29. ゲンジツ


 「それは本当なのか? 夜叉丸が星の力を....」


 「はい、間違いないとおもいます。それも十二星座でした」


 「報告ありがとうね、袈瑠羅かるら。それで十二星座のなんだった?」


 「双子座ジェミニでした。武器としてはまだまだですが力は上手く引き出せています。そして今日、二刀流を教えてもらうそうです」


 「そうか、そうか。それは面白そうだから見に行こう」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「君が忌助くんだね。家の子と班を組んでくれてありがとうな。お陰で第一試練突破したから」



 いきなり声をかけられて驚いたが、とても優しそうで、どこか力強い。



「初めまして、愛六忌助です。二刀流を教えていただきたく来させていただきました」


「そんな畏まらなくてもいいって。教えてもいいがもうちょい待っててくれ。一段落したらまた声をかけるから」



 そう言って仕事に戻っていった。



 十分くらいして空のお父さんが戻って来たのでもう一度自己紹介をする。



「初めまして、愛六忌助です。今日は宜しくお願いします」


「初めましてだね。空の父の鏡谷かがみや汐朗せきろうだ。ここでは練習できないから悪霊討伐にでも行くか」




 という訳で自分と、汐朗さんと空とで悪霊討伐に来た訳だが、



「悪霊が全然いませんね」


「そりゃいない方がいいだろう?」


「そうですけど練習になりません」


「まぁ見てろよ‼」



 汐朗さんは呪札で武器を呼び出す。

 どことなく、鬼の武器と呼び方が似ているような。


 汐朗さんの武器は二刀流の刀で、持ち手の先が鎖で繋がっている少し特殊な武器だ。



「俺の場合こう扱うんだけど、そういう訳じゃないもんな」



 汐朗さんは体の周りに刀を振り回す。

 ヌンチャクみたいに扱っているのがわかるけど、ヌンチャクは得意じゃないからな。



「後は二刀流を使う上で片方に集中しちゃいけないって事だ。忌助くん、かかっておいで」


「こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 双星そうせいの奇跡」



 夜叉丸を呼び出し、二刀流にする。


 汐朗さんは二刀流を構えたのを確認すると、刀を飛ばしてきた。

 鎖は延び、離れている刀との距離をゼロにされる。

 ギリギリの所で避けて、刀を叩き落とす。


 次は自分から突っ込む。

 片方の刀は斬り上げて、もう片方の刀で挟み込むように斬りつける。

 が、首もとに刀を当てられ、自分は刀を止めるしかなかった。



「今のだと手を拡げてるから胸を見せる事になる。それだとよくないから片方を逆手に持てば?」


「逆手、ですか」



 試しに左手は刀を逆手で持ってみる。

 何度か振り回してみたが、使い勝手がよかった。


 そして、汐朗さんに練習相手になってもらってなんとか形にすることができた。



「今日はありがとうございました」


「いいよ、気にしなくて。んんん、久しぶりにいい運動ができた」


「空もありがとね」


「ううん、気にしなくていいよ。忌助くん最後の方よかったよ」


「えへへ、そうかな」



「えぇ、そうですよ」



 照れていると、ここで聞こえるはずのない声が聞こえた。

 そして感じる禍々しい鬼の霊力と何体かの鬼の気配。


パチッパチッパチッパチッ。


 と、忌々しい拍手まで。



「なぜここにいる、茨木童子」


「わぁ‼ 名前を覚えててくれてるなんて光栄だよ、忌助くん」


「汐朗さん、空、自分の後ろに」



 二人を庇うように移動する。

 そしてなぜか空は眠っている。



「ここで二人を守りながら戦えますか、忌助くん?」


「愚問だな。そんなの無理だ。だから早々に片をつける‼ こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 双星の奇跡」


「情報通り双子座ジェミニですか。なら私も、◯◯◯ 真実の皿」



 茨木童子の周りにいくつかの皿が浮いている。

 そのどれもが強く、禍々しい霊力を放っていて、壊すのはそう簡単ではないだろう。



「さて、どのくらい守れるかな? 冥土の土産」


「グハッ‼」



 茨木童子の技は自分ではなく後ろ。

 汐朗さんに当たっていた。


 汐朗さんの足が付け根からなくなっていて血が止めどなく流れている。



「回復霊術 大」



 急いで回復させるがなかなか血が止まらない。



「ほらほら、早くしないと弱っていって死んでしまいますよ? 次、星の力◯◯◯ 灼熱の光」



 一つの皿が光次の瞬間、頬に火傷を負わされた。

 外した、のか?



