16. ユメト ゲンジツ


 夢に囚われた。


 ゆめに囚われた。


 ユメに囚われた



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 山小屋に帰ってきた。

 師匠はやっぱりまだいないか。


 あんな夢はもう見たくない。

 心が抉られる。

 精神的に辛すぎる。



「大丈夫? 忌助くん。顔が優れないけど」


「黒くて靄がかかっている鬼に心当たりがあって。前に人工的

な鬼が出た時にいた黒幕です」


「....そうか。私は個人的にあの鬼について調べてみるよ」


「お願いします」


 明日で高等大霊学校の入学式だ。

 少しは鬼に解放される日々を送れるかな? 

 風馬、自分は頑張るからね。



 ※



 夢。

 それは理解している。

 ここは夢の中だ。

 なのに何でこんな。


 目の前には風馬の死体が。

 琥珀くんの死体が。

 師匠の死体が。

 自分の知っている人の死体が転がっている。



「忌助、お前が助けられないからだ」


「お前なんて必要ない」


「力がないんだよ」


「君が死んでくれればよかったんだよ」


「信じていたのに、忌助くん」



 ※



 朝になっている。

 寝覚めが悪い。

 

 琥珀くんとの修行6日目。

 今日で最後の修行になると思ったら、琥珀くんは山小屋にはいなかった。

 昨日言ってた個人的に調べるということか。

 あまり外には出たくはないな。

 流石にあれはないと思うけど。

 そうだ、そうだよ。

 戦略的撤退、戦略的自宅待機だよ。

 今日はこの山小屋から出ない‼



 意気込んだはいいものの退屈すぎる。

 特にすることもなく話す相手もいない。

 山小屋はいるけど。



 夜叉丸?


 『どうしたんだ?』


 何でもない。


 『....』


 ....。


 『....』


 ....。



 沈黙が流れる。

 山のなかで適当に修行でもするか?

 でも怖くないって言ったら嘘になる。

 否、正直物凄く怖い。

 そんな強い鬼がそうそう出ることもないと思うけど怖い。

 完全に恐怖を植えつけられた。


 トントントンッ。


 こんな時に誰だろう?

 琥珀くんや師匠は勝手に入ってこれるし。



「お手紙を届けに参りました」


「はーい」



 手紙なのか。

 変なのかもって身構えてしまった。


 手紙には宛先だけ書いてある。

 中は琥珀くんの文字だ。

 あの村をあんなにしたり、この前の人工的な鬼の黒幕は熊童子という鬼なのか。

 なんか茨木童子と似ているな。

 そこも繋がっているんだろうな。

 能力は夢? なのか。


 考え方を改めよう。

 あの鬼は怖くない。

 師匠ならあんな鬼なんて一瞬でパンだ。

 そうだ。

 あんな鬼は怖くない。

 よし、怖さが落ち着いてきた。

 太陽は真上に上がってるからお昼時か。

 午後は修行をしよう。



 ※



 あれ?

 朝になっている。

 いつのまにか寝ていたのか。

 そうだ....。

 そうだった....。

 今日は学校だ。

 完全に忘れてた。

 そう、初っぱなから遅刻だ。



 急いで山小屋を飛びだし山を下る。

 いつも通っているのに変な感じだ。

 いや、なんでこんな時に限って。


 目の前には小鬼たちが道を塞いでいる。



「こい、夜叉丸。氷の型 氷結」



 [青い氷]を槍のようにだして小鬼たちを串刺しにする。

 それを待っていたかのように、さっきの倍以上の数の小鬼が姿を現した。



「次から次に。鬼の型 氷極」



 山全う体を覆うように想像する。

 氷で山を覆い尽くす。

 木々には霜がおりて山が赤く染まる。

 氷の上を滑るように下山していく。



 ※



 学校に到着することが出来た。

 が、これは遅刻だろう。

 校庭には生徒が整列していて静かに先生の話を聞いている。

 こんな時に校庭に入ったら注目の的になってしまう。

 どうすればいい?



「遅刻なんてどうしたんだい?」


「玖郎さん、気がついたらこんな時間になっていて」


「そうかい、それは災難だったね。今から教室に行って今後の話をするから忌助くんも来な」



 返事をしてついていく。

 自分は一学年のろく組だった。

 そして自分の席は一番前の扉側。

 名前順だから自分が一番前なのは仕方ないけどね。



「よし、全員揃ったね。ここの組の担任をする保健科の雨三玖郎だよ。よろしくね」



 玖郎さんは笑顔で挨拶をした。


 なんだろう?

