35.  アクエリアス


 「これで後は袈瑠羅くんと楓を待てばいいけど、どっちかは死ぬだろうな」


 茨木童子は硬貨を指で弾いてから手の甲に落とす。


 「楓、か。袈瑠羅は楓の死体を回収してくれるかな? じゃないと生き返らせられないからね」


 夜闇の中、黒く光る太陽に照らされて、鬼は不適に笑う。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「いた、忌助くん」


琥珀こはくくん?」



 白銀の髪の中性的な自分の先輩、琥珀くん?


 

「まず、これを伝える。紅蓮さんが亡くなった」


「えっ‼」



 そんな、師匠が死ぬわけない。

 自分よりも何十倍も強いあの師匠が。



「殺ったのは誰かわからないし、死体も確認していない。けどこれを見れば納得するよ、おいで、極夜鬼ごくやき獅子座レオ ししの大鎌」


「これって....」


「あぁ、そうだよ。紅蓮さんの星の力が私に引き継がれたんだ」



 じゃあ本当なんだ....でも誰が。

 いや、心当たりはある。

 そして自分にあるなら琥珀くんもわかっているのだろう。



「「茨木童子」」



 2人の声が重なる。



「それしか考えられない」


「私もそれには賛成だ。だけど気を付けてね。私はまだやることが残っているから。それともう一つ、百鬼夜行は京都から始まったから逃げるなら北に行くべきだよ」


「わかりました、ありがとうございます。でも琥珀くんは」


「私はもう少し情報をね」



 そう言って琥珀くんは行ってしまった。

 茨木童子を倒そうとはしないよね?



 ※



「忌助、どうする? まずは北に逃げるか、学校に戻るか」


「うん、一応学校に戻ろう」


「了解、呪札 転移」



 一瞬の光に包まれて学校の校庭に、戦場に転移した。



「まさに戦場っスね」



 逃げ惑う生徒の姿と、それを弄ぶ鬼の姿。


 そして、それを傍観している校長先生。



「呪札 簡易結界。これでしばらくは大丈夫だ」


「ありがと、ながつき。皆、ながつきに合いそうな鬼がいたら言ってほしい」


「こんな時になに言ってるっスか」


「こんな時だからだ。一人でも多く鬼の子になる必要があるんだよ。朱音もいい鬼がいたら言ってくれ。自分が捕ってくるから」



 鬼たちは無差別に生徒たちを襲い、殺し、犯している。


 それにしてもなぜ校長先生は止めようとしないのだろう。



「いたっス。ながつきくんに丁度いい鬼が」



 朱音が指を指した鬼は血を垂れ流していて、その血を武器に変えている。

 明らかに異能持ちの鬼だ。



「一瞬だけ結界を解除して、その時に行くから」



 ながつきは無言で結界の解除を行った。

 バンッと音をたてそうなくらいの速さで、血の鬼に近づいていく。

 そして、



「こい、夜叉丸。鬼の型 氷刃縛ひょうじんばく



 刀から氷で出来た鎖をだして縛り上げる。

 が、抵抗して鎖にわざと傷つけられる行動をとり、血を操り鎖を砕いていく。



『鬼の王の絶対命令 牙血兎がちと、動くな』



 心の中から夜叉丸が血の鬼、名前を牙血兎と言うその鬼に命令をだした。

 牙血兎はこうべを垂れて動かなくなり、



「お久しぶりにございます。夜叉丸さま」



 夜叉丸、これって....。


『僕の知識や記憶が戻ったから色々な事が出来るようになったから。そして、牙血兎がさっき言っていたながつき用の鬼』


 なるほど、でもどうすれば。


『代わってくれる?』



 夜叉丸の言葉に従い入れ代わる。



「牙血兎、久しいな。君にはお願いがある。僕たちときてくれないか?」


「それは人間側につくということですか?」


「少し違う。僕はお母さまの成し遂げられなかった事をやりたいだけだ」



 夜叉丸は交渉をする一方で、周りからの鬼たちの攻撃を青い火の玉で遊撃している。


 自分はまだまだ夜叉丸の力を引き出せてないのか。



『ありがとう、忌助』


 ううん。



 どうやら、許可がおりたみたいだ。


 牙血兎を連れてながつきたちの所に戻る。

 その途中にも鬼はいたが、朱音にいい鬼はいなかったので、全て斬り捨てといた。



「今戻った。これがながつきの鬼になる予定の牙血兎がちと


「うん。夜叉丸さまに頼まれたからにはきっちりやらせてもらう。ただ、俺を容れられるほどの者じゃなければ暴れるからそのつもりで」



 腕を組ながら、堂々と弱いやつは裏切る宣言をしたけど、ながつきなら大丈夫だよね?



