18. ダイイチシレン


 「ふむ、これで異能持ちの人工鬼人は成功ということだね」


 「見ていたのですか? 茨木童子さた」


 「もちろん。こんな面白いのを見ない手はいでしょ、熊童子くん」


 「どれだけ酒呑童子さまの邪魔をすれば気がすむ」


 「邪魔だなんてそんな。私はあの愛六忌助くんを気にかけているだけですよ」


 「それが邪魔だって言っているんだが」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



『只今より第一試練を開始する』


 えっ?

 第一試練だと。

 なら第二試練もあるということか?

 下手をしたら第三第四とある可能性が。



「始まったな」


「なんで落ち着いてるんだよ、ながつき」


「そりゃ一応知っていたからな」


「第二第三と試練があるかもしれないんだぞ」


「第三までしかないよ。それも親が教えてくれた」


「自分の親は教えてくれなかったよ」


「そもそも会ってねえだろ?」


「まぁそうだけど」



 まじか。

 親と会っていないけどここで不利になるとは。



「そうだ、陣形はひし形で回復役を護る陣形でいいかな?」

守月しゅげつの陣形か?」


「守月の陣形?」


「知らないのか、忌助? 守月の陣形は月を守る。回復役を護るっていう事で教えてもらわなかったのか?」


「いや、師匠はそういうのは教えてくれなかったな」


「そ、そうか。でも忌助は家を継ぐのか? って継がないよな」


「それが関係あるのか?」


「そりゃもちろん。色々と覚えないといけないことがあるから大変なんだよ」



 そうか、もし家を継ぐ事になったら色々と覚えることが沢山あって大変そうだ。

 まぁやるつもりは毛頭ないけど。


 ガサガサ



「なに‼」



 音に朱音あかねが一番はやく気がついた。

 って言っても自分は来る前から気がついてはいたけど。


 茂みから小鬼が五匹出てきた。



「小鬼だと‼ こんなところに出るはずがないのに」



 そうなのか、ながつき。



「小鬼ッスか。ワクワクするッスね」


「いや、そこはワクワクするところじゃないよ、朱音ちゃん」



 朱音の言葉に冷静に突っ込みをいれる鈴。

 小鬼が出てきたなら親玉の鬼が近くにいる可能性があるな。

 その鬼が異能を持っていたら厄介極まりないな。

 数にもよるけど。



「陣形を整えて。朱音が撃退。空とながつきで援護を」


「「了解」」



 朱音は返事をせずに突っ込んでいく。



朱雀すざく 憑依‼」



 朱音の髪が燃えるように逆立ち、空高く飛び上がった。

 そのまま落下する勢いで地面を叩き割り小鬼たちは衝撃波だけで気を失っている。

 思ったよりも朱音は強いみたいだ。



「流石信条家だよね。小鬼をあんな軽々と」


「知ってるのか、ながつき?」


「あぁ、有名だからね」


「なんの話ッスか?」


「いや、信条家が凄いって話だよ」


「そうッスか? 凄いッスか? 照れるッス」



 なんか喜んでる?からいいか。

 それにしても小鬼が出るとはな。

 この試練なにかがおかしい。

 それがなにかはわからないけど。



「みーつけたー‼ ってあれ? 違うけどまぁいいか」



 嫌な匂いがする。

 嫌な霊力を感じる。

 ここまで気がつかなかったとは。



「なぜ鬼がこんなところにいる?」



 そう言い皆を守れる位置に移動する。

 気配を感じることができなかった。



「なぜ? 人間の子供が面白い事を聞くんだな」



 自分以外の仲間は鬼の霊力に当てられたようで、腰が引けてる。

 鬼は答える気はないよな。



「こい、夜叉丸」



 自分の手に一振りの美しい刀がおさまる。



「面白くない」


「どうした?」



 鬼がなんか言ったが聞こえなかった。



「面白くないって言ったんだ‼」



 鬼が物凄い殺気を放ちながら走ってくる。

 技とかを使う様子がないから異能は持っていないのだろう。



「紅蓮流剣術 辻斬り」



 相手とすれ違い様に首を斬り落とす。

 霊力で自分の体を加速させて斬りつけたから相手はなぜ斬られたか気がついてないと思う。



「流石、忌助だな」


「まぁこれくらいならね」




 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ※     ~???目線~


 俺たちが勝てなかった鬼を一撃で倒しやがった。


 第一試練が始まってすぐ、目の前に鬼がいたときは驚いた。

 いや、驚いたというより恐怖したの方が正しい。

 その鬼から必死に逃げて運よくクソの班を見つける事ができた。

 そして上手く擦り付けたと思ったのに。



「マジかよ....」


「あんなヤツがなんでクソと一緒の班に」


「ふざけんな‼ おい、どうする、班長?」


「....」


「どうしたんだよ、班長」


 なぜあのクソが楽しそうにしている?

