第4話

ジャンヌは、ネージュを歓待した。

奥手だと思っていた息子が、初めて連れて来た女性である。


彼女は、下級貴族の娘だという事を、一切、鼻にかける事もなく、愛らしかった。そして、翌日からは、馴れた手つきで、踊る様に家事をして、ジャンヌを気遣った。


2年後、サーペントとネージュは、それが当然の事である様に結婚し、やがて子供にも恵まれた。

ジャンヌは、今までサーペントにも言っていなかった事を告白した。


「お前は、ギョーム=トゥーカーイ公爵様の子供なんだ。私が領主館でメイドをしていた時、馬鹿な私は、ギョーム様に求めらてお前を宿した。お前への養育費は、そりゃぁ相当な物だった。20年分支払うと言われたが、1年分でも、私等にすれば10年は食べていける額だった。この家と畑を買う為に5年分も頂戴したが、お前に継承権がない事を考えると、残りを貰って御大尽に育てるわけにはいかなかった。許しておくれ。お前達は若いから、まだまだ子供が産まれるだろう。この指輪を持って領主館を訪ねるといい。残りのお金を貰う権利がお前にはあるんだよ」


最初の子供が産まれた2年後、ジャンヌは亡くなった。



サーペントとネージュは、トゥーカーイ公都ムッサーシへと向かった。

いらないという訳ではないが、お金が主たる目的ではない。二人が夫婦になった事で流れていたが、元々、ネージュは王都へ向かうつもりでいたし、サーペントも、自分の本当の父親を一目なりとも見てみたい。という、好奇心があった。


ムーサッシ公都の宿屋の中の食堂で、不可解な噂を聞いた。

去年から今年にかけて、公都は凄まじい寒波に晒されたらしい。それだけならまだしも、女性にだらしないと評判の男達は、こぞって凍死したのだという。その中には、トゥーカーイの老公爵の嫡男も含まれていたらしい。

嫡男を亡くして気落ちした老公爵は、2度目の教会からの破門騒ぎの原因となった、それはそれは美しいダンジュローザと呼ばれる愛人と共に、領主館にこもりきりになっているという。


老公爵とは、サーペントの父であるギョーム9世=トゥーカーイの事だ。

そして、美しい愛人とは、もしやネージュの母の事ではないだろうか?と、二人は、駄目で元々と思いながら、翌日、領主館を訪ねてみる事にした。

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