お客さま
私は、恵子…
携帯電話会社で働いている。
所謂販売員だ、店舗で新規契約や解約、携帯電話の販売。
勿論、店舗に直接クレームを言ってくるお客さまも居る、
大体が故障のクレームで修理で話しは片付く。
たまに、友達が勝手にロック掛けて電話が使えないなど言ってくる、お客さまも居る。
「お客さまは虐められていらっしゃるのですか?
そういった事は、お客さま内で解決して下さい。」
なんて、言えないので心あたりの番号を試してもらうか、その友達に何とかして貰うしかない。
まぁ、人の携帯電話には触らない、それが親しい間なら尚更守って欲しいモラルだ。
水没などは本当に困る、理由を聞くとお風呂で使ってたとか…
自分自身が湯船に浸かるのは構わないが、
携帯電話まで湯船に浸からせては駄目です。
保証がきかない事は、実はよくある。
お客さま自身の過失によるものだ。
永く携帯電話を使っていると、うっかり落としてしまう事はある、落とし方や場所が悪ければ簡単に壊れてしまう。
と、何故かだらだらと愚痴を言ってしまった。
店舗が営業を開始する。
お客さまは要件毎に整理券を取り、お待ちになって頂く。
「いらっしゃいませ。」
「三十八番でお待ちのお客さま。」
一人のサラリーマン風のお客さまが私の席に着く。
「いらっしゃいませ、お客さま。
今日はどういったご用件でしょうか?」
「はい、実は…
電話番号を…
変えたいんです。」
「はい、かしこまりました。」
実は、番号を変えたいと言ってくる、お客さまは多い。
今は他社に乗り換えても番号が変わらない、等があるが、
そこは、人と人の事だ連絡を絶ちたい人や事があるのだろう。
確かに、昔からずっと使っている番号を変えるのは抵抗がある、
出来る限り永く同じ番号を使う方が何かと便利だろう。
昔の知り合いに聞きたい事や頼みたい事など意外に用途が出てくるものだ。
今は、非通知拒否や着信拒否などの便利な機能がある、
だから昔よりは多少番号変更は少なくなったが、
現在はストーカー等の犯罪関係、借金関係で番号を変えるお客さまが増えた。
パソコンを操作し、候補の電話番号を伝える、
数種類の番号候補から選んで貰う、
番号の下四桁を選んで貰う事も出来るが、
お客さまが何でも良いと言ったので候補を提示した。
「じゃあ、これで。」
私は、手続きを開始する。
意外に時間が掛かるので、つい理由を聞いてしまった。
「え、実は、夜中に電話が掛かってくるんです…
スマートフォンってスライドさせて電話に出るじゃないですか。」
「はい。」
ああ、こんな普通の人もストーカーに遇うんだなーっとぼんやり話を聞いていた。
「で、出ると…
電話の遠くの方で…」
ちょっと、話し方が恐い。
店舗の他の従業員も気になるのか、聞き耳を立てているのが分かる。
隣の同僚の由美ちゃんも、落ち着かない、
そのお客さまには目を合わせないでいるが、私の事はじーっと見ていた。
由美ちゃんが目の合図で話を止めさせてと訴えって来る、
私は、分かったと頷きパソコンを操作する、
少し震えていた、そして案の定ミスをする。
「あ。」
「どおしました。」
「いえ、すいません、もう暫くお待ち下さい。」
「ええ、気にしないで下さい。
それで、ですね…
ガタッ…ゴトッ…て音がするんですけど一向に話をしてくれないんですよ。」
だから、話し方が恐いって。
由美ちゃんは反対側を向いたまま震えていた。
話の内容は普通で、全く怖くない、
でも、お客さまの話し方が、顔が、
恐い。
「スマートフォンってオフを押しても通話が続いていたりするんですよ、
ちゃんと画面の電話終了をスライドさせないと…
切れないんです。」
「ええ、存じております。」
「で、毎日、毎日、夜中に電話がありましてね…」
「はい。」
「一応、色々試したんですよ、
着信拒否とか非通知拒否やら…」
「え、それでも電話が掛かってくるんですか?」
あ…
私は分かってしまった…
逆なんだ、逆だったんだ。
この人が番号を変えて、何回も電話を掛けているんだ。
そして、今も番号を変えてその人に夜中電話する気なんだ。
目の前に居るのは、お客さま何かじゃない、ストーカーだ。
と言う私の想像は確実に当たっていると思った。
でも、此所で何を言っても変わらない、その人とお客さまの問題で私たちがどうこう出来る事ではない。
「それで、ですね…
流石に毎晩なので、寝ぼけて出るわけですよ…」
「はい。」
相手がでしょ。
「で、
中々通話にならないなーって
何度もスライドさせてる内に戻る時に触って…
切るんですよ。」
切るんですよって…
もう、貴方が掛けてるって言ってる気がするんですけど。
「あ、間違えて切っちゃったって思ったら…
スマートフォンからね…」
「え?」
スマートフォンから何でしょう?
「…
何で、切るんだ。
って怒られるんです。」
「きゃーっ。」
私は叫んでいた。
そして。
目を覚ました。
「はぁー夢?」
呼吸を荒くしたまま、目覚まし時計を見る…
え、夜中で止まっていた。
「うそ、やだ今何時よ?」
私はスマートフォンを手に取る。
よかった遅刻ではない、
私は色々ほったらかしにして出掛ける支度をし家を出た。
電車の中、
はぁー何だったのあのリアルな夢は…全然気付かなかったよ夢って。
私は回りを見渡した、あのお客さまの姿は無い、
当たり前だが、現実はそれほど怖くない。
例えあのお客さまが目の前に現れても、只のそっくりさんだ。
私は店舗に到着する、
営業の準備を整え席に着く。
一人のサラリーマン風のお客さまが整理券を手に取る。
「あ。」
あのお客さまだ…正夢になってしまう。
私は三十八番のお客さまを隣の由美ちゃんにお願いした…
由美ちゃんには申し訳無いが、これで回避出来る。
あのお客さまが隣の席へ向かう。
「そうなんだ、夢だと…
ストーカーして毎日夜中に電話しているみたいな話をしてくるんだよ、
ね、由美ちゃん恐いでしょ?」
「じゃあ、夢とは違っていたんですね?
そんな話、されなかったし…
まぁ、良かったじゃないですか、何も無くて。」
そんな話をしていると、電車が到着した。
どん。
私は誰かに線路へ突き飛ばされた。
突き飛ばされる少し前に、微かに。
「何で、知ってるんだ。」
と聞こえた気がした。
私は線路に落ち足を挫いて、
動けないでいた…
終わった、何もかも。
私が電車に轢かれる時、由美ちゃんの叫び声が聞こえた。
「きゃーっ。
夢と一緒。」
と。
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