27. ジェミニ


 「まだ見つからんのか‼」


 「虎熊童子、落ち着けって」


 「すまん、取り乱した。熊童子」


 「これは2人の失敗だから。それにしてもあの楓と袈瑠羅かるら。アイツらは誰の手下なんだ」


 「それさえわかれば苦労はしないのにな」


 「アレの準備はできているんだよな」


 「あぁ、神楽の子を戦わせる準備は出来ている」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 熊童子も楓も袈瑠羅かるらもいなくなり、命を失わずにすんだ。


 教師たちは後片付けにおわれとても大変そうにしている。

 もちろん玖郎さんもそうだ。



 自分は油葉根ゆはねさんを連れて家に、愛六家に帰る。

 が、



「止まれ、ここは愛六家だぞ。今日の予定者はもういない‼」



 なんでこうなる?

 一応自分の家なのに。



「なぜ止まる必要が?」


「な、なぜってここは愛六家だぞ」



 いや、知ってるよ‼

 だから来たんだから。



「それがなにか? 自分の止まる理由にはなりません」


「止まらないなら命の保証はしないぞ」



 なんでそうなる?



「油葉根さん、なんでこんなことになってしまったんでしょう?」



 門番は応援を呼び、今この状況、囲まれてしまったのだ。



「それは忌助さまが名乗らないからだと思いますよ」


「なるほど。言われてみればそうだな。改めて始めまして。愛六忌助です」



 これで大丈夫だ....ろ?



「きさま、愛六家を馬鹿にしているのか‼ お前ら、殺れ」



 どうしてそうなる?



