第5話

門番に指輪を見せると、あっけない程あっさりと、館の中に入る事を許された。

玄関の間で待っていると、ダンジュローザが階段を降りて来た。


サーペントの家で、家事やジャンヌの世話をしていたネージュと違い、カップより重い物を持つ事なく、夜の世界だけで暮らしていた様な彼女は、青い程に白い肌をしていたが、顔や肢体はネージュとそっくりだった。

彼女は、優雅にソファに腰かけると、

あの人ギョーム9世の息子が来たと聞いたのだけど、まさか、自分の娘がいるとは思わなかったわ」

と言って、クックッと笑った。


ダンジュローザは、ネージュの話を一通り聞いた後、

「貴方が、真実ギョームの息子なのは、その容姿を見た時から解っていたわ。そうね。貴方は今日からユーグを名乗り、あの人の嫡男となりなさい。それからネージュ。貴方には私の元の名をあげましょう。今日から貴方の名前はアエノールよ」


当の公爵との謁見もしていないのに、言葉は悪いが、愛人にそれだけの決定権があるのかと不思議に思い、サーペントは、

「こんな大事な事を、貴方様の御一存で決められてよろしいのですか?」

と、問うた。


ダンジュローザは、嫣然と微笑むと、

「あの人が私の決定に逆らえる筈が無いでしょう。私が“真実の愛の証”に産んだレーモンをヒューガンディー公爵にあげてしまった時から、私は、いつでもあの人を捨ててしまえるのよ。逆にあの人は、私の肉体なしでは一日だって生きられないわ」


サーペントは、ダンジュローザの不遜な言い分に、開いた口が塞がらなかったが、ネージュは別の事で驚いている様だった。


「お母様。男子を御産みになられたのですか?」


「ええ、そうよ。ギョーム程、ハンサムで、ロマンティックで、強引で、奔放な、男らしい男など、この世の中のどこにもいなかったもの。貴方のサーペントも、顔だけなら、あの人の若い頃にそっくりだけど…面白味は無さそうね」


サーペントは、首を傾げた。


男子を産んだ事が、それ程、驚く様な事なのだろうか?

それはまぁ、女腹や男腹という言葉がある様に、片方の性別ばかりを産む女性もいるだろう。

しかし、自分が女として生まれたからといって、即、女腹だと決めるのは早計すぎないだろうか?


しかも、男子が生まれた事を、“真実の愛の証”とは、また大袈裟な。


そりゃぁ、男子が生まれた方が都合が良い事は確かだろう。

女子にも相続権が認められているとはいえ、女領主となれば、王都からの軍役の義務を果たし、周辺の貴族達から領土を守る為に、強い配偶者が必要となるだろう。

しかし、子供がどちらの性別を持って生まれるかなど、神の采配と言わざるを得ないだろうに…。


そう考えながら、サーペントは、ネージュに抱かれる幼い我が子をちらりと見る。


(そうさ。この子が女の子である事も、神の采配に他ならない)

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