第2話

 翌日、授業中、俺は彼の隣でずっとイヤホンをして居眠りをしていた。そんな様子を隣で眺めていた駈瑠は、授業時間が終わった途端に俺の片方のイヤホンだけ耳から取り外して俺の耳に向かって声を囁いた。

「おーい、授業もう終わったぞ~」

 授業を受けていない俺に苛々するどころか、真逆の反応で俺を起こした。

「ん……やめ……」

 俺は駈瑠の声で目を覚ました。妙に変な声が出てしまい、駈瑠に聞かれてしまった。

「柊、お前……俺のこと好きだろ」

 その一言を聞いてはっとなる。机に伏せて寝ていた身体が飛び上がってしまった。

「な、何急に……! そんなわけ――!?」

「お前何で司秋って名前嫌いなの?」

 駈瑠が突然真面目な顔をするもんだから、俺は咄嗟に嫌いな理由を即答した。

「それは、気分が萎えるからだ」

「え?」

 駈瑠の反応は少し拍子抜けしていた。その言葉には語弊があったかもしれないと顔に書いてあったが、気づいただろうか。

「いや、だからその……秋だから――」

「あははっ、あーそういう意味でか」

 ――そういう意味? どういう意味だと思ったんだ。

「どういう意味でだ。それよりさっき……さり気なく確信を突かれた気がしたんだけど」

「んー、お年頃だよなぁ俺もお前も」

「なんだそれ……妙な言い方」

「そりゃ妙だろうよ。好きなんだろ、俺のこと」

「……うん」

 俺は改まって、ちゃんとした告白をしたかった。それなのに、彼は俺の気持ちを誘導しているのだ。残念だ。悔しい。でも大好きな彼の行いだから、気持ちは案外あっさりしていた。


 今日こそ一緒に帰りたかった。俺は駈瑠のが何なのか問い詰めようと話かけた。彼の返事は――。

「そうだ、お前のもう一つの名前考えながら帰ろうぜ!」

「え? ……あぁそう言えばそんな話ししてたっけ」

「例の件の話なら、また今度な」

 すんなりと帰る約束はできたが、については聞き出せなかった。夕陽に照らされる二人の影が揺らめいていた。そんな中で、俺は隣にいる彼に緊張していた。何故なら、どんな名前を付けてくれるのだろうとドキドキしていたからだ。

「んー、じゃぁ……苦手な『秋』を取って『司』ってのはどう?」

「つ……つかさ……。うんいいね、いいと思う」

「この名前は、そうだなぁ……大人になってからでも使えるし、二人だけが知ってる名前だ」

「うん、そうだね」

「気に入ってくれるといいんだけど?」

「うん、気に入った。名前考えてくれて、ありがとう」

 とても嬉しかった。自分のもう一つの名前。渾名あだなというよりももっと深い名前だと思っていた。自分の好きな相手だからこそ呼ばれたい名前だった。俺はもっと駈瑠に近づきたかった。でも、そんな駈瑠を好きな自分に自信が持てなかった。彼の愛に近づくにはまだ遠かった。

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