34. ジッケン


 「さて、あなたならここに来ると思ってましたよ」


 「お前がこの百鬼夜行をやったのか、茨木童子」


 「はて、私はそんな事を望んでいません。安心してください、私ありません」


 「その言い方、知っているようだな。こい、金獅鬼。獅子座レオ ししの大鎌」


 「天秤座ライブラ 真実の皿」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「まだわかってないだろうね、夜叉丸。君は鬼神、神楽の子。だから鬼の王になる器ということだよ。そうだね、言うなれば『赤い鬼の子』って感じかな」



 赤い鬼の子....夜叉丸。



 夜叉丸、大丈夫か?


『神楽....お、お母、さま』


 しっかりしろ、夜叉丸。

 惑わされちゃダメだ。


『赤い鬼の子....』


 夜叉丸が例え神楽って鬼の子供でも夜叉丸には変わりがない。

 夜叉丸は夜叉丸なんだ。


『僕は夜叉丸』


 そうだ。


『王になるもの』


 へっ?


『人との架け橋になる存在』


 えっ‼


『全部思い出した。僕は赤い鬼の子の夜叉丸。人との架け橋になる鬼の王』



「ふんっ。思い出したみたいだな。これで仕事は終わりだ」



 袈瑠羅かるらは踵を返して暮夜が連れていかれた方に行ってしまう。



「まて、袈瑠羅。暮夜をどうする気だ」


「まだ喋るのか。力の差がわかっていないようだな。堕つる林檎」



ガハッ。


 体に見えない力がかかり起き上がる事すらできない。

 いや、それ以上に地面にめり込んでいく。



「忌助。呪札、呪縛の鎖」



 この声はながつき?

 なんで来ちゃったんだ。



玄武げんぶ、憑依」



 朱音が忌助の事を守る位置に現れた。


 朱音まで。

 って事は鈴も、



「大丈夫、忌助くん。回復霊術改 完治」



 鈴の霊術で忌助の体は光に包まれて折れた骨や、壊れた臓器を治していく。



「目障りな人間たちめ。君たちは茨木童子さまに特に言われなかったから殺し――――」


「チッ。外してしまうとは、鈍ったもんだな」



 袈瑠羅のいた位置には刀を振りきった、



「お婆さん?」



 変な力に解放された自分は、そのお婆さんがとても強い事だけは理解できた。 

 多分だけどお婆さんは鬼の子なのだろう、気配がないけど。



むう流剣術 圧殺」



 袈瑠羅はお婆さんとは反対の方向を向いてそっちしか警戒していない。

 そして、



「チッ。これでも避けるか」



 刀を振りきったお婆さんと少し離れた場所にいる腕の斬れた袈瑠羅の姿。



「このくらいにしておくか。楓が心配だ」



 そう言い残して袈瑠羅は消えてしまった。

 もちろん袈瑠羅の腕も一緒に。



「あなたは誰なんですか?」


「ただのお婆さんだよ」



 自分の質問にどこか含みのある言い方をしてくる。

 もしかして最初の「お婆さん」を根に持たれてる?



「まぁ、私はむう。名前は捨てた。が、苗字だけは覚えておる。雨三、それが私の苗字だ」


「えっ」



 もちろん自分も驚いたが、それ以上に驚いているのが鈴だ。



「もしかして、お婆ちゃん、なの?」


「むっ、お婆ちゃんだと? なら孫というのか。だが申し訳ない。私には記憶が無くてな」


「それはどういう意味で?」


「どういう意味で、ね。鬼の子よ、私は人工的に造られた鬼の子だ。それがどういう意味かわかるか? 鬼に体を蝕まれる。その苦痛から、いやそれ以上だろうな。そのせいで記憶がなくなってしまった、と言えばわかるか?」


「は、はい」



 人工的に造られた鬼の子って人間が造ったということなのか?