「こい、夜叉丸。鬼の型 氷極」



 顔以外を凍りつかせる。

 これで動けないだけですむだろ。



「お父様、用事があり帰ってまいりました、愛六忌助です」



 大きな声で呼び掛けるとお父様が出てきた。



「忌助か、なんの用だ」


「はい、その前にこの無礼者たちを斬り落としても問題ありませんよね?」


「ふむ、コイツらは結構優秀だったのだがな」


「嘘ですよね?」


「あぁ、当主やその側近たちよりは弱いがな」


「それで斬り落としても?」



 コイツらで鬱憤晴らしがしたい。

 なかなか入れてくれないから怒りが溜まってもう。



「や、やめてくれ、殺さないでくれ」



 変な事を言っている。

 意味がわからず首をかしげる。



「油葉根さん、コイツ「止まらないなら命の保証はしないぞ」って言ってたよね?」


「はい、言っていました」


「それで....なんだっけ?」



 もう一度聞くとバツが悪そうな顔をした。



「あれ? ウンとかスンとか言ったらどうかな?」


「....」


「自分で殺そうと思ったけどやーめた」


「な、なら」


「だから油葉根さんにお願いするね? もし油葉根さんに勝てたら見逃すよ。逆に負けたら仲間も道ずれだからね?」


「鬼の型 煉獄れんごく



 油葉根さんと門番を炎の球体に閉じ込めるように会場を用意する。

 愛六家の前は敷地が結構あって助かった。



 中はどうなってるかわからない。

 数十分して煉獄が崩れる。

 そして中から出てきたのは油葉根さんだった。



「さて、殺すか....ッ‼」



 急に霊力の流れが変わって何かが来る。


 その霊力から避けるようにずれると、ずれた場所が斬られる。



「お父様、どういうことですか?」


「私ではない。どういう事だ、将人?」



 いや、わかってるよ。

 なぜ邪魔をさせたかって事だよ。



春白はるはくさま、なぜソイツに殺しを許すんですか」



 マジかよ、誰か知らんけどソイツ呼ばわりかよ。



「許すもなにも愛六家の者に手を出そうとしたんだ。なにか問題があるか?」


「くっ。でもソイツは忌み子ですよ‼」



 なんでこうも無知なんだ。



「そうなのか、忌助。お前は忌み子なのか?」


「いえ、お父様。自分は鬼の子になりました」


「そうか、それならよかった。そうだ、忌助。流石に手下を殺されるのは面倒だ。だから将人と戦うだけでおさめてくれないか?」


「わかりました。ですが今日は疲れているので明日将人という人と戦います」



 その日は愛六家でゆっくりと休んだ。

 の、つもりだったけど外で将人が殺気を放ってきてたので、落ち着いて眠れなかった。



 ※



「おはよう、忌助。昨日は寝れたかな?」


「はい、少し殺気を感じましたが‼」



 将人に向けて本気で殺気を放つ。



「ふむ、これが鬼の殺気なのか。なかなかだな」



 殺気にあてられた将人は泡を噴きながら気絶して、この場にいるお父様以外は気を失ってしまった。



「そういえば忌助よ。昨日はなんか用があったんだろ?」


「はい、そうです。来てください、油葉根さん。この人は陸木りくぼく油葉根ゆはねさんで、八重家が強制的に使役されていました」


「それは本当なのか、って聞くのはヤボだね」


「それで、油葉根さんは愛六家の分家か調べてほしいのです」


「そういうことか。陸木だったね。ちょっと待ってろ」



 お父様は部屋を出てどっかに行ってしまった。

 けど、すぐに戻って来た。

 手には「六」と書いてある水晶を抱えて。



「それはなんですか、お父様?」


「これは愛六家の血が流れているか調べる物だ。油葉根とやら、これに触れてみてくれ」



 油葉根さんが触れると力強い光が放たれる。



「おぉ、これは結構強いようだな。油葉根さんはこのまま忌助の下にいるのか?」


「はい、私は助けていただいた時から決めていました」


「そうか、なら忌助を頼んだぞ。それと忌助。お前だと将人を殺しかねない。だから諦めてくれ」


「....わかりました」



 それから朝食を食べて学校に行った。



 ※



 あれから五日程経って第二試練の前日になった。

 美琴は連れ去られたまま、情報がいっこうに集まらない。

 

 そして事件は一つも起きずに第二試練の説明がされた。


 第二試練はこうだ。

 班事に、凶悪な悪霊を討伐することだ。

 それで、班の連携や各個人の強さを計り点数かされるらしい。

 勝っても負けても退学はしないかもしれないらしい。

 勝ったら加点はあるが負けても減点はない。

 総合的に平均点以上取れば退学は間逃れるというのが第二試練だ。




 とうとう明日から始まる第二試練。

 で、なんか新しい技でも教えてよ、夜叉丸。


『そうだねぇ。なら草枕山にでも行ったら?』


 草枕山になにがあるんだ?


『行ってみたらわかるよ。もしかしたら八股の大蛇とか出るかもよ』


 八股の大蛇か。

 それで、草枕山ってどこにあるんだ?


『ここから身体強化霊術を使い続けて約十時間くらいでつくよ』



 そして十時間かけて草枕山に来たわけだが、



「なんでこんなに鬼に囲まれてるの?」


『そりゃ忌助が鬼を無視し続けたからじゃん』


「はぁ、こい、夜叉丸。鬼の型 炎兎舞えんとぶ



 炎が兎のようにねながら大量の鬼たちを蹂躙していく。

 鬼の体は兎に触れたところから燃え広がり最後には灰になって消え去った。



 夜叉丸、ここでなにがあるんだ?


『空を見てみろ。答えがわかる』



 夜叉丸に言われた通り、空を見ると光を包み込むような、それでいて優しい光を放つ黒い空と、そこに浮かぶ満天の星たち。



 夜叉丸はこれを見せたかったのか?


『いいや、違うよ。ほら』



 一つ、また一つと星が空を駆ける。



 これは流れ星なのか?


『残念、それも違うよ。流星群。それがこの流れ星たちの名前』


 夜叉丸の知識はどこから来たんだ?


『記憶に残っていたんだ。よく思い出せないけど』


 そういうものか。



 そんな話をしていると、星の一つが強い光を放っているのが目に留まる。



 「ポルックス」



 それが強い光を放つ星の名前だと、なぜかわかった。



『面白くなるよ‼』



 その言葉と共に星が、星の光が一本降ってきた。

 そしてどこからともなく現れた夜叉丸(刀)に光が当り吸収されていく。

 

 それは数秒の事だった。

 自分にも感じた事のない霊力が、力が流れ込んできたのがわかる。

 その力が師匠や琥珀こはくくんと同じだということも。



『これで満足かな』


 まだ使ってないからわからないけど多分ね。


『そうでなきゃ困る。この力は十の名家初代たちの力なんだから』


 えっ‼

 そんな凄い力なのか。


『そう。旨く使いこなせるといいね』



「こい、夜叉丸」



 いつものように夜叉丸を呼び出す。

 すると、どこからともなく声が聞こえる。

 直接心に届く声が。

 その声と同じ事を復唱する。



双子座ジェミニ 双星そうせいの奇跡」

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