「始める。鬼呪札 発動」



 その言葉で牙血兎は消えて、ながつきは眠りについた。

 そして、



「ながつきが眠ったから結界が解けちゃったっスね」


「本当だ。しかもこっちに気がついた鬼たちがいっぱいいるね。来て、時雨しぐれ


「自分も。こい、夜叉丸」



 鈴と自分は各自鬼を、刀を呼び出す。

 鈴の刀は少し短く、蒼く透き通った色の刀だ。



双子座ジェミニ 双星の奇跡」


「な、なら私も、水瓶座アクエリアス 神水しんすいいずみ


「えっ、なんで鈴が?」


「わからないけど頭に降ってきた? って感じかな」



 まさか無さんが水瓶座アクエリアスだったのか?

 だから鈴に受け継がれたということなのか?

 わからないことだらけだけど、今は目の前の鬼たちに集中するべきだな。


 鈴の腰には小さな、でも物凄い大きな存在感を放つ水瓶みずがめがついている。

 その中の水はただの水のようだけど、鈴の意思によって動いている。



「なんだろう。自分の方が弱いような。それに茨木童子みたいにちょっと特殊だし、なんか悔しい」


「そ、そうかな? でも、忌助くんの二刀流だってかっこいいよ」



 クソ、そんな事を言われたら何も言い返せないじゃないか。


『そうだね、まだ力を引き出せてないもんね』


 やっぱりそうなのか、夜叉丸。


『うん、あの時はまだ不完全だったからね。でも今なら大丈夫』



 夜叉丸の意思に反応して刀が強く、何度も脈打つ。

 そして、



双子座ジェミニ 極星きょくせい軌跡きせき



 これが本当の双子座ジェミニの力なのだろう。

 自分の周りには無数の刀が宙に浮いている。

 そして、その一つ一つに意思があるかのように動かす事が出来る。



「星の力双子座ジェミニ カストルの断罪」



 数千数万の霊力の矢が鬼たち目掛けて止めどなく飛んでいく。

 そして残ったのは凸凹になってしまった地面だけ。

 ここにいた鬼たちは全部、一体を残して全て駆逐した。



「校長先生。あなたは何者なんですか?」


「まさか、あなたが戻って来て――――」


「――――星の力水瓶座アクエリアス 泉の声」



 鈴は校長先生の言葉を遮って、校長先生に攻撃を仕掛ける。

 それが不意をついた物だったのか、泉から聴こえる歌に誘われ泉の中に沈んでいった。



「ここは普通相手の目的とか聞くべきじゃ?」


「だって鬼だったんだもん」


「いや、まぁそうだけど」


「それに忌助くんが強くなって鬼を全部倒しちゃうから私の力を試せなかったんだもん」


「それはごめんなさい。つい、ね?」



 言われてみれば、強くなった力に興奮して一気にやり過ぎてしまったな。

 でも、あの校長先生はただの鬼じゃないのになんか呆気ないような。



「終わったんスか。倒したんスよね」


「うん、そのはずだよ。鈴の技で一発は見ていて呆気ないくらい」



「呆気ないとは申し訳ない」



 校長先生の声が響いて聴こえる。

 そして、



「改めまして、校長先生です。という冗談はさておき、虎熊童子です。よろしくね」



 その鬼は、虎熊童子は奇抜な衣装に身を包み、笑った顔の仮面をつけている。



「マリオネットダンス‼」



 手に持つ杖を振りながら指を「パチンッ」と鳴らす。

 その音で、さっき倒したはずの鬼たちの肉片が集まり、鬼が出来上がっていく。



「星の力双子座ジェミニ 百鬼操炎ひゃっきそうえん



 刀たちは青く燃え上がり、完成した肉片の鬼をすぐさま駆逐していく。



「星の力水瓶座アクエリアス 底無しの池」



 肉片に戻した鬼を池の中に落としていく。

 これで鬼を造り出すのは無理だろう。



「流石に星の力を持つ、しかも十二星座相手は辛いから逃げさせてもらうよ。アデュー」



 虎熊童子は行ってしまった。

 「アデュー」ってなんなんだ?

 聞いたことがないけど、使い方的に別れの挨拶かなんかだろう。



「そうだ、ながつきは」


「大丈夫っス。まだ眠ったままっスから」


「本当に大丈夫だよな、ながつき」



 流石にそんな早くに起きるとは思っていない。

 そういえば、朱音の分の鬼を忘れてた、うん、言えないな。



「そういえば、私の鬼はどうするっスか?」



 あっ、うん。

 やっぱり聞いてくるよね。



「それならあるよ」


「えっ。鈴、いつの間に」


「あの虎熊童子って鬼を泉に落としたじゃん? その時の偽者ならあるから」


「後はそれが強いかどうかだな。できたら夜叉丸の知り合いだと話が早くて助かるのに」



 ここのとこどうなんだ?


『残念だけど落ちた鬼は多分知らない鬼だと....。それと朱音にあう鬼を考えてたけどいいのがいたよ』


 いいの?

 それってどんな鬼能なんだ?


『それはね....』

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