37. ホカク
ここは高等大霊学校校庭、生徒たちは放心状態にあり、血塗られた地獄と化してた。
「これは‼ 玖郎さま、如何致しましょう」
「うん、先ずは
「はい」
「それとここにいる生徒たちに例の薬を、失敗作は処分して構わないから。それから鬼の血だろうな。研究に使うから持っていけ」
「はい。皆、聞いたか。仕事だ」
白服を着た二十人程の男たちが刀を呼び出し、生徒たちに薬を渡していく。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
あれから一日経過したが、暮夜が起きる気配がない。
眠ったまま、なにをしているのかさえもわからない。
夜叉丸曰く、鬼の部屋と現実との時間は同じではないから、下手をしたら、あっちでの一瞬が、こっちでの一日になる可能性もあるらしい。
「それにしても、なんで生徒たちから逃げたんですか? 忌助くん」
「ん? なんとなくだけど、あのまま学校にいたら何か嫌な事が起きるような気がしたんだよ」
鈴の質問に答えると朱音から質問がきた。
「何か嫌な事っスか?」
「そう、あそこに玖郎さんもいなかったからいる意味もなかったしね」
「玖郎さんって玖郎先生の事っスか? 鈴ちゃんのお父さんの」
「えっ、私のお父さん?」
「そう、玖郎さんにちょっと用があったっていうか相談したいって感じかな」
そう、玖郎さんへの質問は鬼の子の実験についてだが、鈴や朱音にはあまり言いたくない。
多分だけど、玖郎さんは鬼の子の実験を手伝っていた可能性が高い。
理由としては当主に近いってのもあるけど、自分に協力の仕方が異常な程よかったからだ。
これだけではまだ甘いかもだけど、聞かなくてはいけないことに変わりはない。
「あれ、俺は何を」
「目が覚めたか、ながつき」
「あぁ、思い出した。鬼を取り込んだのか」
「大丈夫、なのか?」
「問題ない。段々と思い出してきた。なんか凄くよく寝た気分だよ」
ながつきが言うには、体感では一時間くらい話をして、少しだけ戦い、そっから先は記憶がないらしい。
この時に、長い長い眠りについたのだろう。
「そうだ、ながつき。鬼は、
「あぁ、やるぞ。牙血兎、力を」
ながつきの右手から血が垂れて刀を形作る。
なんとも面白い刀の呼び出し方だ。
夜叉丸、ながつきにも星の力を与える事は出来ないのか?
『できないこともないけど』
けど?
『その前に朱音の鬼を早めに捕まえる必要があるぞ』
それもそうだな。
「とりあえず方針を、朱音の鬼を手に入れる事が今の目的だ」
「私っスか?」
「そう、それが終わるまで北に逃げて、鬼を手に入れたら学校に帰る。それでいこうと思う」
皆の賛同を得て、方針が決定した。
ちなみにながつきの掌の傷は癒えないので包帯を巻いておくことで処置した。
※
あれから三日が経過してわかった事がある。
鬼の強さが上がっているという事だ。
夜叉丸が言うには、百鬼夜行の効果で鬼の能力が数倍から数十倍に上がっているらしい。
それに比べて、鬼の子の能力は上がりはしない(鬼人の能力は上がる)、百鬼夜行はとても厄介な代物らしい。
「どうだ、ながつき。使えそうか?」
「あぁ、牙血兎が協力的で力をくれるから結構楽に戦えるよ」
「それは良かった。後は朱音のだけど、これって鬼がいたら言ってね」
「了解っス」
ながつきは牙血兎という鬼を上手く使えるようで良かった。
本当に夜叉丸に感謝だな。
「来た」
次こそ、いい能力を持った鬼が来てほしいところだが、
「ただの鬼みたいだな。ながつき」
「よしきた‼ 血弾」
ながつきは右手の包帯を外して手を振ると、血が弾丸のように飛び、鬼の体を壊していく。
言葉通り、鬼の体の中に入った血の弾丸は膨張していき、鬼の体は破裂する。
「ちょっと可哀想になる殺し方だよな」
「そうか? 俺は別に気になんないけど」
「そ、そっか」
気にならないのか。
まだまだ気持ちがついてこれてないみたいだな。
「また来たよ」
木の影から出てきた鬼は、鬼であったが鬼ではなかった。
今までの鬼は人の形をしていたがこの鬼は人ではない。
この鬼は、背中から六つの手が生えている青鬼だ。
自分は思った、
「気持ち悪い」
「おい、声に出てるぞ。喧嘩売ってんのか?」
『
夜叉丸の知り合いか?
