46.  シチキオウ



 「茨木童子さま、ただいま戻りました」


 「お疲れさま、もう体調は大丈夫かな? また暮夜くんにこっぴどくやられたみたいで」


 「はい。茨木童子さまの配下として恥ずかしい限りです」


 「なら、そうだね。袈瑠羅かるらも星の力を手に入れるべきだね」


 「星の力、ですか」


 「鯨座ケートスなんてどうかな? 君の能力にあうと思うけど」


 「鯨座ケートス。それはどこで」


 「うん。ここから結構遠いいけど富士の山に行けばいいよ。あそこには他の、酒呑童子の手下はいないと思うけど見つからないようにね」


 「了解です」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 あれから二日、鬼能をあげた二人はやっと目が覚めて、結界術と幻影術を交代してもらった。

 が、どうしても自分と鈴は星の力を使ったからか、威力が違い、弱くなってしまった。


 弱いからと言って、鬼に効かない訳ではないから大丈夫だろう。

 大丈夫だよね?



「様子見で外に出てみた訳だが....」



 呆れてしまうのも、無理はないと思う。

 だって、



「そこの人~~。助けてぇーくださーい」



 鬼を五十体以上引き連れた純粋な人間が走ってこっちに向かってきているんだ。

 どうしてそんな状態になったのかわからない。



「助けたらなんか良いことあるかー」


「えっ、えーー‼ こんな時に見返りを求めるんですかぁ?」


「こんな時だからだよー」



 と、まぁ、ゲスな事を言ったが助けてあげるか。

 助けない理由がないから。



「じゃあ鬼を倒すから避けろよー。こい、夜叉丸。鬼の型 昇炎華しょうえんか・乱」


「えっ....ちょっとー」



 その人間の後ろにいる鬼たちに爆発する氷をたくさんあげると、人間の後ろが爆発していて、なんか見ていて楽しい光景になった。



「い、今のは」


「お疲れさま、って言いたいところだけど名は?」


「あっ。申し遅れました、私は一ノ瀬いちのせ真昼まひると言います」


「一ノ瀬、ね」



 首もとに刀を当てて質問する。



「嘘はつくなよ?」


「そ、その前にこの状況は....」


「あぁ、一ノ瀬家は敵の可能性があるって事で意見が纏まったからな」


「なら話しは早い」


「そうか、敵と言うことか」


「ちっがーう。僕は助けてもらいに来たんです」


「ふん、本当の事か。それで最初が私で次が僕なのはなぜだ?」


「はっ‼ つい、言葉遣いは気を付けているつもりなのですが」


「まぁとりあえず中に入れるか」



 一応拘束をして動けないようにしてから、引きずって結界の中に入る。

 そして、丁度ながつきを見つけたので声をかける。



「おっ、ながつきー。これどうすればいい?」


「これって....なんで真昼さまがここに?」


「久しくぶりです、ながつきくん」


「これはどういう事だ、忌助?」


「なんか事情があるみたいだが一応一ノ瀬家ということで拘束しただけだ。ながつき、面倒な事は嫌だから任せた」


「あっ、ちょっ、おーい」



 ながつきの呼び掛けを無視してもう一度結界の外に出る。

 そう、適材適所だ。

 自分は主に戦闘系で活躍できる。

 ながつきは何でも屋だな、何でもできるし特に呪札が凄い。

 あれで色々な事が出来るのだから覚えるべきだろうか?



「おっ、鬼だ」



 鬼の気配を感じたので影の中に入り、様子を見る。


 近づいてきた鬼は五体。

 鬼たちは集団で一つの小隊を作って行動しているのか。

 あれぐらいの鬼なら一分も必要ないだろう。



「[影遊び] 影奈落」



 数を減らす事は大事だから、影の中に落とし入れる。

 この技なら殺す訳ではないから蘇らせられないから、鬼には友好的だ。


 けど、これは茨木いばらき童子どうじには効かないだろう。

 本当に自分は鬼を、強い鬼と戦う事が出来るだろうか?



 ん?

