26. タタカイ
仮面を外した男は衝撃の事実を口にした。
八重家が無下の民を奴隷にしていたのだ。
基本、奴隷は犯罪者や借金を還せない者がなる。
それ以外の者を奴隷にするのは犯罪とされているのだ。
「なので、助けて下さったご恩として、あなた様に仕えさせてください」
「お前はそれでいいのか? いやお願いっていうか命令したのはこっちだけど」
「はい、かまいません」
これで自分は手下(奴隷)を手にいれた。
だが、今のままだと強制力が強すぎるから解放する必要がある。
けど自分はコイツが信用できない。
「ながつき、どうすればいいと思う?」
「はぁ。だからなんで俺に相談するんだよ」
「いいじゃん。ね?」
「まぁ信じてもいいんじゃない。そういう噂は耳にしてたし、それが本当の事だったってだけだから」
「わかった。解」
氷を解除し、火の玉を還す。
これでコイツは晴れて自由になったわけだが、
「そういえば名前は?」
「私は
「自分は愛六忌助」
「よろしくお願いします、忌助さま。私は長年暗殺に身を投じていたのでそっち系ならお任せください」
「それはそれで使えないなぁ」
「そんな事を言わずに」
「うん、まぁ考えとくよ。で、なに悩んでるんだ、ながつきは?」
「陸木さんって多分だけど、愛六家の分家だよね」
「「えっ」」
主従揃って驚きの声をあげる。
「うん、断言はできないけど愛六家に確認をとってみたら。もしそうなら戦になっちゃうけどね」
「わかった。今日の帰りに一応よってみる。それで油葉根さんを学校の間どうしよう」
「それは問題ないよ。学校に従者を連れてくる人もいるから」
「そうなのか? ながつきは連れてこないの?」
「そりゃあしでまといになるからね」
「ながつきの強さならそっか」
そんなこんなで学校につき、教室に入る。
生徒の数は疎らで、まだ全員は揃っていない。
そして油葉根さんには屋根上に待機してもらっている。
そしてヒソヒソと昨日の事を話している。
面白い噂は広がりやすいから大変だな。
「もう一度私は《決闘》を申し込むわ」
美琴は開口一番でそういった。
もちろん、そうなる可能性は考えていた。
いや、八割方そうなるだろうと。
「愛六忌助、あなたに《決闘》を申し込みます」
その言葉で教師が駆けつけてくる。
場所を移動するように促され、校庭までやって来た訳だがなんでこんなに野次馬(生徒+教師)が。
周りには自分たちを囲むように戦う場所が作り上げられている。
「それでは愛六忌助 対 八重美琴の《決闘》を開始する。2度目なので質問はないよな」
二人は無言で頷く。
それを確認した教師が開始の合図をだした。
「二度目だけど懲りないの?」
「このままでは一族の恥さらし。負けたままではいられない‼」
美琴をどす黒い、禍々しい鬼の霊力が覆っていく。
そして、
「ユルサナイ」
鬼人になってしまった。
「こい、夜叉丸。玖郎さん」
「忌助くん、この――――」
「――――愛六忌助、美琴を殺してはならん」
玖郎さんの声に被せるように、校長の声が響きわたる。
「なんでですか? 美琴は鬼人になってしまっています」
「ならんと言っている。美琴はそれでも八重家の娘だぞ」
「わかりました。なら棄権します」
美琴の爪攻撃を防ぎながら棄権を表明する。
「あ、愛六忌助が棄権。勝者、八重美琴‼」
審判の教師が終了の合図を言う。
その瞬間に、身体強化霊術を使い、美琴から大きく距離をとる。
美琴は近くにいる人から遅い始める。
八重家ってだけはあって、身体能力が普通に高い。
生徒の首をもぎ、四肢を引きちぎり、体に風穴を開けていく。
そして、逃げ惑う生徒と、生徒を守ろうとする先生たち。
「それでなぜ校長は一番最初ににげてるんだよ」
「大丈夫ですか? 忌助さま」
「うん、大丈夫だよ。そうだな。班員が死ぬのは後味が悪いから援護してあげて」
「承知いたしました」
班員の名前と場所を教えて油葉根に行ってもらった。
えっ、自分はどこにいるかって?
