第2話

サーペンスは、氷を抱いてでもいる様な感覚に襲われて目が覚めた。

身体は動かない。

包った毛布が凍っていた。

身体を横にして眠っていたせいで、壁にもたれる様に寝ていたグロウの姿が目に入った。


グロウの前には、透き通る様な白い肌に、真っ白なドレスを身に纏った女性が立っていた。

プラチナブロンドの長いストレートヘアーは、床に届きそうだった。


彼女は、グロウの頭上に手をかざしており、その指先からは冷気が噴出している様だった。

グロウの髪も肌も凍りついており、パキッパキッと音がしている様だった。

やがて、彼女の指先に向かって、グロウから水蒸気の様な物がたちあがり、それは、彼女の肌に吸い込まれていった。


サーペンスは、グロウが、今、死んだ事を直感した。


女は、顎を上に向けて、小さく息を吐いた。

青い程に白かった彼女の頬が、薔薇色に色づいていた。

そして、ゆっくりとルビーの様に紅い瞳を、サーペンスに向ける。


(自分の番だ…殺される)


サーペンスは、動かない体が更に硬直していくのを感じ、瞳をギュッと固く閉じた。


彼女が何をしたのかは解らなかったが、サーペンスの体は宙に浮き、先ほどまで凍り付いていた毛布は温もりを取り戻した。

ギョッとして目を開けると、紅い目に赤い唇の、類まれなる美女が微笑を浮かべていた。


サーペンスは、大きく目を見開いた後、彼女に見惚れた。


それまで、自分の母親以上に美しい女性などいない。と、思っていた。しかし、彼女の美しさは、そんな固定概念などはるかに上回る美貌だった。


つい先刻、グロウの魂だと思われるものを吸い込んだ指先が、サーペンスの頬を包む様に触れる。

そして、サーペンスの頭に直接、彼女の声が響いた。


其方そなたは若い。それに美しい。わらわの糧として殺すには惜しい。…今宵は、其方を生かしておいてやろう。だが、妾の事を誰かに話せば、妾は其方を殺そうぞ。その事、肝に命じておくがいい」


そう言い終えると、彼女は霧の様に姿を消した。


サーペンスの体は、急に支えを失う様に、足が床に着いたかと思うと、膝がもち答えられず、尻餅を打った。サーペンスは暖炉の前にまで這う様に進むと、マッチを擦り、蝋燭に火をつける。そして、消えてしまっていた暖炉に再び火をつけた。そして、振り返って、グロウの元へ行くと、彼は、水滴をポタポタと垂らしながら、死んでいた。


外からは、ビョオオーッ、ビョオオーッと、吹きすさぶ風の音が響き、吹雪が来ていた事に、サーペンスはこの時になって、やっと気が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る