 しかも、無さんが言っていた事が事実なら雨三家は鬼の実験をしていたということになる。

 それだけじゃない、下手をしたら鬼人も造っていた可能性すらある。



「ただ、今はそれどころではない。酒呑童子という鬼が百鬼夜行を開始した」


「百鬼夜行、ですか? それは....?」


「ふむ、百鬼夜行とは鬼が人里を練り歩く事をさす。そして、鬼が通った道は鬼しか生きれなくなってしまう。そして百鬼夜行の範囲が日本全てということだ」


「日本全てが」



 ながつきの質問に丁寧に無さんが答えてくれる。

 日本全てって事はここも危ないって事なのか。



「鬼の子は安心せい、百鬼夜行では死なんからな」


「えっ、でもじゃあ」


「お主の言いたいことはわかっている。そしてこの中で私がもし助けるなら誰を選ぶかもわかるだろ?」



 それは多分、いや絶対鈴の事だろう。

 同じ雨三家だったかもしれなく、孫かもしれないのだから。



「だが、ここにいる全員を助ける方法もある。ただし、鬼に勝つしかないがな」


「それって」


「そうだ、鬼の子になるしかないということだ。この中で呪札が得意なのは?」


「俺です」


「なら君にこの呪札を、言うなれば〔鬼呪札〕って所かな。それは鬼の血で書いてある特殊なやつだ。手順はここに記されておる。これに従い術をかけてほしい」


「わかりました」



 ながつきが呪札の準備を始める。


 必要な、鬼を魂化する霊術、鬼の魂を留める霊術、鬼の部屋を造る霊術、鬼を縛る霊術、全てを自動調整する霊術、この五つの呪札を順番に起動しなくてはいけない。

 そしてただの呪札じゃないから、霊力の流れがとても難しいだろう。

 そこはながつきに任せるしかない。


 そしてもう一つ、鈴以外を鬼の子にする方法は、鬼を生け捕りにして、さっきの五つの呪札を発動すればできる。



「始めます」



 鈴と無さんは横になり目を閉じる。

 そして、



「これで最後の呪札」



 物凄い速さでながつきは終わらせた。

 もちろん失敗は一つもしていない、完璧な呪札使いだった。


 そして、無さんは息をひきとって、鈴は眠りについた。


 この眠りはあの時の自分みたいな感じだろう。

 あの鬼の部屋で鈴は鬼を従えれるかな。



「無さんはどうするっスか?」


「鈴が起きてから埋葬するよ。今できる最上の方法で」


「わかったっス」



 まだ鈴が起きる気配はない。

 大丈夫、だよね?




 ――――――――――――――――――――――――――――――

※     ~雨三あまみりん視点~


「始めます」



 ながつきくんの声と共に急な眠気に誘われ眠りに落ちた。

 そして、



「ここは....綺麗」



 一言で表現するな幻想郷。

 その言葉がピッタリな場所だ。



「そしてあなたが」


「そう、鬼」



 目の前には鬼が、黒い角を二本生やした美しい女性がいた事が

 否、よく見ると、爪や牙が鬼だった。



「でも容姿が人間みたい」


「そう、人間みたい、ね。面白い事を言うのね。私を使役する方法、私の事を斬ればいいわ、この刀で」


「この、刀で?」


「何か不満でも?」


「いや、不満というか――――」


「人間みたいだから抵抗があると」


「う、うん。それとまだ名前を教えてもらってないから」


「なぜ名前を知りたい?」


「えっとね、忌助くんっていう鬼の子はよく鬼の名前を言っていたから」


「なるほど。時雨しぐれ、それが私の名前だよ」


「時雨、ごめんね、ありがとう」



 刀を振るい、時雨の首を斬り落とす。

 そして、



「よくできました」


「まだ足りないの‼」


「いや、違うから待って、ねぇ待ってってば」



 鈴は逃げる時雨を追いながら刀を振るうが一太刀も当たらない。



「なんで逃げるの?」


「待て、待て、待て。もう大丈夫だから」


「本当に?」


「本当だよ。ほら、お戻り」



 その言葉で意識が遠退いていく。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

※     ~愛六あいろく忌助きすけ視点~



「私は....」


「鈴、大丈夫、か?」



 鈴は目覚めた。

 鬼の力を手に入れたのが、同じ鬼の子として手に取るようにわかる。



「鈴は鬼の子になった。だから後はながつきと朱音の分の鬼を捕まえなければ、百鬼夜行が来る前に」


「あぁ、そうだな。でもその前に....」


「わかってる。忌助くんもながつきくんも朱音ちゃんもありがとう」


「無さんを埋葬するよ。土霊術 土釜。鈴、無さんを」


「うん」



 鈴は優しく無さんを持ち上げて土釜の中に入れる。



「いくよ。浄化の炎 ちょう



 無さんの体を青い炎で弔う。

 少しして、釜が崩れて中からは、無さんの骨だけが残った。

 それを土霊術で造った土壷に入れて埋める。


 今ここで出来る最大の見送りだと思う。




「皆、もういいよ」


「わかった、鈴。ならながつきと朱音用に鬼が必要だけどなるべく使える鬼能の方がいいよね」


「俺の場合はあの〔鬼呪札〕を見て決めた。血を使う能力ってあるのか?」



 夜叉丸は知っているか?


『うん、知っているけどそんな運よく現れるって事はないと思うよ』


 だよな。

 ならどこにいるかとかは?


『それは無理。いくら知識があってもそこまでは』


 そっか、そうだよな。



「夜叉丸が言うには能力はある。けど見つけられるか、って言ったら大変らしい。朱音は?」


「私は忌助くんが使ったような〔身体鬼化霊術〕が使えるならなるべく強い鬼がいいっス」


「なるほど、そっちの方が簡単だね」



 なら方針は朱音の鬼を優先で、ながつきに合うのがあればって感じか。

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