 また鬼の気配を感じる。

 この鬼は....知らない鬼だな。

 だが強いだろう。



「[影遊び] 影奈落」



 様子見として影奈落を仕掛けるが、跳ぶ事で避けられてしまった。



「どこにいる? 鬼か? 人か?」



 もちろん答えない。

 流石に答える必要がないからな。

 答えるなんて馬鹿のすることだから。



「まさか俺の居場所がわかるとはな」



 いたー‼

 本当に馬鹿がいたー‼

 なぜ答えたんだ?

 しかもいたんだ‼

 気がつかなかった。



「この俺、七鬼王しちきおうの一人、鬼武者きぶしゃに気がつくとはな」


「ほう、お前も七鬼王とはな」


「まさか」


「そう、私も七鬼王が一人、弍珍にちん



 七鬼王が二人もか。

 ここでこの二人は共闘するか、仲間割れをするか。


 そうだ、いい事思いついた。



「いやー、まさか七鬼王が二人もいるなんてね」


「誰だキサマ」「何奴」


「んー、分かりやすく言うと夜叉丸?」


「ほう」「ふむ」


「それでなんだけど自分は強い方と戦いたい。弱い方には興味がないから。と言う訳ではどっちと戦えばいい?」


「俺だ」「私だ」



 鬼武者と弍珍は合わないのかな?



「どっち?」


「俺が戦う。文句はないだろ」


「いいや、文句は大有りだ。私が、私が戦うべきだ」


「なんだとー?」「殺ってやる」



 そして二人の戦いが始まった。


 見た感じ弍珍の鬼能は鏡系で、鬼武者の鬼能は連攻な感じだ。

 弍珍は鏡を出して相手の技を反転させる一方で、鬼武者は連続で攻撃をしている。

 その攻撃が一発当たるごとに力が増していて、破壊力が物凄い事になっている。 



「こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 極星の軌跡」



 小声で夜叉丸を呼び出して不意討ちを狙う。

 隙を見つけようと目を凝らしているが、なかなかどうしたものか。



「なかなかやるではないか、鬼武者」


「そちらも七鬼王と言うだけはある」



「「だが」」



「これで最後だ。霊鏡れいきょう 写し絵」


「これで終わらせる。省略の百連目」



 まてまてまて、弍珍は何となくかっこいい技なのかな? っていうのはわかる。

 けど鬼武者はずるくないか?

 連続で攻撃するから威力が上昇するのにそれを省略って。


 弍珍の鏡からは姿形すがたかたちが同じ鬼武者を出して、鬼武者と偽鬼武者がぶつかる。

 そして、



「勝たせてもらったよ、鬼武者。夜叉丸を連れて帰るのは私だ」



 勝ったのは弍珍の方だった。

 鬼武者は力を出しきったのかピクリッ、とも動かなくなり、気を失っているのだろう。



「さて、じゃあ始めようか」


「む。ち、ちょっと休憩させてほしいのだが?」


「なぜ?」



 連戦なのはもちろんわかっている。

 けど、それは弍珍の事情であって自分には関係ない。



「な、なぜって流石に私も疲れてるからだ」


「そっか、そうだよね」


「お、おお。わかってくれたか」


「ならすぐに終わらせるからね」


「なっ、酷すぎはしな――――」


「――――こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 極星の軌跡」


「それでもお前は人間かぁ‼ この鬼ー、鬼ー」


「鬼はそっちだろ。星の力双子座ジェミニ カストルの断罪」


「グッ、霊鏡反射」



 霊力で作られた矢を弍珍は鏡で跳ね返してきた。

 だが、その全てを絶え間なく飛ぶ霊力の矢によって相殺される。



「星の力双子座ジェミニ ぐはっ....」


「チッ」



 なぜか急に自分は血を吐いてしまった。

 変な力が流れ込んできて、体の調子がおかしい。

 平衡感覚はずれてグラングランと揺れている感覚だ。


 弍珍は何かを感じて逃げてくれたおかげで死なずにすんだが、自分の体は大丈夫か?



「意識が、もう....」


「忌助くん‼」



 あぁ、鈴の声が聞こえた。

 そんな驚いたような声を出してどうしたんだよ。



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