14. コハク


 「鬼人化実験は成功いたしました」


 「ほう、それは何回だ?」


 「三回程ですが」


 「よいよい、十分だ。よくやってくれたな、虎熊童子」



 忌助の知らないところでとある鬼たちの計画が進んでいた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 琥珀くんとの修行三日目。

 昨日の事を含めて琥珀くん直々に修行相手になってくれるらしい。



「どこからでもかかってきていいからね。おいで、極夜鬼」


「こい、夜叉丸。鬼の型 流炎華」



 昇炎華の応用で沢山飛ばす。

 昇炎華に琥珀くんは触れて爆発した。

 煙で見えないけど大丈夫かな?



「凄い技だね。始めて見たよ」



 煙の向こうから声が聞こえる。

 やっぱりこれくらいじゃあ倒せない。



「次はこっちから行かせてもらうよ。鬼の型 張り巡らされた罠」



 その声と同時に煙の向こうから沢山の黒い糸が延びていき見えなくなった。

 技名がそのままだからわかるけどここら辺には今罠がある。

 見えないけどある、感じることができる。



「まだまだ、鬼の型 断罪のつるぎ



 琥珀くんは刀に[黒炎]を纏わせて、大きな剣に代えた。

 自分は[紫水]で刀の鞘を作り、胸の前で構える。



「鬼の型 守殻の陣」



 鞘が溶けて自分を守るかのように浮き上がる。

[紫水]と[黒炎]がぶつかり合いお互いに打ち消し合う。

[黒炎]は[紫水]を燃やし尽くそうと。

[紫水]は[黒炎]を気化させようと。



「流石だね、忌助くん。なら私の本気を見せてあげる。小獅子座ライオネット 小獅子の大鎌」


「それは師匠と同じ」


「よく知ってるね。でも紅蓮さんのに比べたらこれなんてまだまだなんだよ。星の力 黒髭危機一髪くろひげききいっぱつ・序章」



 琥珀くんの鬼能、[黒石針]が中空に浮いている。

 そう、囲まれているんだ。



「やれ」



 その言葉で針は意思があるかのように降り注ぐ。

 一本防げても後ろから一本、一本防げてもまた後ろから一本と体に刺さっていく。

 それが急所に入ってきて、だんだんと動きが鈍くなっているのを感じる。

 一本防げても二本、一本防げても三本四本と突き刺さる。



「....」



 一瞬の静寂と共に針は動きを止めた。

 体が一切動かない。

 思考が追いつかない。

 どうにかして――――



「――――星の力 黒髭危機一髪・幕引き」



 体に刺さった針が動き出した。

 否、体を貫通していく。

 意識が....



 ※



 痛い‼

 身体中が痛い。

 その痛みで目が覚めると目の前に琥珀くんがいた。



「あっ、起きたね。ごめんごめん。つい本気を出せて嬉しくってね。それとあまり治癒術が得意じゃないから治しきれなかった」


「酷くないですか?」


「だからごめんって、ね。ある程度は傷を塞いだけどあまり動かない方がいいよ」



 痛いけどはやく治した方がいいよね。

 懐から花火の包みをだす。



「これを外で打ち上げてください」


「これはなんだい?」


「使えばわかります」



 琥珀くんは山小屋をでて花火に着火させる。

 ヒューーーードーーン、と音が鳴り響く。



「使ったけどなにも起きないじゃないか」


「そんな事はありませんよ」


「もしかしてこれは私への復讐‼」



 トントン、と山小屋の扉が叩かれる。



「お邪魔するよ。どうしたんだい? 忌助くん」


「聞いてください玖郎さん。琥珀くんが自分に本気をだした挙げ句治療が中途半端なんです」


「だから僕を呼んだと」


「だって玖郎さんは回復が得意な一族と聞いたので」


「まぁ間違ってないし治してあげるよ。回復霊術改 治癒」



 体の中まで回復しているのが感じられる。

 物凄い回復霊術だ。

 痛みもだんだんと薄れていき最後には痛みが消えた。



「お疲れさま、もう大丈夫だよね」


「ありがとうございました」


「琥珀くんもあまりいじめないようにね」


「はーい」



 玖郎さんはまだ仕事があるらしく行ってしまった。

 それにしても玖郎さんっていくつ仕事を掛け持ちしてるんだろう。

 学校の先生に、町の警護。

 他にも何かありそうだ。



「じゃあ今日の修行は終わりでいいかな」


「うん。なんか用事でもあるの?」


「ちょっと仕事が入っちゃって」



 琥珀くんはなんの仕事をしているんだろう?

 夜の仕事ってなんだろうか?

