23. アンサツシャ


 「なぜ我らの特殊霊術がバレたんだ」


 「美琴さまが失敗したらしい」


 「誰だ、誰にやられた」


 「あいろくきすけと言うらしい。忌々しい忌み子が」


 「こい、烏隊。お前たちに命令だ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 玖郎さんに連れられて空き教室に来た。



「それで月くんはどうしてここに?」


「俺も気になって」


「聞かれても大丈夫なのかい、忌助くん?」


「はい、むしろ聞いててもらった方がいい話です」



 一応聞いておけば保身はできるだろう。

 それに初めて出来た友達だ。

 亡くしたくないから。



「そっか。なら気にしないよ。それで?」


「2つありますが、まずは一つ目。八重家の特殊霊術は〔幻影術〕です。真空波というのは嘘です」


「それは本当か? 月くんも見たのか?」


「はい、俺も見聞きしまた」


「それならそうなんだろう。後で上に報告しておく。そして次は?」


「二つ目は、一ノ瀬暮夜が人工鬼人かもしれません」



 これは証拠はないけど暮夜から鬼の霊力が感じられた。

 多分いつでもきっかけさえあれば鬼人化してしまうだろう。



「それはなんと言うか。証拠がない以上調べようにも調べられない」


「わかっています。だから先に報告させてもらいました」


「....」



 ながつきは驚愕により沈黙してしまった。

 玖郎さんも何かを悩んでいる。


 沈黙が続く。



 どのくらい沈黙が続いていただろうか。

 三十分か一時間かわからないが、空は紅く染まる。



「この事、一ノ瀬暮夜くんの事は一応箝口令かんこうれいを出させてもらうよ」


「わかりました」


「了解です」



 箝口令を出すほどのものなのか?

 でも十の名家の頂点、一ノ瀬家から鬼人がでたりしたら大問題か。



「もう今日は遅いから帰った方がよさそうだね。また何か進展があったら呼ぶからね」


「ありがとうございました、玖郎さん」




 玖郎さんに報告が終わり帰路につく。


「まさかあの暮夜がねぇ」


「暮夜と仲いいのか、ながつきは?」


「いいや、仲はよくないぞ。だってあの性格だよ? って言っても知らないよな」


「何があったんだ?」


「その内知ることになるから大丈夫だよ」


「気になるじゃん」



 カァ、カァ、カァ。



「アレはただのからすじゃなさそうだね」


「あぁ、あれは八咫やたがらすだな。説明すると八重家の使いの物だな」


「そして口止めとして自分たちを殺そうとしてるって訳ね」


「そのようだな」



 飛んできた霊術を夜叉丸を呼び出し叩き落とす。

 そして烏の面をした人たちに囲まれてしまった。

 相手の力量としては鬼よりは強いだろう。



「ながつき、どうすればいいだろう?」


「流石に殺すと後々面倒だよ」


「だよね。じゃあながつきは自分の身だけ守っててね。紅蓮流剣術氷の型 氷極ひょうごく



 刀を地面に突き刺しながつきを含めて凍らせる。

 この技、結構使い勝手がいいかも。



「あれ? 呆気なく全員にかわされてしまったか」


「一筋縄ではいかなそうだな」



 相手は警戒しているのか責めてこようとはしない。

 そりゃそうだよな。

 九家の継承権一位のながつきと、鬼の子の自分がいるんだから。

 それにコイツらなら学校での成績とか入手できるだろうからある程度強いってバレてるんだよな。



「ながつき、置いてって先に逃げていいか?」


「その前に襲われたって証拠が必要なんだよ」


「ナニソレ、メンドクサイ」


「そう言うなって。俺だってめんどくさいよ」


「そうだ、交渉させてくれない?」



 烏の面の一番偉そう(一人だけ烏の面の色が白)な人に話しかける。



「ふんっ。子供が交渉とは面白い。どういう交渉だ?」


「簡単簡単。殺さないであげるから見逃して?」



 視線に霊力を込めて睨み付ける。

 効いたのか怯んで動けずにいるようだ。



「ねぇ、ウンとかスンとか言ってくれてもいいんじゃない?」



 もう一度視線に霊力を込めて睨む。

 それが効いたのか、顎をガクブル震わせながら腰を抜かした。



「ながつき、答えないからこれって交渉決裂だよね?」


「ん、あ、あぁ。そうだな」



 あれ、もしかしてながつきにも効いているのか?

