『妖艶宇宙魔女』エル・エクストラテレストレ
……思えば、遠くまで来てしまった。
この星の夜空に、私の母星は見えない。
それほど遠い、果ての星、低い文明に幼い文化、田舎を通り越して自然保護区を思わせる。
そこに住むのはみな動物、だけどそこで成り上がった私も同じ、動物だ。
そこまで、落ちたのだ。
……幼少期、名前より不細工と呼ばれた数の方が多かった。
それでも綺麗なものにあこがれて、メイクを覚えた。
思春期、人を騙す快感に目覚めた。
ちょっとした仕草、テクニック、言葉を選んで与えれば相手は喜んで下僕になった。
それが嬉しくて楽しくて、もっともっとと思って芸能界に入った。
初めはモデル、次に歌手、それから無名の映画に出たら一躍人気者になった。初ドラマは深夜帯だったのに大ヒット、すぐにシーズン2が決まった。
順調だった。
だけどあの日に全部が変わった。
何本目かの主演映画、どうせ売れないクズ映画、それでもマネージャーがどうしてもというから出てやった。
なのに記者会見まで出させられて、働かされて、見せ物にされて、ブチ切れなかっただけでも感謝すべきだ。
それを、態度が悪いだのプロ意識がないだの、好き放題言われて書きたてられて、干された。
後は落ちるだけだった。
モデル、歌手、映画、ドラマ、あれだけあった仕事は消え去って、来るのはヌードだけ、もうあの星に、女優としての居場所はなかった。
……それで、こんな星までやって来た。
初めこそマレビトと呼ばれ、物珍しさに集まる程度、だけどもそれでも実績を重ねて、人気を得て、ようやく女優としての仕事も来るようになった。
この星で、認められてるとは思う。
彼らは野蛮で無知だが、だからといって悪人ばかりではない。動物には動物なりの好意というのがあるのだと、感じている。
だけど、だからといって、ここで終わるつもりはない。
絶対、帰り着く。もっと高く! もっと丸く! もっと美しく!
そして宇宙に名を輝かせてやるんだ。
この星はそのための踏み台だ。それだけの価値しかない。
……だけど、このタワーマンションから見下ろす夜景は、好きだ。
…………なんだろう、アレ。
下から、飛んでる?
真っすぐ垂直に、いやこっちに、飛んで、来る!
ガッシャ――――ン!
窓ガラス割られて突入された。
人、人間、だけどこの星の人間には見えない。
ぱ~ぱーぱ~ぱーぱ~ぱーぱー♪
割れた窓から吹き込む風に紛れて電子音、酷い曲が、侵入者から流れてくる。
こいつは、鋼人、ダサいデザイン、技術も芸術も所詮は動物、見る影もない。だけど、野生動物ほど生身で出くわすのに怖い存在もない。
「プロパガンダ―A! 参! 上!」
ダサい上にダサいポーズ、しかも決めきれず二度三度手とか変えてる。素人以下、何かのコスプレとも思えない。
何こいつ何? ドッキリ? でもガラスまで割って、やりすぎだ。なら、何?
「見つけたぞ妖艶宇宙魔女ナントカ! その愛くるしい姿にお天道様が見逃してもこのプロパガンダ―があっ! 見逃さねぇぜ!」
大声、意味わかんない。
強盗? ストーカー? いや、こいつは変質者だ。
他の星でもわかる。絶対頭の回路がこんがらがって、可愛そうな人なんだ。
それが来た。
無下にしたらスキャンダルにされる。だから無難な対応、正しく行動、ここは、マネージャーに電話だ。
あぁもう、テレパシーシステムないとか、やっぱり不便だ。
「どこへ行くナントカ! 真ん丸ピンクボディにちっちゃなお手て、真ん丸あんよは見せかけか! 男なら堂々と戦え!」
拳を握られる。
やばい。こいつはやばい。
「喰らえ七つの秘密武器が一つ! シャブホワイト!」
プシュ!
突き出してきた手のどこから、なんか出て、飛んできた。それで当たって、何? 首のとこ、チクっとした。刺された? 毒? 何の? あへぇ?
「説明しよう! しゃぶホワイトとは! 異世界の通販サイトが間違えて官僚宅に送り付けてきた快楽物質を! 送り返せないから再利用した実にエコな武器なのだ!」
だめ、気持ちい。頭、考えられない。
「どうやら宇宙人にも有用なようだな。この薬中め! こんなものに頼ってそんなに人を辞めたいか! あぁいや、人ではなかったな」
あ、あへ、あへぇ、あれ? 危ない? でも、あれ? トロケル?
「まぁいい。哀れな魔女よ! 貴様もタレントの端くれならば! 哀れな麻薬中毒者として醜態を晒し! 政権批判よりももっと社会的に有益なニュースを届けろ! それが貴様がすべき罪の償いだ!」
あへえええええええええ。
「ではさらばだ! 最後にいつもの! よいこの諸君! 蚊を見たら叩いて殺そう! プロパガンダ―Aとの約束だぞ!」
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