13. アーティフィシャル

 

 面倒な事に首を突っ込んでしまった。


 犯人は懲りずになんども繰り返すなんて。


 それに用心棒は自分を見るなり怯えるし、何がどうなっているのやら。


 こんな事なら町に来るんじゃなかった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 用心棒は誰だろうか?

 知っている人だろうか?

 受験した人?

 ってことは合格はしたのか?

 合格してないのか?



「こい、お前たち」


「おうおうどいつを蹴散らしますか?」


「俺たちに任してくださいよ」


「そこら辺のやつらなんてちょちょいのちょいだぜ‼」


「お前たちにお願いしたいのはあの男だ」



 そう言って犯人は自分を指差す。



「お前は‼」


「ひぃぃぃぃ、許してください」


「殺さないでぇぇぇぇ」



 その用心棒たちは自分を見るなり怯えだした。

 どういうことだ?



「どこかで会いましたか?」


「なっ‼ 忘れただと。俺はお前の事は忘れねぇ、お前のせいで俺たちは受験に失敗したんだからよ」



 一番偉そうなやつがそう言った。

 こんな人たちにあった覚えがない。

 自分のせいで受験に失敗した?

 ますますわからない。



「おいお前ら、あの時の恨みここで晴らすぞ。今は準備してないからズルはできないはずだ」


「そうか、そうだな」


「よし、俺もやるぞ」



 なんか勝手にやる気になってる。

 あっ、思い出したぞ。

 この用心棒たちは自分にいちゃもんつけてきたやつらだ。

 まだ脅しが足りていなかったんだな。



「そこまで。忌助くん、あまり事件に首を突っ込まない方がいいよ。下手したら停学処分になっちゃうから。君たちもこれ以上しない方がいいと思うけど?」



 ちょうどいいところで玖郎さんが止めてくれた。

 そっか、事件に首を突っ込んだら停学処分になる可能性があるのか。

 なんだろう。

 用心棒たちの目が獲物を見つけた目になっている。

 玖郎さんは今犯人を拘束しているから気がついてない。



「「死ねぇぇぇぇ」」



 三人同時に短刀を抜き放ち突っ込んできた。

 そういう事か。

 自分がこいつらに怪我でもさせたら停学処分の可能性があるからわざと攻撃してきたのか。

 でも防がないと死ぬから、



「こい、夜叉丸。紅蓮流剣術水の型 水鏡みずかがみ



 刀で円を描き水の盾を造り出す。

 この水は人間には無害だから問題ないだろう。

 三人の短刀が水の盾に当たると短刀がみるみる消えていく。

 盾に当たったところから元々短刀など無かったかのように消えていく。

 三人は驚いただけで距離をとり、霊力を集めはじめた。

 こんな所で霊術使ったら町が大変な事になりかねない。



「鬼の型 氷獄」



 霊力を集めるのと、行動を封じるために拘束技をかける。

 が霊力が止まらない。

 霊力は三人に止めどなく流れ込んでいる。

 しかもその霊力は禍々しい感じがする。

 その霊力を辿るように辺りを見渡すと屋根上に鬼がいた。

 その鬼は黒鬼で靄がかかっているように見える。

 家の上から霊力を三人に送っている。

 しかも目があってしまった。



血晶けっしょう



 鬼がなにかを言ったが聞き取れない。

「えぅいぉう」で意味がわからない。

 でもあの鬼を止めれば片付くだろうか。



「身体強化霊術、解放」



 霊術を身体中に巡らせて足に力を込める。

 バンッ、の音と共に鬼に肉薄する。



「こっちに来ていいのかな?」



 刀は指で摘ままれ、耳元でそう言われた。

 刀が少しも動かない。

 この鬼は今までの中で一番強い。





 鬼が訳のわからない事を言った。

 そう思った矢先、一瞬にして視界から光が消えた。

 否、箱の中に閉じ込められたということか。

 それはつまり鬼の技。

 どういう能力なんだろう。 



「紅蓮流剣術炎の型 爆流炎」



 しかし箱には傷一つつかない。



「それじゃあ私は失礼します」


「まて、鬼野郎」



 声が聞こえなくなった。

 それからあの禍々しい霊力も感じない。

 ここからいつになったら出られるのか。

 または、壊さないと出られないやつかな?