 聞いても教えてくれないだろうからな。



 ※



 琥珀くんとの修行四日目。

 いつ帰って来たのかわからないが琥珀くんは帰ってきていた。

 なんか少し疲れている感じがする。



「どうしたんですか?」


「どうもこうもないよ。ただちょっと昨日の仕事が大変だったんだ」


「どんな内容なんですか?」


「聞きたいみたいだね。なら今日の修行をはやく終わらせたらね」


「はーい」



 今日の修行も鬼狩りをするらしい。

 山小屋の前に網に詰められた鬼を見たときは驚いた。

 今日はこの鬼たちを狩る修行だろう。

 川の修行場所に移動するといつものように琥珀くんは技を発動する。



「紅蓮流剣術炎の型 黒糸獄。鬼の型 手助けの糸。

 それじゃその鬼たちを全部倒すように」



 そのままどこかに行ってしまった。

 全部って百体くらいはいると思うんだけど。

 こんなに捕まえてくるなんて....。



「鬼の型 氷獄」



 刀を地面に刺して鬼を氷付けにする。

 この中にも異能の鬼はいないみたいだ。


『異能の鬼は基本的に鬼人だからね。たまにはいるけど』


 そうなのか、初耳だ。

 じゃああの時の鬼は?


『あれはたまにいる方だよ』


 そうだったのか。

 そんなことよりこの鬼たちを倒さないと。



「紅蓮流剣術水の型 五月雨」



 [紫水]の雨を降らせて鬼たちを倒していく。

 異能なしの鬼なら余裕で倒せるほどの力はつけれた。

 でもこれって自分以外人がいないときだな。

 もし今の技を人が近くにいる時にやったらその人は確実に死ぬ。

 自分は殺してしまう。

 もう少し戦い方を改める必要があるな。

 それにしても琥珀くんはどこに行ったんだ?



「愛六忌助って君の事かな?」



 声の方を見ると鬼がいた。

 姿形すがたかたちは人そのものだけど脳の危険信号が鬼だと言っている。

 気配を感じることができない。

 ここにいるのかも怪しいくらい、見えてる鬼が本物ではないような。



「そうだ、と言ったら?」


「確認しに来ただけだから危害を加えるつもりはないよ」



 確認しに来たって何を確認しているんだ?

 そもそもコイツは何者なんだ。

 異能の鬼って事は確かだろう。



「そんなに睨んでどうしたんだい? って名乗ってなかったね。私は茨木童子。以後お見知りおきを」


「鬼の型 灯籠流し」



 青い火の玉を沢山飛ばす。

 少しでも情報を知りたい。

 どんな鬼能なのかだけでも。



「どこに狙っているんだい?」



 火の玉は茨木童子と反対の方向に飛んでいる。

 どんな鬼能なんだ?

 何をしたんだ?

 ちゃんと茨木童子めがけて技を使ったはずだ。



「混乱しているようだね。まぁまた君に会いに来るからね」



 その言葉で、茨木童子は最初からいなかったかのように姿を消した。

 そもそも自分は本当に茨木童子という鬼に会っていたのか?

『惑わされるな。それが茨木童子とか言う鬼の鬼能だろう』

 その可能性は考えていなかったな。



「いた、忌助くん大丈夫?」


「琥珀くんはどこに行ってたの?」


「鬼の気配を感じたから行ってみたら迷っちやって。おかしいよね? 馴れてる場所のはずなのに」


「それは鬼かもです、茨木童子っていう。夜叉丸曰く惑わす能力っぽい感じです」


「茨木童子、茨木童子、茨木童子。どこかで聞いたことのある名前だな。紅蓮さんにも確認をとってみるよ」


「それでは聞かせてください。琥珀くんの仕事を」




 一旦山小屋に帰ってから話が始まった。

 琥珀くんの過去と仕事と風馬との関係の話が。



「私はね、捨て子だったんだよ。

 こことは違う山に捨てられてた時に紅蓮さんに拾われた。

 そして忌助くんがしてきたような修行をさせられたんだ。

 ボロボロにされては回復させられる、それの繰り返し。

 そして私は学校に行ったんだ、忌助くんよりも早くにね。

 でも私は忌み子。誰からも仲良くされない。そう思っていた矢先に、君の兄の一人、風馬に声をかけられた。

 風馬は力がないが皆から慕われて次期当主とまで言われていたよ。

 そして学校を卒業するときにある相談をされたんだ。

 弟が忌み子として産まれてきたからどうにかする方法はないかとね。

 そこで私は紅蓮さんを紹介したんだ。だから忌助くんが5歳の時にこの山に来たんだろうね」


「そんな事が....」


「そうなんだ。それからも定期的に連絡は取り入っていたけどね。

 それで忌助くんが気になっている仕事の話だね。

 私の仕事は鬼狩り。主に囮を使ってやる鬼狩りなんだ。

 しかも大抵は異能を持っているから厄介なんだ。

 聞いてよ。昨日なんてね、[爆発]とか言う物凄い能力の敵で囮が危なかったんだよ――――」



 ――――と後半は誰にも漏らせなかった愚直が長々と続いた。

 そして日がくれる頃には、二人仲良く眠りに落ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る