19. ダイイチシレン2


 どうしてこうなったんだ。

 聞いてないぞ。

 鬼が出るなんてお父様は教えてくれなかった。


 もうダメだ。

 この鬼に俺は殺されるんだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「土霊術 土の塔」



 地面に手をつけて霊力を流し込む。

 土の塔とは名ばかりに、地面を盛り上げるだけの霊術だ。

 血が垂れている元まで土を盛り上げる。



「これは....酷い」



 ついそんな言葉が漏れる。

 でも仕方ないだろう。

 残っているのは血と服と武器だけ。

 体は一切残っていないのだから。



「これは食べられたって考えるべきかな?」


「そうだろうね。または他の鬼が連れ去ったか」


「えっ、他の鬼がいるの?」


「うん、その可能性が高いね」



 鈴は心配そうな顔になってしまった。

 でも今回と同じ強さの鬼が出たら厄介ではすまない。

 もっと修行する必要があるか。



「おっ、これは運がいいと言っていいのか?」


「どうした、ながつき?」


「これだよ、これ」



 ながつきが服を漁ってたのか手に握られている物。

 この試練の合格の為の対になる白い棒。

 陽の棒が。



「これは運がいいって事でいいんじゃない」


「後は一週間生き残るだけだな」



 まぁその一週間がきついだろうけどね。



「さてこれからの作戦会議といこう」



 地面に降りてから話を始める。


「鬼が出るなら安全な場所にいく必要があるッスね」


「でもこの試練は中止になるはずだぞ。鬼が出てきたからな」


「それは本当か、ながつき?」


「あぁ、そのはずだ。この試練は教師に監視されているからな」


「でも色々な理由からすぐには助けられないだろう?」


「そうだ。せいぜい明日の朝までってところかな」


「よかった、結構早かった」



 ながつきの予想を聞き、空が大袈裟に安堵した。

 なら徹夜をするのが一番いいか?

 でもそれだと集中力が切れやすくなる。



「交代制で寝るしかないか」


「そうだね。忌助くん一番最初に寝てていいよ」



 鈴にそんなことを言われた。

 凄い優しいけど何があったんだ?



「だって忌助くんが起きてれば夜は安全でしょ」



 そういうことか。



「まぁ言葉に甘えて先に寝るわ。適当に起こしてくれ」



 そのまま横になり眠りにつく。



 ※



 ....ここは。


『やぁ、忌助。あの感じ前の時と同じ鬼だぞ』


 熊童子ということか。


『そういうこと。とうとう鬼能持ちの人工鬼人が完成するとは』


 厄介ではすまない物が完成したのか。

 ならこっちも人工的に鬼の子を作れば‼


『どうやって作る気だ?』


 ....それは考えてなかった。

 いい方法だと思ったのにな。


『いい方法だと思うけど手段がないんだよ』


 手段、か。

 誰か研究してないの?

 鬼の友達とか。


『人の中にいるから外の鬼とは繋がっていない』


 そっか、残念残念。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ※     ~一ノ瀬いちのせ暮夜くれや視点~



『只今より第一試練を開始する』


 やっと始まりだ。

 俺たちは池の畔とは水に困らないですむ。

 早いとこ棒を揃えて楽をしよう。



「よし、皆。陣形を伝える。虎狩りの陣形(T字の形)をとろうと思う。先頭の三人、右からみなみ、中央を将人しょうと、左を志北しほくで真ん中を奈之丞なのすけに頼む。俺は一番後ろから指示と霊術でいく」


「「はい」」


 全員から返事が帰ってくる。

 この陣形は回復役がいないからこうするしかなかった。

 本当は回復役に雨三鈴を仲間にしたかったが、あの忌み子に先を越されたようだ。



「敵の気配」



 奈之丞の言葉で全員に緊張が走る。



「五人です。これは逃げているようです。五人の後ろから牛の形のなにかです」


「牛は悪霊かなにかだろう。そして逃げているなら運がいいな。そいつらから棒を奪おう」



 流石に本物の牛はいるわけがない。

 なら悪霊以外に考えられない。


 棒を奪ったら一週間生き残ればいいだけ。

 なんとも楽な試練だ。



「皆、警戒体勢。相手は棒を渡す気がなかったら助けない。もし、棒を渡してくれたら助けて悪霊を倒すぞ」


「「はい」」



「うわぁぁぁぁ」



 木の陰から出てきたのは一人の男だけだった。

 それも傷だらけ。



「あはははは、はぁ。逃げても無駄だよ?」



 そして出てきたそれはとても禍々しい霊力を宿した見た目が牛の鬼だった。

 いや、見た目が牛と言っていいのか?