「外してませんからね」



 その言葉で理解した。

 茨木童子は自分の事を殺す気は一切ないと。

 その代わり、後ろの汐朗さんと空は死んでも構わないと思っている事も。


 汐朗さんは腹部に穴を開けられて貫通している。

 その後ろの地面は硝子になり、キラキラ光っている。



「星の力双子座ジェミニ 炎の慈悲じひ



 頭に届いた声に従い技を発動する。

 右手の刀が青い炎に包まれる。

 その炎が意思を持ったかのように、汐朗さんにまとわりついて、止血されていく。



「ほう、凄いですね。ですがまだまだいきますよ。星の力◯◯◯ 冥土の番犬」


「星の力双子座ジェミニ カストルの矢」



 茨木童子の皿から出てきた闇の犬を矢で撃ち抜く。

 相討ちなのか、お互いの技は消えてしまった。



「時間切れです」


「グァァァ」



 後ろを見ると、いつの間にか近づいていた鬼、楓に汐朗さんは心臓を貫かれていた。



「貴様ぁぁぁ‼」



 楓の首を斬るため刀を振るうが、風を斬るだけだ。

 楓を追い刀を振るっても、虚しいくらい当たらない。



「忌助くん、そんな事をしてていいの?」



 そう言って茨木童子は指を鳴らす。

 それに反応して眠っていた空が目を覚ます。

 そして、



「お父さん、お父さん、どうしちゃったの? しっかり、しっかりしてよ」


「鏡谷空くん、君のお父さんが死んだのは忌助が守らなかったからだ」


「忌助、くんが、守らなかったから?」


「そうだよ。忌助には力がある。強さもあるなのに守らなかったんだ」


「守らなかった....」


「惑わされるな、空‼」



 茨木童子が空に洗脳紛いの事をしている。

 咄嗟に声をかけたが、



「守らなかった....?」



 遅かったようだ。



「こっちにおいで、空くん。そうすれば力をあげよう。大事な人を守れる力を、恨みを晴らす力を」


「待って、空。そっちに行くな‼」



 空は茨木童子の方に一歩、一歩足を進めていく。

 そして自分の声はもう届いてなさそうだ。


 茨木童子は空に何かを飲ませて、霊力を少しだけ与えた。

 それだけで、空の額には角が生えて、人ではなくなった。

 そう、鬼に、鬼人になってしまったんだ。



「お父さんの仇、殺す、殺す、殺す」



 刀を構えようとしたが、体が動かない。

 それにさっきも動かそうと思ったが動かなかった。

 そして今、気がついた。

 自分の体には棘のある蔓が巻き付いていて動きを阻害されていた。


 後、空との距離は少ししかない。



「星の力双子座ジェミニ 蜃気楼」



 片方の刀を遠い地面に投げて空の攻撃を待つ、


グサリッ。


 音をたてて空の武器が突き刺さり、自分は揺らいで消えた。

 そして刀の場所に移動する。



「危なかった、流石に死ぬかと思った」


「フム、まだ生きてるか。流石しぶとい」



 そんな称賛をうけても嬉しくない。

 この危機を脱する方法は、



「その空って子を殺すしかないよ?」



 茨木童子は嬉しそうにそういう。

 だが、それを実行するわけにはいかない。


 空は一歩一歩近づいてくる。



「空、今助けるからね」



 身体強化霊術を最大限使い、茨木童子に肉薄する。

 そして茨木童子の首を斬り落とす。


 この時に気がつくべきだった。

 茨木童子が一切抵抗をしなかった事を。



「いやー、面白い喜劇だったよ」



 目の前に広がる光景。

 それは首のなくなった空と、それを嘲笑う茨木童子。


 聴きたくない、見たくない、認めたくない。

 でも、認めるしかない。

 自分が空を手にかけた事を、殺してしまったという事を。



「あはははははは、はぁ。私はそろそろ失礼するよ」



 そう言って茨木童子は姿を消した。

 残っているのは、自分と、汐朗さんの死体と、そして自分が殺してしまった空の死体だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る