 そしたら大変だ。

 自分はこれを壊せない。

 それに運よく誰かが助けに来ることもないだろう。

 そもそもこの技は拘束技なのか攻撃技なのかがわからない。



「お、鬼だーー」


「皆さん、急いで避難してください」



 鬼が出たのか?

 でもさっきの鬼は帰るみたいな事を言っていた。

 なら新しい鬼が来たということなのか?

 はやくここから出ないと。

 ピキッ、という音と共に箱には亀裂が生まれた。

 その亀裂はだんだん大きくなり最後には箱全体に広がり、箱は消滅した。

 この技は拘束技だったのか。



「琥珀くん、僕一人じゃ鬼を三人相手にするのは辛いから手伝ってくれる?」



 玖郎さんは鬼を三人足止めしているが防戦一方だ。

 三人の鬼がこっちに気がつくと襲いかかってきた。

『これは鬼人状態と同じ感じだな』

 そうなのか?

 まさか人工的に鬼人を作るなんて。



「鬼の型 炎の大柱おおばしら



 自分を中心に[青い炎]の柱が天高くそびえ立つ。

 三人の鬼は跡形もなく消え去った。



「いやー、ありがとうね。鬼の首は特殊な武器じゃないと斬れないし足止めで精一杯だったんだ」


「だから防戦一方だったんですね」


「そういうこ――――」


「――――きゃーーーー」


「また鬼が現れた」


「それは本当かい?」


「はい」



 鬼の気配を感じることができる。

 鬼がいる方を見ると....黒い....炎の....柱?

 黒い炎って琥珀くんなのかな?

 それに鬼の気配がなくなった。

 うん、これは炎の大柱だな。



「あれは鬼の能力か」


「ちがいます、玖郎さん。鬼の気配は消えました。多分あれは琥珀くんです」


「琥珀くん?」


「ほら、来ました」


「ご無沙汰してます、雨三先生」


「琥珀くんか‼ 久しぶりだね」



 えっ、えーー。

 まさかの知り合いだったの。

 案外世界は狭いのかもしれないな。



「琥珀くん、箱の中の猫って技を使う鬼って知っている?」


「いや、聞いたことないね。紅蓮さんなら知ってるかもだけど」


「その鬼がどうかしたのかい?」


「その鬼が今回の黒幕だと思います」



 琥珀くんでも知らないのか。

 とても強かったな。

 そういえばあの三人が鬼になったってことは自分は人殺しに....。



「玖郎さん、自分は人殺しなんでしょうか?」


「いや、問題ないよ。あれは人工的な鬼が出るって事を好評するつもりだからね」


「そんな事をして大丈夫なんですか?」


「それも問題ない。逆に知らせずに事件が起きる方が問題だよ」



 そういうものなのか。

 自分にはさっぱりわからない。

 そういうのはわかる人がやるべきだ。

 適材適所というやつだ。



「じゃあここは雨三先生に任せて帰るかな」


「わかりました。それではまた」


「それじゃあね、忌助くん、琥珀くん」



 玖郎さんと別れて山小屋に帰る。

 今日のことでわかった。

 自分はまだまだ弱いって事を。

 もっと頑張らなくてはいけない。

 せめて今日会った鬼には勝てるくらい強くならないと。



 ※



 ここは夢か。


『そう、ここは君の夢で僕の場所』


「ここでくらい会話をしようよ」


『あまり鬼に心を開くもんじゃないよ』


「はは、夜叉丸は心に語りかけてくるのね」


『だってその方が楽だから』


 ならこっちだって真似をする。


『別にそれは君の自由さ』


 それでここに来たってことは夜叉丸が呼んだんだよね?


『その通り。今日の鬼の事が気になって』


 知っているのか?


『知ってるかもだし知らないかも』


 はぐらかすな。

 知ってるか知らないかの2択だ。


『知らないよ』


 じゃあなんで――――


『――――あの技は二度と食らわないように』


 あの技は知っているのか?


『知らない。けどあれは拘束技ではないことは確かだよ』


 でも攻撃は一切受けなかったぞ?


『だから二度と食らわないでほしいんだ』


 わかった。

 それは努力するけど。


『けど、どうしたんだい?』


 それは難しいような気がする。

 あれの射程は目にしたものだと思うから。


『....それは一理ある。まぁ、君と話せて楽しかったよ』



 その言葉で自分は深く、フカク、ふかく眠りに落ちていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る