17. シレン


 「面白そうな催し物が始まるようだね、熊童子くん」


 「邪魔だけはしないでくださいね? 酒呑童子さまに言いつけますよ」


 「はいはい。でも君はなんで私の屋敷にいるのかな?」


 「これは茨木童子さまへの忠告です」


 「おー、それは大変だね?」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 退学だと‼

 いきなり校長が意味のわからない事を言い出した。

 否、校長が意味のわかりたくない事を言い出した。



『混乱している生徒のためにもう一度言ってやろう。半分の生徒は一週間後に退学となる。

 そしてそれを回避するのは簡単だ。試練を合格すればいい。たったのそれだけだよ』



 試練とはなんなんだ?

 大方、十の名家の人は知っている人が殆どと、一部の生徒が知っていたくらいか。



『では試練の説明をさせてもらう。

 先ずは二人以上五人以下の班を作ってもらう。できた班で一週間生き残り野営を行ってもらう。

 成功条件は簡単だ。この黒い陰の棒。それと白い陽の棒。この二つを集めるだけだ。班には一つどちらかを渡す。そして他の班から対になる棒を集めること。一週間生き残ること。それで試練は成功だ。それではこれより班決めを開始する。二二時に校庭に来るように。解散』



 校長の解散の合図で千人の生徒は動き出す。

 この千人の中から選ぶのは大変そうだな。

 それになぜか皆自分の事を避けている。

 これでは班を作りたくても作れない。



「愛六忌助くん。よろしく。お父さんが忌助くんと組めば先ず落ちないからって」


「えっと」



 名前は知っている。

 顔も知っている。



「あっ。雨三鈴です。よろしく」


「うん、知ってる。えっ、でもなんで?」


「なんでって?」


「いや、なんと言うか」



 あれ?

 自分は嫌われていたんじゃ?

 なんでだ?



「じゃあ俺も入れてもらおうかな」



 思考が止まりかけたところに声をかけられた。

 この学校の最初の友達に。



「な~が~つ~き~」


「どうしたんだ、忌助?」


「どうもしないよ。これで三人だね」



 これで三人。

 三人が十の名家だから戦力的には問題ないかな。



「皆の戦力を確認したい。自分は鬼の子で刀を使う」



 自分の戦力から明かしていく。

 ながつきは主に呪札や呪詛霊術を得意とする。

 他は一般的と言っていた。

 鈴は回復霊術を得意としていて他は一般的らしい。

 まぁこの一般的も十の名家の中の話だろうけど。


 班を決め終わったのか、受付をして学校から出ていく生徒が増えていく。



「この三人でも十分な戦力だよね」



 鈴の言ってる事はもっともだ。

 あまり戦力差がありすぎると足手まといになりかねない。

 ならこの三人でもいいのか?