『知り合いだったら良かったけど、知り合いよりもたちの悪いもの』
まさか、敵?
『そう、そのまさか。壱千手は酒呑童子の手下、七鬼王と名付けられた手下の一人だ』
なら強いって事だよね。
『そうだろうね。簡単にはやられてくれないと思うよ』
七鬼王、この壱千手以外にも六人いるのか。
「コイツにするっス」
「えっ‼」
「コイツにするっス」
「あっ、はい。鈴、ながつき、協力してコイツを捕まえるよ。こい、夜叉丸。
「
「来て、
三人では過剰戦力かもしれないが、多いにこしたことはない。
それに相手の強さがわからない以上、慎重に行くべきだろう。
「鈴は後衛で、自分とながつきで拘束するよ」
「「了解」」
「三対一は卑怯じゃないんですか?」
鬼が、壱千手がそんな事を言うが意味がわからん。
「そんなの知ったことか。自分なんて百体くらいと一気に戦った事があるんだよ。星の力
「〔
壱千手目掛けて青く燃える無数の刃が飛んでいく。
だが、元々当てるつもりはなかった。
壱千手が逃げた先に、ながつきが仕掛けた罠が発動し、壱千手を拘束する。
「ながつき、あの鎖は?」
「あれは霊力を乱して、活動状態を著しく低下させる鎖。今呪札で作った」
うん、やっぱりながつきはおかしい。
そう簡単に呪札って作れる物じゃないし、鬼の力もここまで使いこなしてるのは、天才だからか?
「グッッッ、放せ。話せばわかる」
壱千手の八つの手を鎖が拘束していて動けなさそうだ。
「ながつき、朱音のを頼む」
「了解。〔鬼呪札〕
鬼鬼化って鬼の子に、鬼の子か鬼人にする能力って事だよな。
完全に使いこなしてるって事か。
ながつきは呪札を一枚、壱千手に投げて額に貼る。
が、
「なーんてなッ」
壱千手の青かった体は黒く宝石のように変色し、見るから固く頑丈になっているのがわかる。
「星の力
無数の刃から霊力の矢が壱千手目掛けて飛んでいくが、
「効かねぇな」
数万の矢は当たったはずなのに、黒く変色した体には傷一つついていない。
「血弾」
「星の力
「星の力
ながつきからは血の弾が、鈴は空気中の水分を龍のように操り、自分は壱千手の周りに無数の綺麗な刃の
これが今持てる自分たちの一番の技だろう。
壱千手は血の弾で体に穴を開け、水龍で体を腐らせて、無数の綺麗な華で体が
そして、
「殺しちゃった」
「みたいだな」
「あっ、うん」
「えっ、えっ、私の鬼っスよ~」
自分とながつきと鈴の言葉に朱音が情けない声をあげる。
「いや、ごめん。相手が思いの外強かったんだよ」
「ごめんね、朱音ちゃん」
「悪いッ」
三人で謝るが、朱音はそっぽを向いたまま機嫌を損ねてしまったらしい。
やらかした。
相手が強いからって、早く朱音の鬼を手にいれたいのに。
『でもいいこともあるよ』
なんだよ。
勿体ぶらずに言ってくれよ。
『壱千手を倒したから、[複製]の効果で[
えっ、最近異能の鬼と全然戦ってなかったし、発動しなかったからすっかり存在を忘れてたけど、
「[黒硬化] 腕」
キンッという音をたてて肩から先の右手が黒く宝石のように変色した。
壱千手と同じ能力だ。
「それって」
「そう、壱千手の能力。自分の鬼能に[複製]っていうのがあってそれのお陰?」
「なんだ、その[複製]っていう滅茶苦茶強そうな能力は。相手から能力を奪うとか反則級だろ」
「でもこれ絶対じゃないんだよ?」
ながつきが羨ましそうにしているが、絶対じゃなければ意味がない。
次は考えただけで発動するか試してみる。
足よ硬くなれ、足よ硬くなれ、
「出来た‼」
右足も黒く宝石のように変色した。
これで戦いの最中にも使える。
「で。け、っ、きょ、く、わ、た、し、の、は?」
朱音を物凄い怒らせてしまった。
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