、ランドセルに入っていたらしいんですが…」




「何だ?どうしたはっきり言いなさい。」






「いえ、達也さんが隠し持っていた携帯電話、昔ので、とっくに使えなくなっていまして、娘さんのタブレットも家のWi-Fi用で外で使えないもので…」






「何いってるんだ、犯人が使えるようにしているかもしれないじゃないか?」









「はー、はー、はー。」




息を切らしながら、庭の桜の木の下で土を掘る上杉達也さんを見ながら私は、無線を聞いていた。






「先ほど、奥さんから自白をとれました、車の誤操作で娘さんを殺してしまって、庭の桜の木の下に埋めたと。」






複数の捜査員に取り押さえられた、上杉達也はぶつぶつと同じ事を言っていた。






「画面に、ここを掘れと、出てるんだ。」




後に、携帯電話もタブレットも電源すら入らない状態であると確認された。












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