48.  ケースト



 「ほうほう、人間共が残りの人間を殺しに行った、と」


 「左様でございます」


 「なら行ってやれ。お前が行けば失敗はしないだろう」


 「夜叉丸の首はいかがいたしましょうか?」


 「持って帰れ、他には望まぬ。たが....失望だけはさせるなよ?」


 「....は、はい」






 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 一時間と少しかけて、富士の山の麓にまで来ることができた。

 周りは鬼に蹂躙された跡が目につき、人の死体がゴロゴロと転がっている。

 時間が経っているのか腐敗した臭いで、はえたかっている。



 「酷い、な」



 そんな声が漏れると、皆頷くに止める。

 ここでこの人たちを埋葬してあげたいが、今は時間が惜しい。


 嫌な感じがするからだ。


 具体的に言うと、鬼の気配が、一度会った事のある鬼の気配が富士の山の上から感じるからだ。

 こんな所でちんたらしてたら最悪の展開になりかねない。



「戻ったら埋葬してあげよう」


「それがいいな」



 ながつきも気がついているのか、先に急ぐことを選んだ。



 ※



 大小様々な岩が転がっている山の頂。

 そして、案の定と言うか、やっぱりいたのだ。



「これはこれは、愛六あいろく忌助きすけ。こんな所になんの用ですか?」


「それはこっちの台詞だよ、袈瑠羅かるら



 そう、茨木童子の手下の一人、袈瑠羅がなぜかいるのだ。

 いや、十中八九星の力が目当てだろう。



「こい、夜叉丸やしゃまる双子座ジェミニ 極星の軌跡」


「来て、時雨しぐれ水瓶座アクエリアス 神水の泉」



 鈴も協力してくれるのならありがたい。

 これで勝率も上がるってもんだ。



「そろそろ時間だ。私かあなたの仲間か....」


「....星の力双子座ジェミニ 絶奪ぜつだつ



 無数にある刃を十個ほど砕いて力を行使する。


 砕いた刃は闇を放ち一瞬で相手の体を包んでいく。


 そして相手の、袈瑠羅の「行動する」という選択肢その物を奪い、無くす。


 これで袈瑠羅は喋る事もこちらに攻撃をすることもできない。

 ただただ意識はあるのに動けない。

 そんな状況だろう。


 後はそうだな、ここで殺すのが、朱音に星の力を持ってもらう最善の手だろう。

 けど、自分は朱音に星の力が宿る事を疑っていない。

 こんな、袈瑠羅に来るわけもない。

 だから、だ。



「袈瑠羅、そのまま見ていろ。朱音の方が星の力にふさわしいって事がわかるようになるから」


「....」



 袈瑠羅は答えない。

 呼吸もしているし、心臓も動いているし、瞬きだってしている。

 けど、日常的ではない行動を封じたからそこで見ているしかできない状態だ。


 そして、時はきた、


 一つの強く輝く光が真っ直ぐと朱音に向かっている。

 もちろんその延長線上には袈瑠羅はいない。

 ここから急に曲がるというおかしな事がなければ無事に終わるだろう。



「あっ....」



 強く輝く光が急に向きを変えて、袈瑠羅の方に向かい始めた。

 このままでは不味い、相当不味い。



「星の力双子座ジェミニ 理無りんむ



 無数にある刃のうち、半分、その数ざっと百以上を闇に変えて、世界のことわりを無に還す。

 袈瑠羅に星の力が宿るという「世界の選択肢」を無かったことにする。


 方向転換した光がまた方向転換をし、真っ直ぐに朱音に向かってぶつかる。

 後は朱音がその力を使いこなせるかだけだ。



「ガハッ」



 急に力を行使しすぎたせいで体のあちこちが痛み、血を吐いてしまう。

 まだ倒れる訳にはいかない。

 袈瑠羅を倒して、朱音の星の力が制御できるまでは、



「星の力双子座ジェミニ 天回てんかい



 少し無理をして、無数にある刃の一つを砕き力を行使する。

 刃から溢れたら闇が体を包み込み、疲れや怪我などを食い潰し、血を、霊力を回復させていく。


 これで大丈夫だ。

 心配なのは刃の数が物足りないくらいだろう。

 もしここで上位の星の力を持った鬼が来たら、勝てはするだろうが、損害が大きくなるだろう。

 だから、



「星の力双子座ジェミニ 星砲せいほう



 闇で擬似的な刀を造りだし袈瑠羅の首を一閃。

 この刀で斬りつけた相手は存在その物を無に還す。


 これは記憶から消すということではなく、単なる甦生、転生をさせない為だと後で夜叉丸が教えてくれた。



「ふぅー。後は、朱音が....」


「大丈夫っス‼」


「試してみる?」


「えっ、えー。忌助くんはいやっス。強いから」


「じゃあ私と?」


「鈴ちゃんもいやっス。なんか上位の星の力らしいからいやっス」


「二回もいやって言わなくても」


「なら俺が相手をしないといけないってことだな」


「そういうことっス」


牙血兔がちと


憑依ひょうい 蠹斗とと鯨座ケートス 海殿かいでんの護り」



 朱音を中心として、濡れない・溺れない・触れられない海水で満たされて、右手には犬のような顔の何か(妖怪?)を形どった霊力を纏っていて、左手は[瘴気]を纏った鉤爪かぎづめがついている。

