36.  イチノセクレヤ


 「お前の憎しみの味は最高だよ、暮夜」


 「お前の苦しみの味は最高だよ、暮夜」


 「お前の欲の味は最高だよ、暮夜」


 「お前の快感の味は最高だよ、暮夜」


 「お前は最高だよ、暮夜」


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 記憶がチクチクと針に刺されているかのように痛みが走る。

 担がれているのか揺れる度に体が鬼に蝕まれているのがわかるが、なに一つ抵抗できない。

 どれもこれもアイツに邪魔をされたからだ。



愛六あいろく忌助きすけ。お前だけは許さない」



 声にならない声でそう呟く。

 否、怨念を吐き捨てる。



「ん? 目が覚めたようだねッ」



 余程俺が重かったのか、投げられて地面に転がる。



「さて、さっさと起きろ。調子はどうだ? 今から茨木童子さまの所に連れていってやる」



「お前は何者だ」


「私? 私は楓だよ。茨木童子さまの手下なの」



袈瑠羅かるらって鬼はどこにいる?」


「袈瑠羅に用があるの? 生憎今は遊んでると思うよ。あっ、時間だよ」



 黒くて明るい空にはたくさんの流れ星が見える。



「まさかこれを俺に見せる時間って意味なのか?」


「そんな訳ないじゃん。ほら」



 楓の言葉が聞こえた次の瞬間、一つの強い光が暮夜目掛けて降り注ぐ。



霧具羅むぐら



 咄嗟に刀を呼び出し、刀の腹で光を受けるが意味がない。

 力が、物凄い強い力が流れ込んでくる。

 そして、


山羊座カプリコーン 悪魔のつるぎ


 知ってる言葉、知らない言葉、知っている事、知らない事、その全てが頭の中に流れ込んでくる。



「これは」



 自分の手にはさっきまでの刀ではなく、両刃の剣が握られている。



「やっぱり茨木童子さまは凄いよ。本当にこの子が十二星座を宿すなんて」


「十二星座、ふーん。試しに使ってみるか。星の力山羊座カプリコーン 縛りの霧」



 頭の中に流れ込んできた言葉を呟く。


 地面から涌き出た霧が楓の体を包み込んでいく。



「や、やめろ。何をする気だ」



 そのまま楓の全身を包み込み、



「星の力山羊座カプリコーン 鉄の処女アイアンメイデン



 霧は姿を変えて女の人の人形になる。

 そして霧の人形から吹き出る血の雨と楓という鬼の断末魔。



「うん、実にいい。試しに使ってみたけど悪くない。これなら愛六忌助に勝てるかな?」



 霧具羅をしまい今行かなくてはいけない場所、俺を鬼にしてくれた茨木童子の所に向かう。



「どこに行くきだ? 楓はどうした」


「袈瑠羅か。なんの用だ。俺は今から茨木童子の所に行く」


「ふん、十二星座の力を使えるからと調子にのるな」


「試してみるか? 俺が調子にのっているか....霧具羅、グッ」



 霧具羅が急に重くなり地面に突き刺さる。

 それだけにとどまらず、メリメリと地面に深く深く突き刺さっていく。



「なにをした、袈瑠羅」


「なにって技を発動しただけ。敵意を向けた相手に対して、その武器を使えなくするっていうね」



 厄介だ、気に食わない、邪魔をするな、たかが鬼の分際で、



「あの鬼と同じ末路を辿らせてやる。山羊座カプリコーン 悪魔の剣」



 星の力を発動した瞬間、さっきまでの重さは全て消えた。

 しょせんただの鬼の異能だからな。



「さて、なにか残す言葉はあるかな? ってあっても聞く気はないけど。星の力山羊座カプリコーン 悪霧の世界」



 霧がこの辺一帯を包み込む。

 俺も袈瑠羅も含めて見えないくらい濃い霧に包まれている。


 袈瑠羅は霧により呼吸は苦しく、感覚が狂いそうになる。



「星の力山羊座カプリコーン 苦悩の梨」



 突如、袈瑠羅の穴という穴から体の中に霧が流れ込んでくる。

 水のように止まることなく限界まで流れ込んでくる。


 そんな霧が段々と形を作っていき、梨が出来上がる。



「お気に召したかな? って言っても痛いだろうね、辛いだろうね、苦しいだろうね。体の中に異物が入ってるんだもん」


「ッッッッ」



 袈瑠羅は声にならない声をあげ苦痛に耐え続ける。

 だが、それは長くは続かなかった。

 なぜなら、



「楽しかったよ」



 暮夜のその言葉で、袈瑠羅の体の中にある梨は花が咲くように開いていき、体の内側から壊していく。

 尋常じゃない痛み、だが声は出せない。

 出して叫びたくても叫べない。


 これが山羊座の能力、苦を倍にする力がある。



 袈瑠羅は血の花を咲かせて命を散らした。



「呆気ないんだな、鬼の最後って」




 暮夜は夜の闇に消えていく。

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