53. 「 」
夢を見る忌助に近づく影。
夢を見る忌助の仲間に近づく影。
夢を見る....。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「もっと、もっとだ」
自分は男から奪った刀を使い、片っ端から人を斬り殺していく。
刀はボロくなればまた奪えばいい。
「楽しい」
首が飛び血が吹き出す。
「楽しい」
腕が斬り飛び悶え苦しむ人の心臓に少しずつ刀を突き刺していく。
「楽しい」
指を一本一本器用に斬り落とす。
そして戦意がなくなった所で目から刀をいれて脳をグチャグチャにする。
「楽しい」
「待って! それ以上は行かせない」
「朱音?」
「鬼が! 気安く私の名前を呼ぶな!」
女を知っている気がしたが、どうやら気のせいのようだな。
粗末な突きや蹴り。
刀を使うまでもない。
「突きはこうやるんだよ!」
小さな溜めで最大の威力を出す。
狙うは
「どうだ? 痛いだろ」
バキッという音がしたから肋の何本かは逝っただろう。
次は、
「蹴り」
踵を突き出すような蹴り方で腹部に致命傷を与える。
「オロロロロロ」
「終わりだ」
吐いてる所が丁度首を斬ってくれと言わんばかりなので斬ってあげる。
斬らないでと言われても斬るんだけど。
「楽しい」
一撃では首を飛ばせなかった。
どうやらこの刀はボロがきていたらしいな。
三度、三度斬りつけてやっと首を落とすことが出来た。
「楽しい」
また散歩を続ける。
人を見付け次第殺して殺して殺しまくる。
「お前が鬼か?」
「....鬼? いや、自分は....鬼、だ」
この人も見たことあるな。
もしかしたら知り合いか?
いや、そんな事どうでもいいんだ。
だって、その人がいい刀を持ってきてくれたんだから。
「紅蓮流剣術 死」
「危ない。殺さないでよ、自分が殺すんだから」
何故かわからないが、あの技は危険だとわかった。
なかなかどうしてくれる物かね。
「今のを避けるとは厄介な鬼だな。尚更ここを通すわけにはいかなくなった」
「言うねぇ、人間の癖に」
「悪いが人間というより、鬼の子、と言ってほしいね」
「知るかよ、人間」
距離を縮めて得物で首を狙う。
が、寸の所で上手に避けて、それだけに止まらずこっちの首を落としにかかってる。
「紅蓮流剣術」
「させねぇよ!」
首を狙わなくてもいいんだ。
手を、腕を、胴を、足を斬りつけて斬りつけて斬りつけていく。
「ん? そろそろ終わりかな」
「まだ、だ」
血を流して地に伏している。
そんな状態で何が出来ると言うのか。
「中々に楽しめたぞ」
首を落とす。
楽しめたお礼として、痛みが無いように、一瞬で男の首を落とす。
「楽しい」
また歩く。
もう追っ手は来ないのか?
敵は来てくれないのか?
もう、楽しく戦えないのか?