 でも聞くべきではない。

 聞いたら嫌われかねないから。



『手伝ってあげるよ』


 本当か、それは楽になる。


『鬼の型 命の灯火ともしび


 どんな技なの?


『恐怖の具現化。使えばわかるよ』


 

「さて、鬼の型 命の灯火ともしび



 自分に対して恐怖を抱いてる人の命を握る事ができる技だ。

 相手の口から小さな火の玉が次々に集まる。

 そしてながつきの分まで。



「ごめん、ながつき。これは返す」



 急いでながつきには火の玉を返す。

 殺気は仲間まで効いてしまうのは問題だな。

 今後は霊力を調整していこう。



「忌助、今のは?」


「相手の命を自分が今握っているって事。殺すも自由、逝かすも自由」


「今の生かすが殺すの意味の逝かすに聞こえたんだけど?」


「そう言ったよ。それにこの技は自分に恐怖を抱かないと効かないのが難点なんだよね」


「だから俺からも」


「ごめんってば。そうだ、なにか封印できる呪札ってない?」


「何に使うかはわかった。もちろんあるぞ」



 ながつきは懐から一枚の呪札を出す。

 複雑すぎて読み解く事が出来ない。



「これを、こうして、こう‼」



 一番偉いだろう人の火の玉だけ封印する。

 そしてそれ以外はいらないから握り潰す。



「これで証拠になるでしょ。これの利点としては自害は出来なくなること」


「なっ」



 ながつきではなく、白い烏の面の人が驚きの声をあげる。

 あっ、そうだ。

 面白そうだから面を外してみよう。


 ゆっくりと近づき、仮面に手をかける。



「まて、忌助。それは外してはダメだ。そうすればそいつは死ぬ」


「えーー、そんなぁ」


「こういう仕事だからしょうがないんだよ」


「よし、白烏を縛るぞ」


「そんな事しなくていいよ」



 ながつきはまた懐から一枚の呪札を取り出して白烏の額に貼り付けた。

 ビクンッ、と一回痙攣し動かなくなった。

 金縛り系の呪札だろうか、結構いいかもしれない。


「よいしょっと」


「大丈夫、ながつき? 持とうか?」


「俺よりも背が低いやつがよく言うよ」


「なっ」



 それは酷いじゃないか。

 そりゃながつきの方が背はでかいよ。

 でも力だったら負けないし。



「別に重たくないから大丈夫だよ」


「いや、大人の男だよ。重たくないわけないじゃん」


「呪術で軽くしてる」


「なるほど、色々な使い方があるんだな」




 そうしてながつきの家、九家に来たわけだが、



「来てよかったのか? たしか関わるなって言われてたんじゃ」


「あぁ、言われてたな」


「いや、言われてたなじゃなくて」


「問題ないだろ。だってお前は命の恩人だ。鬼から守ってくれて、暗殺者からも守ってくれて」


「いや、守ったつもりはないんだけど」


「そっちがそうでもそういう情報は届いている。周りの客観的な意見とかもな」


「そういうものなのか?」


「そうそう。ただいまー。さぁ、入って入って」


「お、おじゃまします」



「「おかえりなさいませ、月さま」」



 二人の従者がながつきを出迎えている。



「あの、そちらのお方は? それとひきずっているのは?」


「友達だ。そしてひきずっているのは暗殺者だ」


彩萌あやめさまと星彰せいしょうさまに報告してきます」


「お友達さまはこちらに」


「はぁ?」



 そのまま自分だけ小部屋に通された。

 人の家って緊張するな。

 しかも相手は自分の事をよく思っていない。



「入るぞ」



 そう言って入ってきたのは威厳漂う人。

 多分この人が九家の当主なんだろう。



「君が月の友達か」


「はい。はじめまして、愛六忌助と言います」


「ッ‼」



 当主の人は声にならない声をあげ、怪訝そうにこちらを見つめてる。

 そんなに見つめられると....と置いといて、そんなに忌み子が嫌いなのか?

 でも今は一応鬼の子なんだけどな。



「すまん、少し取り乱した。早速で悪いが月と縁を切っていただけないかな? もちろん今後一切九家に関わらないでいただきたい」



 やっぱりそうなるよね。

 ここはなんて答えるべきなんだ。



「....」


「もし、それが許容出来ないなら力ずくもやぶさかではない」



 襖や天井から武装した人たちが現れて囲まれた状態になってしまった。

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