 体がフワフワしている。

 浮いているような、誰かが自分の事を呼んでいるような。



「それじゃあ自己紹介をはじめていこう。忌助くんからお願いできるかな?」


「はい‼ 愛六忌助です。武器は刀を使います。こい、夜叉丸」



 自分は刀を呼び寄せる。

 が、手には刀が出現しなかった。


 夜叉丸、聞こえないのか?


 特に返事がない。

 今まで無視されたことなんてなかったのに。



「こい、夜叉丸」



 もう一度呼び寄せるが夜叉丸は出てこない。

 少しも夜叉丸を感じる事ができない。

 それにここの空間に霊力がない。



「どうしたんだい? 忌助くん」



 この人は本当に玖郎さんなのか?



「ほら、忌助。目覚める時間だよ」



 その言葉で夢から覚めていく。


 えっ?

 でもなんで風馬の声が?



 ※



 夢から覚めていくというよりは、水の中から解放されるような感じの方が近いだろうか。

 夢を見ていた。

 ただ、どこからが夢でどこまでが現実かがわからない。

 でも今の夢が鬼によるものというのは間違いないだろう。

 琥珀くんからの手紙もある。

 夢を見ていたから熊童子の仕業なのだろう。



『大丈夫か? 相当深く眠っていたが』


 大丈夫だよ。

 あの時の鬼みたいだよ。


『それは許せないな。夜叉丸さまにむかって』


 夜叉丸って偉いのか?


『いや、覚えていない。偉かったような、偉くなかったような』


 曖昧なのかよ。


『まぁそんな事はいいよ。今日は学校だろ? って言っても今はまだ夜中だけどな』


 そうだ、学校だ。

 夜叉丸、悪いけどいい時間に起こしてくれないか?


『わかった』



 その返事を聞いて眠りにおちる。

 短い眠りに。



 ※



『起きろ‼』



 心の奥で声がする。



『そう言うのはいいから起きろよ。遅刻するぞ?』



 その声を聞き自分は急いで体を起こす。

 よく寝た気がするけど時間だと四時間くらいか。

 少し短いような気がしないでもない。



 夜叉丸、起こしてくれてありがとな。


『別に....』



 朝の仕度を済ませて学校に向かう。

 この山から学校まで走れば三十分。

 歩けば一時間くらいかかる距離だろう。


 そしてあの夢と同じように茂みから小鬼たちが現れた。



「こい夜叉丸。鬼の型 氷結」



 この山の進行方向をすべて覆うように氷の膜を張っていく。

 目の前の小鬼も進行方向に待ち伏せしていた小鬼もすべて凍っている。


 ここまで夢と同じだから走って行く必要がありそうだな。



「身体強化霊術 発動」



 体の中を霊力が巡り一時的に筋力が強くなる。

 自分は勢いよく地面を蹴り学校に向かう。



 そして難なく学校についた。



「はやいね、忌助くん。あと三十分はあると思うよ」



 はやいか。

 うん、はやいね。

 流石に夢の事を玖郎さんに言うのはよくないと思う。



「たまたま早く目が覚めたので来ただけです」


「それにしては身体強化霊術を使ったみたいだけど?」


「うっ」


 そこまでわかってしまうのか。



「まぁ理由はなんにせよ遅刻しないのはいいことだ。あそこに組分けが貼り出されているから確認して教室で待っているといい」



 自分は玖郎さんにお礼を言って組分けを確認する。

 薄々気が付いていた。

 案の定自分は一学年のろく組だった。

 そして愛六だから一番前。

 夢と同じ過ぎてとても不安になってくる。



 時間が経つにつれて教室にも人の数が増えていく。

 ながつきとは違う組だったのは残念だ。

 全員が集まったところで先生が、玖郎さんが教室に入ってきた。



「さぁ皆揃ったね。ここの組の担任をする保健科の雨三玖郎だよ。よろしくね。

 早速だけど入学式があるから校庭に集合だ。この席順で二列になるように校庭で並んでね。解散」



 玖郎さんがそう言って皆動きだす。

 もちろん自分も校庭へと歩きはじめる。



 校庭には合格者千人が整列している。

 皆静かに先生の話を聞いている。



『次に校長先生の話です』


『ご紹介の通りこの学校の校長、壱松いちまつだ。

 さて、いきなりだが試験、いや試練を始める。

 先に言うと半分の生徒は一週間後に退学となる』

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