 しかもアイツはなんなんだ?

 あの強さはおかしいだろ。

 なぜ俺の方が下なんだ。

 許せない、ユルセナイ、ゆるせない。



『許せないよね』


「誰だ‼」


「ッ‼ どうした、班長?」


「今声が聞こえなかったか?」


「いや、聞こえてない」



 聞こえてないだと。

 俺にしか聞こえてないのか?



『そうだ、君は選ばれたんだ』


 俺が、選ばれた?


『そうだよ。だから君に力を与えよう』


 力を....。


『そう。何者にも負けない力を』



 手にはガラスの瓶が握られていた。

 その中に液体の赤い何かが入っている。


 それを恐る恐る口にすると、

 何かが体を蝕んでいく。

 そして何処からか異質な霊力が流れ込んできて体を侵食していく。



「くふふ。これは凄い‼ 凄すぎる」


「どうしたんだ?」



 段々と力が馴染んでいくのが手にとるようにわかる。

 この力は強い。

 誰にも負けないだろう。

 試しにコイツらに使ってみるか。


 鬼に侵食された???は仲間に手を伸ばす。

 そのまま体に穴を開け「グショリ」と音をたてて心臓を握りつぶす。



「な、な、な....」


「これは凄い‼」


「「ギャァーーー」」



 悲鳴をあげて逃げようとする仲間の首をつかみそのままへし折る。



「あぁ。全員いなくなっちゃった」




 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ※     ~愛六忌助目線~


 鬼を倒して少ししただろうか。

 風に乗って血の匂いがする。

 血、特有の匂いが。


 そして隠す気のない禍々しい鬼の霊力。

 こんなの「見つけてくれ」って言っているようなもんだ。



「また鬼が来るよ。だから自分より前にでないように」



 そう言って鬼の方に歩いていく。

 そして茂みから鬼が....?

 鬼じゃなく人が姿を現した。

 それも空を仲間外れにしていたヤツらの一人だ。



げん くん?」


「誰だ?」


尾田おだ玄くん。一応同じ組」



 なるぼど。

 それで空が裕福だから嫉妬して仲間外れにされてたとかそんな感じか。



「殺す。俺よりも上はいらない。俺が一番上なんだ」



 その言葉で玄は嫌な霊力を集めて始める。

 そして、爪は禍々しく伸びて、額の右側から角が生えはじめる。



 鬼人って言ったところかな?


『そうだね。人工的な鬼人だね』


 ....。


『それに相手は鬼能を持ってるよ』


 そっか。

 それは結構厄介だね。



「こい、夜叉丸」


「ウガァァァァァ‼」



 自分の手には刀が。

 相手の手にはいつの間にかなたが握られている。



「先制させてもらう。紅蓮流剣術炎の型 爆流炎」



 相手が動く気配がないので先制攻撃を仕掛ける。

 足を一歩前に出すと足が何かに捕らわれる。

 否、足下に深い池ができていた。



「うわっ」



 水に足を捕られてずっこけてしまった。



「ウガァァァァァ‼」



 鬼は咆哮と同時に駆け出し首めがけて鉈を振るってくる。

 それをギリギリの所で避けて体勢を立て直す。



「ふぅー。紅蓮流剣術鬼の型 昇炎華」



 赤い氷を青い炎で一瞬にして気化させる。

 昇華の原理で爆発を起こして相手に傷をつける。

 が、これぐらいでは倒せないだろう。

 辺りは白い煙に覆われている。



「紅蓮流剣術 うち



 空気中の霊力に干渉して首を斬りはねる。

 紅蓮流剣術の中距離技の最高峰だ。

 感覚的に成功だろう。

 練習では成功率は1/4だったので成功してよかった。


 煙が晴れると鬼の首が転がっていたが。



「倒せた、のか?」


「この通り倒せたよ。ちょっと失敗したけど」



 ながつきの質問に答える。

 そう、失敗というのは鬼の首から下が無くなっている事だ。

 あの技はあそこまでの力はない。

 その場合他の鬼が関与した可能性があるということだ。



「くん、忌助くん」


「んぁ、ごめん。なに、鈴?」


「怪我はない? って聞いたんだけど考え事?」


「まぁそんなところ」


「ここで言うべきじゃないッスけどそこの班の棒って....?」


「「....」」



 朱音の言葉で皆が沈黙する。

 完全に忘れていた。

 そもそも首から下がないから棒もないって考えるのべきか。



「そうだ‼ コイツの仲間はまだ近くにいるかもだから探すか?」


「それはいいかもッスね」



 自分達はこの開けたら場所から森の中に足を踏み入れる。

 自分より数十倍は大きな木に囲まれていて、地面は木の根で凸凹し歩きづらい。

 そして風に運ばれた血の匂い。


 少し進むとそれはあった。

 水溜まりのような血溜まりが。

 木の上から滴り落ちている血が。

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