赤い鬼の子。

45. キョウジン

　「これは、兄上の書いた物か？

　　なになに、鬼を倒せる人、愛六（あいろく）忌助（きすけ）？　これって....この人を頼ればどうにかなるかもしれない」

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　・鬼を倒せる人・

　　愛六忌助

　― 大霊術学校一年　鬼の子であり、愛六家の継承権は無し。

　　刀の腕が凄く接触を試みたと思う。失敗に終った。

　　憎い相手、殺す相手、妬む相手....。

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「ねぇねぇ、今どんな気持ち？　折角ここまで来たのにやられて。ねぇ、ねぇ、答えてよ」

　流石にそろそろ潮時かな。

「ねぇ、どんな気分だよ、鬼。いや、虎熊（とらくま）童子」

「なっ」

「ねぇ、だからどんな気持ち？　主の命令でここまで来てこんな惨めにやられてそして、

　こい、夜叉丸。これがお望みの武器だよ？」

「い、いつ、から」

「何時からかって？　さ、い、しょ、か、ら、だよ。紅蓮流」

「ま、待て。殺さないでくれ」

「剣術」

「頼む、本当に頼む。殺さないでくれー」

「死」

　霊力に干渉し虎熊童子の首を落とす。

　もちろんそれだけじゃ死なないだろうから炎霊術で燃やしてしまう。

　ふぅ、危なかった。

　もし、最初から本気を出されていたら勝てただろうけど、被害が大きかったと思う。

　それに最初からって言ったけど最初からはわかってなかったんだよな。

「忌助くん、今のって」

「うん、鈴も戦ったからわかると思うけど校長先生だよ」

「だよね。でもよくわかったね」

「「えーーーーーーっ、校長先生ぃぃぃぃぃぃ」」

「えっと、うん」

　この場で観ていた人たちは声を揃えて驚きの声をあげる。

　いや、驚くのはわかるけど、相手は結構強い鬼なんだよ。

「玖郎さん、一ノ瀬家って味方なんでしょうか？」

「うーん？　味方、だと思ってたけど、そうじゃないかもね」

「なら、八重（やえ）家の人と十寺（じゅうじ）家の人は早めに処分をするべきですよね」

「でもそれだと、この場所が鬼たちバレちゃうよ。いや、もうバレてるのか」

「いや、バレてないと思います。多分あの鬼が凄かっただけだと」

「そうなのかい？　でも忌助くんが言うならそうなのかな？」

　早めに処分をしちゃいたいから、信じてくれるのはありがたいけど、そう簡単に信じちゃうのは....。

「忌助くん、処分をするにしても鬼にばれないようにする必要があるよ」

「それは大丈夫です。玖郎さん、学校で成績が優秀で信用できる生徒を二人紹介してください」

「わかった、けど」

　玖郎さんは納得をしていないながらも、自分の事を信じて行ってしまった。

「ながつき、ア――――」

「――――わかってるよ。アレをするんだろ？　準備しておく」

「頼むよ」

　ながつきに鬼能を移す呪札の製作をお願いする。

　多分すぐに出来るだろう。

　さて、後考えないといけないのは鬼能を移している間に学校をどうバレないようにするかが問題だ。

「鈴、朱音。相談なんだけど、いや相談ではなくて、えっと」

「なぁに？」

「結界術って使えたりする？　後、幻影術も」

「ごめん、結界術なら少しはできるけど幻影術は」

「私も無理っス」

「そっか、でも結界術だけでもできるならいいかな」

「なんでっスか？」

「鬼能を移す間に学校を守る為にね」

「でも幻影術？　はどうするの？」

「あぁ、それなら一回近くで見たから出来たらいいなーって。別に出来なくてもながつきなら呪札にすれば作れるかなっておもってるから」

「なんという他人任せっスか」

　だって出来ないならできる人に任せるべきでしょ。

　適材適所ってやつだから自分はなにも間違ってない。

　うん、大丈夫。

「忌助くん今、適材適所だからって思ってるでしょ」

「な、そんなに顔に出てた、か？」

「うん、自分は間違ってないって顔してたから」

　やっぱりそんなに顔に出てたのか。

　これじゃあ戦闘中に相手に何を考えてるかバレるから弱いんじゃ。

　でも、鈴と玖郎さんしか顔に出てるって言わないから大丈夫か？

「忌助、完成したぞ」

