『合体車怪獣』ブチウス・幼体

 世界が変わって、暮らしにくくなったと誰もが言う。


 魔法、科学、宇宙人、これまで別々だった境界線が取っ払られ、全部がまぜこぜ、ごちゃごちゃの混沌状態だ。


 だがワシは、良くなったと感じとる。


 突破られたからこそ、こうしてドワーフの伝統技術が、科学が造り上げた『車』という巨大カラクリと出会えたのだ。これほど喜ばしいこともないだろう。


 歓喜。


 新しいおもちゃいじりに夢流になりすぎてまたも飯時を半分逃してしまった。


 このまま遊んでいても構わんのだが、流石に腹は減った。何か詰め込むか。


「あ、先輩、見てくださいよ。まだやってますよ」


「ん?」


 テレビ、境界線が突破られて一番驚いたカラクリ、今だにその原理は理解して切れとらんが、内容はそんなすごくないとは理解できた。


 その中で比較的まともなニュースをやっとるらしい。


「事故ですよ事故、例の、老人が運転してた車が列に突っ込んだアレ、アレの特集っすよ」


「あぁ、あの、子供が巻き込まれた」


 痛まし事件、交通事故ともあって嫌でも脳裏にこびりついとる。


「犯人まだ逮捕されたいんすよ。やっぱ上級国民っているんすね」


「子供が巻き込まれてんだ。いくら何でも無罪放免とはならんだろ。それよりちゃんと書類書いたんだろうな。あれ明日までだぞ」


「ちゃんとさっき書いて出しましたよ。ハンコはまだですけど」


 ガッシャ―ン!


 轟音、衝撃、建物が揺れた。


「え、ちょ、今の、事故っすか先輩? この建物っすよね?」


「わからん。見てくる」


 ぱ~ぱーぱ~ぱーぱ~ぱーぱー♪


 聞き覚えのあるような無いような、国歌斉唱のような音楽、響く。


「ん、あ、え?」


 現れたのは、普通じゃない男だ。


 明らかに鋼人、デザインは古臭い、ワシらのゴーレムに近いかもしれん。


「プロパガンダ―A! 参! 上!」


 プロパ、ガンダ? そいつはポーズをとった。


 わけがわからん。テレビでも見たことがない。


 だが、嫌な予感はした。


「あーーお客さん? わかんないっすけど、受付ならあっちっす」


「おいまて!」


 止める間もなかった。


 あっという間に、殴り飛ばされた。


 飛び散る血と歯、車同士の正面衝突のようなインパクト、無事かどうかよりも、殺すつもりだと言う事実に、驚いた。


「よるな人非人め! 貴様らがあのテロの首謀者だとわれているんだ!」


「なに、を」


「とぼけるか! 貴様らは国に多大な貢献をして下さった委員長の愛車に細工をし! 怪獣ブチウスに変えて貶めようとした! お可哀そうに委員長はそのせいで楽しみにしていたフレンチをその日に食べれなかったんだぞ!」


 全く理解できん。


 ただ、こいつがいかれてるとだけは、理解できた。


「ゆるさん!!! 喰らえ七つの秘密武器がひとーつ! みずむしグリーン!」


 絶叫、同時にいかれた鋼人が右の拳を、ワシへと突き出した。


 いかん、理解した時には手遅れだった。


「発射!」


 ぴゅーーーーーーーちょろろろろろろろろろろ。


 ……水鉄砲だった。


 透明なぬるい水、それが飛んできて、ワシをびちゃびちゃに濡らす。


 ……それだけだった。


 やはり、こいつは、いかれて……あ?


 何だこれは、痒い。


 被れたのか、何か入ってたのか、猛烈に、被れて、いや燃えるようにこれは、あ、あああああああああ熱い! 熱い! 痛い! 痛い! これは! 熔けてる! ワシの、ワシの体があぁああああ!!!


「説明しよう! ミズムシグリーンとは! 魔法技術で作られた人造生物のスライムを含んだ水を相手にかけることで! 骨身も残さず貪りつくす超神水なのだ!」


「な、何をやってるんですかプロパガンダ―さん! あぁもうあぁぁ、こんな殺しちゃって、スライムの消毒だって大変なのに、待ち合わせの場所は隣町ですよ!」


「何を言ってるモブ隊員! あちらを見てきた前! ここは怪獣ブチウスの生産工場になっているのだよ!」


「あぁもう、わかりました。ここはそういう形で処理しときますんで」


「……処理?」


「そんなことよりも、急がないと! 我々が見つけた基地の方も確実にこのブチウスたちがいるんです! あいつらの駆除はプロパガンダ―三にしかでき何ですから!」


「よしそう言うことなら急ごうではないか! だがその前に、よいこの諸君! おうちに帰ったらちゃんとうがいと手洗い! プロパガンダ―Aとの約束だぞ!」

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