 足は蜘蛛のように気持ち悪い見た目をしている。

 そして額から伸びだ長い角。

 これは牛の鬼ではない。



「なんで....鬼がい――――」


「――――はぁ。新たなエサみいーつけた。はぁ。はじめまして、私は牛鬼ぎゅうきと申します」


「南、急いであの男を....」



 逃げていた男は倒れてピクピクしていて動かない。



「毒ということか。逆虎の陣形(逆Tの字)に」



 将人を先頭でその後ろに俺が援護できるように。

 そして残りの三人は防御に徹する。



「斬っていいんだな?」


「斬れるなら頼みたいがあれは多分異能の鬼だぞ」


「そんなの変わらん。淡青たんじょう流抜刀術 神殺し」



 将人が足を踏み込み前屈みになる。

 その姿勢から抜刀し刀を振り抜く。


ドゴォン。


 そう音をたてて鬼の後ろの木を大きく凹ませた。

 牛鬼の姿は半分に斬れている。



「終わりだ」


「と思っただろ?」



 将人の言葉を煽るかのように牛鬼は喋った。

 気がつくと牛鬼は元の姿に戻っていた。

 もちろん傷一つない。



「まだだ。淡青流抜刀術 二連居合」



 将人は刀を鞘に納めてもう一度技を発動する。

 踏み込みと同時に将人は牛鬼の後ろにいた。

 そして遅れるようにして土が舞い上がり、地面は二本斬れている。



「はぁ。このくらい か」


「なっ‼ 将人」



 将人は体を痙攣させて倒れている。

 牛鬼の毒に犯されたというのか。

 でもどう見ても牛鬼は斬られていた。

 そして牛鬼は将人に攻撃をしていない。



「よくも将人を」


「私も」


「まて」



 俺の制止を振り切って志北と南が牛鬼に向かっていく。

 一糸乱れぬ動きで牛鬼に傷をつけていく。

 だが牛鬼は気にも止めていない。


 短刀で着実に傷をつけている。

 今、援護の霊術を放っても邪魔になるだけだ。

 なら俺は策を考えるんだ。



「暮夜さま、逃げた方が宜しいんじゃ?」


「そういう訳にはいかない。実際二句の二人が頑張っているんだ」



 なにか隙がないか見ていると二句の二人の動きがあからさまに悪くなった。



「南、志北下がれ」


「「はい」」



 返事をして下がろうと二人は地面を蹴ったが力が弱かったのかその場に倒れた。



「牛鬼め、許さない」



 刀を抜いて構える。

 刀と短刀の二刀流で特殊だ。

 見たことのない構えからか少し牛鬼が動揺しているのがわかる。



「面白い‼ 迷いの霧」



 辺りは霧に包まれてさっきまで牛鬼がいた場所にはなにもいない。


ザッ


 音の方を振り返り様に斬りつける。

 血が飛び傷をつけれた。

 が、なぜ。



「将人‼ しっかりしろ。回復霊術」



 間違えて将人を斬りつけてしまったのか。

 でも将人は動けないはずなのに。


 とりあえず止血だけはできた。

 これ以上となると俺では無理だ。



「どこにいる。出てこい牛鬼」



ザッ


 次は確認をするとそこには牛鬼がいた。



「死ねぇぇぇえ」



 牛鬼を勢いよく斬りつける。

 が、斬られたのは南だった。


 そして霧が晴れていく。

 俺の目に写るのは地獄といっても過言ではない。

 奈之丞に傷つけられた志北。

 そしてその奈之丞に足を突き立てる牛鬼。


 どうしてこうなったんだ。

 聞いてないぞ。

 鬼が出るなんてお父様は教えてくれなかった。


 もうダメだ。

 この鬼に俺は殺されるんだ。



「はぁ。これであなた一人ですね」


「....」



 牛鬼はそう言って少しずつ近づいてくる。

 ヤダ、死にたくない。

 まだ俺は死にたくないんだ。



「これは酷い有り様だ」

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