 朱音はどこまで行っても憑依型なのだろう。



「行くっスよ」


「あぁ。来い‼」



 朱音は空を飛びながらながつきに迫っていく。

 否、これは、濡れない・溺れない・触れられない海水を泳ぎ回っていると言った方が正しいだろうか。

 ながつきは最初は驚きはしたものの、流石と言うべきか直ぐに立て直し迎撃体勢にはいる。


 それから数度、朱音とながつきが武器を合わせてから、段々とながつきの力が落ちていってる。

 それと同じように朱音の力はどんどんと増していき、



「待った待った待った。俺の敗けだ」


「い....やったーっス。勝ったっス、勝ったっス」



 まぁ当たり前と言ったら当たり前だが、星の力があるのとないのでは大違いだ。

 これでまた、大きな戦力を手にいれることができた。



「忌助、この後は?」


「一応、一回戻るつもり。それから京に攻めいる。そこに行けば酒呑童子しゅてんどうじが、夜叉丸を差し置いて鬼の王になろうとしてるやつがいるから」


「なるほどな、了解」


「ごめんね、ながつき。最後になっちゃうけど」


「別に大丈夫だよ、忌助はこの小隊の長として頑張ればいいから」



 さて....。



「あれは急がないとだよな」


「うん、そうだね」



 自分の問に鈴が答えてくれる。


 自分の目に写るのは結界が張られ幻影術がかけられているはずなのに燃え盛る町。

 身体強化霊術を使った影響で視力も強化されて運良く見ることができた。



「夜叉丸、力を貸して」


『....いいよ、楽しそうだから貸したげる』



 その声と同時に今まで以上の力と霊力と、とにかく元気が出る。



「こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 極星の軌跡」



 減っていたはずの無数の刃が元通りに、いやその倍....数倍の数の刃が宙を漂う。



『「星の力双子座ジェミニ 転移てんい門」』



 幾つかの刃が碎け散り禍々しい門を形取っていくいく。


 そして、門をくぐり洗浄へと急ぐ。



 ※



 転移した先、そこは火の海に飲まれた町と逃げ惑う人。

 そしてそれを遊ぶように、嬲るように、狩りをするように殺す人間。


 攻めてきているのは鬼だと思っていた。

 が、違った、間違っていた、勘違いだった。

 鬼は鬼でも鬼の子だ、人だったのだ。



「どうすれば」



 「人間だ」ということに囚われて頭が働かない。



「忌助、一般人を助けられるだけ助けろ。命令だが、一人で十分か?」


「う、うん。一人で大丈夫だけど」


「俺はこういう時の為に玖郎くろう先生と色々話してある」


「わかった、助けられるだけ助ける」



 ながつきからのめいだ、それにこれくらいは出来ないとだしな。



 先ずは、



「ジェミニ カストルの神闇しんあん



 霊力を凝縮した矢で襲われている人を助ける。



 ドパァンッ。



 とてつもない音をたてて襲ってきた人と、その後ろを更地に、無に還した。

 夜叉丸が力をいつも以上に貸してくれるからか、力が大きく制御が難しい。

 それに変な欲望まで駆り立てられる。



「鬼を殺したい」



 鬼が全て悪い訳ではないのはわかっている。

 実際に夜叉丸は力を貸してくれたり、人間との架け橋になりたいと考えているし。



「人間を殺したい」



 そうだ、ここに来ているのは敵もいるんだ。

 そう思うことはおかしくないだろう?


 否、味方がいつ敵になるかわからないな。

 なら今殺しても変わらないんじゃないかな?



「うん、そうだ。そうだね。そうだよ。そうなんだよ」


『落ち着けって、忌助。僕の力で暴走しないでよ』


「ハッ‼」



 危なかった....変な欲望? 感情に流されてしまったらしい。

 よし、自分は正常、問題ない。

 自分はみんなを、仲間を守るんだ。

 もし味方が敵になったらその時殺せばいい。



「よし、もう大丈夫だ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る