「早いな」

「まぁ、写すだけだったからな」

　そういうもんなのか？

「忌助くん、連れてきたよ」

「玖郎さん、ありがとうございます」

　これで後は、

「ながつきと朱音にお願いしてもいいかな？」

「いいけど鈴と二人でナニするんだ？」

「ん？　結界術と幻影術をね」

「なーんだ、つまんないの」

「何がつまんねぇんだよ、ながつき。そっちは大事な仕事だぞ」

「まぁね」

　ながつきは踵を返して歩いていく。

　つまんないって言ったってしょうがないじゃん。

「さぁ、鈴。鈴には結界術をお願いしたいんだ」

「わかった。来て、時雨（しぐれ）。水瓶座（アクエリアス）　神水（しんすい）の泉」

「こい、夜叉丸。双子座（ジェミニ）　極星の軌跡」

　鈴は結界術を出来るって言ってたから成功するだろう。

　でも自分は一回見ただけだから出来るかな？

「星の力水瓶座（アクエリアス）　絶対（ぜったい）聖域（せいいき）」

　張られている結界を覆うように、蒼く綺麗な膜が張られていく。

　これは成功だろうか、後で確認しよう。

　次は自分、

『星の力双子座（ジェミニ）　炎影楼（えんえいろう）』

　頭の中に夜叉丸じゃない、温かい声が聞こえてきた。

「星の力双子座（ジェミニ）　炎影楼」

　無数にある刃の内、二つを握りしめ粉々にすると、粉々の刃は熱を含みモワァッとした空気が広がる。

　それがおさまると、何事も無かったかのように静かになった。

「これで大丈夫かな？」

「わかんない、けど見てきた方がいいよね」

「じゃあ自分が行ってくるよ」

「私もついてく」

　鈴と一緒に校門から結界の外に移動する。

　それと同時に、元々あった結界術と幻影術が消えたのがわかる。

「どうやら間に合っ....」

「鈴？　急に黙って....」

　鈴が学校の方を向き喋らなくなった理由がすぐにわかった。

　そう、そこにはあったはずの学校がなくなっていたからだ。

　それから一応確認の為、軽く、本当に軽く攻撃をしてみたが結界は攻撃を吸収して特に壊れたりとかはなかった。

　それと、鈴には先に戻ってもらって影に潜んで鬼の反応を見たが、結界に触れると結界の反対側に移動されていて、特に怪しんでいる様子もなかった。

　これって、成功でいいんだよね。

「お疲れ、忌助。お前、幻影術を使ったんだってな」

「うん、一応使えたけど慣れないせいもあってか疲れが凄いんだよ」

　戻って早々ながつきが労いの言葉をかけてくれた。

「もう休んでも大丈夫だろ。ここだったら鬼の警戒もしないでいいし」

「そうだけど....人の警戒もしないとだから」

「用心深いな、忌助は」

「....」

「どうした？」

「ごめん」

「なんだよ、急に」

「辛い役を頼んじゃったなって」

「八重家と十寺家の処分の事か？」

　自分は黙って頷く。

　今考えてみると、誰かが殺さないといけないことになる。

「朱音は、」

「朱音には殺らせてないし、見せてもいない」

「そっか」

「あんまり気にするなよ。別に忌助みたいに人を殺した事が無い訳じゃないから」

「でも」

「これでも当主となった身だ。殺しの一つや二つなんて問題ない」

　そうなのかな？

　自分は鬼を殺すことには躊躇がない。

　けど、人間は別だ。

　例え敵だとしても、鬼の様に欲望丸出しってわけじゃないから。

「そう悩まなくてもいいんじゃねぇか？　忌助には忌助のやることが、俺には俺のやることがあるってだけだよ」

「もしも忌助がまだ空の事を後悔しているならそれは違う。確かに空を殺したかもしれない。でもただ殺しただけじゃない。鬼から開放してあげる為に殺した、助けるために殺したんだよ」

「助ける、為？」

「そう、よくって言っても知らないだろうけど、町では強力な悪霊に憑かれ死ぬしか開放される方法が無いって時がある。そういう時、その人を助ける為殺す事があるんだ。その人は人だ。鬼人でも鬼でも悪霊でもない。ただの人だ。それと比べたらって言い方はアレだけど、もう少し自分の為に考えてみたらどうだ」

「自分の為に考える....」

「別に答えなんてでなくていいんだよ。その内フッと出てくるから、そういうもんって」

　自分にはよくわからない。

　でもわかる日がくるんだろうか？

　空はそれで許してくれるだろうか？