「つまらぬ、な」
だからと言って、歩みを止めない。
人のいるところに、殺せる存在がいる所に向かう。
「まだ足りない」
どのくらい殺しただろう。
「まだ足りない」
体が血でベタベタする。
「まだ足りない」
視界は赤く染まっている。
「そろそろ止めにしないか?」
いつの間にか、自分は知らない場所に来ていた。
綺麗で気持ち悪い湖。
その水面に立つ自分と同じ姿の人が言った。
「止めようよ、こんな事」
「はんっ! 何が止めようだよ。こんなに楽しい事をなんで止めなきゃいけない?」
「自分は望んでいない!」
「いんや、望んでいる。それはもう足りないほど、ね」
心が渇いてしまう。
だから、人を殺して血で潤す。
それを望んでないなんてあり得ない。
「お前、今までで一番楽しめそうだな」
「争うべきじゃないって」
「遅い」
どれも太刀筋が殺しに来ていない。
生ぬるく、弱々しい。
なのに心が満たされていく。
「いや、まやかしだ」
勘違いはいけない。
足りないんだから。
「足りない!」
腕を斬り落とす。
面白いくらいに諦めない。
「足りない!」
左足を斬る。
片足になっても諦めない。
「足りない!」
残る右足を斬る。
地面を這いながら諦めない。
「足りない!」
段々と楽しくなってくる。
両の腕を無くしてやると、口で刀を加えてモゾモゾと向かってくる。
まだ諦める気はないらしい。
「飽きた」
頭に刀を突き刺す。
それだけで、諦めるも関係なしに動かなく、そして冷たくなる。
「忌助くん」
「....人間? 人間だぁ」
探しても探しても人間がいなくて暇していた。
だから、丁度いい。
「もう、やめよ。ね?」
「弱い」
刀で心臓を一突き。
呆気ないほど弱く楽しくもない。
ながいゆめをみていた。
そんなかんじがする。
「えっ」
自分だけが立っている。
ながつきと朱音と鈴が地面に倒れている。
「なん、で?」
ながつきは幾重にして斬られた後があり、血を流して倒れている。
もう死ぬまで少し、と言った感じだ。
朱音は木に寄りかかりながら動かない。
それもそのはずで、首から上は地面に転がっているんだから。
それに骨も折れているのか皮膚を突き破っていて、見るも無惨な姿だ。
鈴は....鈴は僕の刀で心臓を貫かれている。
もう助かる兆しが見えないのに笑っている。
涙を流しながら笑っているんだ。
「お帰、り。忌助、くん....」
ズルッと地面に倒れた。
倒れて動いてくれない。
「回復霊術」
血も止まらない。
命の灯火は消えているのに血は流れて続ける。
自分の事を責めるように服を赤く染め上げていく。
「回復霊術」
治ってくれない。
何がいけなかったんだ。
どうして。
「夜叉丸、どうすれば」
答えが返ってこない。
「夜叉、丸?」
やっぱり返ってこない。
何にも聞こえない。
少し集中して、鬼の部屋に行っても誰もいなかった。
夜叉丸も、風馬も。
「これは面白いな」
自分に語りかけてきたのか、声が聞こえる。
が、見る元気もない。
「どうしたんだ? 俺を殺すために来たんだろ? 鬼を殺すためにここまで頑張って来たんだろ?」
声だけが聞こえる。
「顔くらい上げてくれてもいいんじゃないか?」
酒の匂いがする。
匂いだけで酔ってしまうんじゃないかと思うほどの強い匂いが。
「いやー、傑作だったよ。途中から見てたけど、君が仲間を殺していく様は本当に良かった」
聞こえない。
聞きたくない。
「あはっ。思ったんだけど、さ....これじゃあどっちが鬼かわからないね」
「死ねっ」
大振りの刀は....『夜叉丸』は答えてくれない。
ただただ固いカタイかたい鬼を殺せる刀。
それ以外でもそれ以上でもない。
「脆い、脆い、脆い、脆い! 脆すぎるよ。そんなに大事だったのか? そんなに大切だったのか? ならなんで傷付けた!
そんなの簡単だよなぁ。人間は鬼鬼と言うが、結局の所、心に巣食う鬼には....一時の誘惑には耐えられない。ただそれだけの事なんだよな」
「黙れ! 鬼のお前に....鬼のお前に何がわかる!」
「わかるさ、わかるよ。当たり前だろ? 鬼は欲望に忠実に生きてるんだから。誘惑には抗わないんだから」
自分の刀と酒呑童子の爪とがぶつかり合う。
その度に今の自分では勝てないと力の差を叩きつけられる気分だ。
「グハッ」
否、叩きつけられた。
「そろそろ終わりにしようか。つまらないから」
「まだだ。まだ終わらないし終わらせない! 紅蓮流剣....」
「どうした? 終わらせないんじゃないのか?」
身体が動かない。
動こうとしてくれない。
動かすことが出来ない。
違う....身体が、心が『紅蓮流剣術』を使うことを拒んでいる。
「所詮はその程度、って事だな」
いや、拒んでなんかいない。
否定はしない。
そうだ、
「そうだ。人を殺める感覚は楽しかったよ」
「ん?」
「けどそれ以上に楽しい事を見つけたんだ」
あぁ、最初から気がつくべきだった。
心はもう死んでいたことに。
自分は━を殺す以外に生きる道が残っていないと。
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