自分は土の霊術を使って作った高台の上から見下ろしている。
鬼人は理性がないから範囲に入んなければ襲われる心配はない。
「で、もう我慢できない。なんでながつきがここにいるの?」
「だって忌助が高みの見物してるんだよ? 面白そうだから来ちゃった。おっ? 冷静になれて戦力になれる生徒たちが加勢に行ったよ。忌助は行かないの?」
「行かないし、興味もない」
「そっかぁ。あっ、鈴が危ない‼」
「えっ....って嘘かよ」
「あ~あ、今の反応面白かったな」
「班員だから死なれたら後味悪いだろ?」
「そういうことにしといてやる」
いや、本当にそれだけだよ?
他にはないはず?
「でも忌助なら一瞬で動けなくすることもできるだろ?」
「わからない。相手がそれなりに強いッ」
物凄い殺気を感じこの場を離れる。
そうすると、何かの衝撃を受けて高台が壊れていく。
下で美琴は戦っている。
なら今の攻撃はなんだったんだ?
『今のが美琴って娘じゃない? もう〔幻影術〕にくらったとか』
でも煙は出てないぞ?
『美琴は異能の鬼だよ。それくらいはわかるでしょ』
う、うん。
なら煙を操るような能力なのか。
『そう考えるのが妥当だね』
「ッ‼」
殺気を感じたらまた離れる。
その繰り返しだ。
離れた所の地面が抉られ見るも無惨な姿になっている。
「鬼の型 氷極」
刀を地面に突き刺し美琴がいるであろう所が凍っていく。
それに合わせるかのように、目に見えない霧が晴れて、辺りに水溜まりが出来上がる。
「校長先生、美琴を捕まえました」
「なっ‼ チッ。そうか、よくやった」
えっと....なんで今舌打ちを?
周りの生徒は全然気がついていないし。
「校長先生、なんで鬼を殺さないんですか?」
誰かが質問した。
「それは先程も言いましたけど八重家の者だからです」
「でも完全に理性を失ってましたよね?」
また他の誰かが質問した。
「それでもです」
少し焦ったように答えになってない答えを返す。
「ッ‼ ながつき、警戒しろ」
突如として現れた鬼の霊力。
そして現れた熊童子と言う名の鬼。
「なんでお前が‼」
「なんでって失敗したから後始末です」
「....」
実力差がありすぎて勝てないのは目にみえている。
だからって退くわけにはいかない。
「懸命な判断です。実力差がわかっていてなによりだよ」
「おーっ。面白いことしてるみたいだねー?」
「そうですね。ではやること済ませて早く戻りましょう」
また鬼が増えた‼
鬼にしては可愛らしいのと、黒鬼で気だるげなの。
あの鬼たちにはギリギリ勝てるか勝てないかくらいだと思う。
「あなたたちは見かけない鬼ですね」
熊童子は殺気を放つが二人の鬼には効いてないようだ。
自分は少し体が強ばったぐらいだ。
そしてなぜか校長はどこ吹く風だ。
「そこの君、鬼の子だよね。私たちを手伝わない?」
可愛らしい鬼が意味不明な提案をしてきた。
「すみません、理解に苦しみます」
なんとかそれだけ声をだせた。
可愛らしい鬼は少し残念そうな顔をして熊童子と対峙する。
「初めまして、私は熊童子と言います。手をひいてくれるとありがたいのだけれども?」
「私は
「
鬼同士は名乗るのが普通なのか?
『そうだよ。名乗ってから戦いが始まるんだ』
そうなのか。
少しでも熊童子の情報が手に入れば。
「
「生命の
「フタツノセカイ」
なんなんだ‼
自分の目がおかしくなったのか?
熊童子が何かの力で片膝をつき、体に棘が巻かれている姿と、すべてを避けきった熊童子の姿が見えている。
「危ない危ない。て、訳でもないのか」
揺らいでいた二つの姿が一つの熊童子に有利な方に固定された。
そして袈瑠羅が美琴を抱えて楓と逃げている。
「流石に追いつけないや。じゃあ、愛六忌助。お前の首は必ず貰いにくる」
そして熊童子は姿を消した。
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