「ねぇ、あそこ」



 鈴が指を指した方を見ると五人の班にハブられてる? 男の子がいる。



「私ちょっと行ってくる」



 そう言って男の子の方に行ってしまった。



「大丈夫? 私は雨三鈴。よかったら私たちの班に入らない?」


「って言っても十の名家の班だけな」


「ながつきくん、変な事を言わないで」



 ほんとだよ。

 せっかく鈴が班員を集めてくれているのに。



「こんな班だけど入らない? 自分は愛六忌助。よろしくね」


「ぼ、僕は鏡谷かがみやそらです。よろしくお願いします」


「よろしくね、空」



 これで四人になった。


 さっきのハブっていた班はこっちを忌々しそうに見ている。

 空のなにがそんなに気に食わないんだろう。

 話してみたけど嫌な感じはしなかったし。



「俺はつきだ。ながつきと呼んでくれ」


「わかりました。でもなんでながつきなんですか?」


「それは月の呼び方だよ。一月は睦月むつき。二月は如月きさらぎ。そして九月が長月ながつきだからだ」


「なるほど。そういうことだったんだ」



 そうだったのか‼

 なんでながつきかわからなかったけど空のお陰でわかった。

 よくやった、空。



「これで四人だけどなんならあと1人は欲しいよね」


「そうだな。でもこんな班に入ってくれる人なんているか?」



 自分の質問にながつきが答える。

 辺りを見渡すと、生徒の数は減っていて、いやもう最後の班が受付を終えちゃった。

 残っている生徒はいない。



「そうだ空。空はなにが得意?」


「僕ですか? 僕は霊術は普通位で。でも武器は色々なのを持っています」



 そう言って空は幾つかの巻物を広げた。

 巻物には呪詛が這わせてある。


 ボフンッ


 と音をたてて巻物の上に武器が置かれている。

 しかもその武器たちから物凄い量の霊力を感じる。



「これって全部が妖刀や妖武?」


「そうだよ。僕は色々な武器を扱うのが得意なの」



 えっと、妖刀妖武って特殊な能力を持つ強い武器の事だよね。

 しかもそれが沢山。

 鈴が聞いといて目眩を起こしてるほどだ。

 空はそれを一つずつしまっていく。



「ながつき、この呪詛ってなんなんだ?」


「これか。これは収納呪詛って言って亜空間収納術を呪詛化ししているんだ。それをこんなにって空は相当裕福なんだろうな」


「亜空間収納術?」


「知らないのか? こうやって」



 ながつきは変な円を空中に描くと、円が黒く染まった。

 そこからながつきは呪札を何枚か取り出した。



「....すごい」


「まさか知らないのか。覚えとくと便利だぞ。持ち物が少なくてすむからな」


「なるほど、師匠に今度聞いてみよう」


「そろそろ受付を済ませた方がいいんじゃない、忌助くん?」


「そうだね。行こう皆」


 そうして受付に向かう。

 予定だった。



「待ってー。そこでいいから私を班に入れてー」



 受付に向かい始めたところで声をかけられた。

 朱色の髪の、気が強そうな女の子に。



「はぁ、はぁ、はぁ、私も、この班に、入れ―――――」


「―――――待って待って待って。一旦落ち着こう。ね?」



 落ち着いてから話を聞くことにした。

 なんでも朱色の髪の娘、もとい、信条しんじょう朱音あかねは入試式の時間を間違えてしまって遅刻したようだ。

 朱音は《憑依》という特殊な身体強化霊術を使う。

 見てみたけど空気中の霊力が集まっていき鬼に匹敵するくらいの俊敏性だった。

 そしてなんと言っても語尾に「ッス」ってつくのが印象的だな。

 これは凄い戦力になる。



「これで五人になったから受付をしに行こう」



 ながつきの言葉で皆動きだす。


 受付をしたら二二時までに校庭に集まれば自由にしてていいらしい。

 なので皆で二一:三零に集合することにした。

 ちなみに自分が班の代表になってしまった。

 鬼の子だし主戦力だからという理由らしい。

 別に代表じゃなくていいのい....。



 ※



 二一:二零


 少しでも早かったかな?

 でも他の生徒は集まりだしているから問題ないか。



「おーい、忌助くーん」



 空の声が聞こえる。



「こっちだよー」



 声の方を見ると空とながつきが一緒にいた。



「他の二人は?」


「まだ来てないからな。それにまだ時間には余裕があるから大丈夫だろう」


「それもそうか」



 まぁ時間があるから大丈夫だよな。

 さて、生き残り試練の陣形はどうするか。

 先頭を朱音にしてひし形になるように左右に空とながつき。

 そして後ろに自分。

 中心に鈴を置いて回復役を護る陣形が一般的かな。

 自分なら遠距離技も使えるからこれがいいだろう。



「「おまたせ(ッス)」」


「これで全員揃ったね。じゃ――――」


「――――やぁ、忌助くん」



 今1番声をかけられたくない人に声をかけられた。



「どちら様ですか?」



 殺気を混ぜて声を発する。



「そこまで殺気を出さなくてもいいじゃないですか。ただお互いに頑張ろうね、と挨拶に来ただけですよ」


「....」



 本当にそれだけなのか?

 それが物凄い疑問だ。



『では二二時になったので代表の者には棒を渡したいと思います』



 その声と共に自分たちは森の中にいた。

 木々や草むらに囲まれた拓けた場所。

 あーもう、気がついたら始まるとか最悪だ。


 多分他の班もこんな感じの場所にいることだろう。

 ここが試練開場という事で間違いはないだろう。

 そしていつの間にか手には黒い棒、陰の棒が握られていた。



「黒か」


「白を集めればいいんッスよね」


「そうだよ。それが試練成功条件だったはず」



『只今より第一試練を開始する』



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 愛六忌助


 鬼能:[青い炎][赤い氷][複製][紫水]


 [青い炎]:浄化の力をもつ青い炎。傷や病を治す力がある。

 [赤い氷]:血を含む赤い氷。血を含めば含むほど硬く強く冷たくなる。

 [複製]:殺した鬼、鬼人、鬼の子の鬼能を手にいれる能力。

 [紫水]:物質を気化させる事ができる紫色の水。人間や鬼には効果が薄い。



 使役鬼:夜叉丸やしゃまる


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