12. サイカイ

 

 琥珀さんの過去を知りたかったけど教えてくれなかった。

 いつか教えてくれる日が来るのだろうか。

 風馬とどんな関係だったんだろうか?


 風馬をよく知るだろう人はこの人以外いない。

 自分はそう思う。


 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 琥珀さんとの修行二日目。

 その日最初に言われた言葉は、



「前々から思ってたけどさ、琥珀さんってやめてくれない? 少し距離が遠い感じがするし、忌助くんとそこまで歳は離れてないからね」


「琥珀....くん? は今いくつなんですか?」


「うん、それでいいよ。私は忌助くんのお兄さんと同じ二十歳だよ」


「あっ、その風馬との関係っていうか、どんな感じで仲良くなったのか聞かせてください」


「うん、また今度ね」



 そう言って昨日と同じ川の修行場所に来た。

 琥珀....くんはまた待機命令をだして森の中に入っていった。



「おいで、極夜鬼。紅蓮流剣術炎の型 黒糸獄」



 えっ?

 森から鬼が五体落ちてきて、その鬼と一緒に牢屋に入れられた。

 これが今日の修行ということか。

 まさか本当に鬼と戦うことになるとは。



「今日の修行は簡単でしょ? 鬼を倒すだけだから

 鬼の型 手助けの糸」



 琥珀くんの刀から出た黒い糸が鬼たちに吸収されていく。

 手助けって普通こっちにじゃないの?

 でも倒すだけならすぐ終わるよね。



「こい、夜叉丸。紅蓮流剣術水の型 渦潮」



 新しく手にいれた鬼能の[紫水]を刀からだして地面を抉る。

 紫水は地面を抉りながら深い穴を作っていく。

 その中に鬼たちを閉じ込めたということだ。



「紅蓮流剣術炎の型 灯籠流し」



 穴の外から[青い炎]を沢山飛ばして攻撃する。

 上から見下すように攻撃する。

 卑怯ではない。

 鬼は討伐対象なんだから。

 一体、また一体と技の犠牲になり倒れていく

 が、気がつくといつの間にか回復している。

 倒しても倒しても蘇り傷もなくなっている。

 これが琥珀くんの力なのか。

 どうすれば倒せるか?

 琥珀くんはもう山小屋に帰っちゃったみたいだし、この牢獄は鬼を倒さないと出られないだろうから考えなくては。

 なにかいい案は?



「紅蓮流剣術炎の型 爆流炎」



 思いつかないから穴に飛び込み鬼の首を斬り落としていく。

 が、鬼たちの首はみるみる戻っていく。

 糸に縫われるようにして戻っていく。

 なら、



「もう一度炎の型 爆流炎。

 からの水の型 打ち水」



 もう一度首を斬り落としてから、紫水を刀から少量糸に目掛けて飛ばす。

 糸は溶けていき鬼が回復しなくなった。

 爆流炎で鬼の体が灰になっていく。

 それにしてもこの穴からどうやって出るか。

 下に真っ直ぐのびてるから降りるのは楽だけど登ることを考えていなかった。


『ねぇ....バカでしょ』


 ....。

 ダメだ、返す言葉がない。


『壁を蹴って上がっていくか、[紫水]を使って足や手がかけれる場所を作るか』


 ありがと、夜叉丸。

 自分は後者を選んだ。



 数十分後にやっとの事で出られた。

 なんどか落ちてしまったがなんとかなった。

 琥珀くんの黒糸獄は消えている。

 琥珀くんが山小屋で待っているから戻るか。



「案外はやかったね」


「琥珀くん、山小屋に戻ってたんじゃないの?」


「違うよ。次、炎の型 黒糸獄」



 また閉じ込められてしまった。

 それもさっきより強そうな悪霊が入っている。

 川の反対岸にいる。

 天狗だ。

 しかも額には東と書いた水晶がある。

 東天狗は剣術に秀でているんだったな。

 なら剣術だけしか使うべきではないだろう。



「東洋武器 草薙の剣。東洋武器 七星剣」



 前とは違う天狗で、しかも新たな武器を使っている。

 片方は、昔に出てきた大蛇の首を斬り落としたとされる剣だ。

 もう片方は知らないけど、師匠の鎌と同じ感じがする。

 しかも天狗は二刀流だ。



「七星剣 壱」



 七星剣と呼ばれる剣で突き技をしてくる。

 当たるだけで肌が焼けるように痛い。

 否、火傷を負っている。

 少しでも隙を見せると、草薙の剣で斬られてしまう。


 だんだんわかってきた。

 この天狗も生き物ということなのか、癖がある。

 そこから崩していけば倒せるかもしれない。



「七星剣 弐」



 そんなのありかよ。

 宙に新たに剣が現れた。

 しかもその剣は天狗の癖を補うかのように動いている。

 天狗は二と言ったって事は七まである可能性が高い。



「七星剣 参」



 次に出てきた剣は隙をつくように動いてくる。

 特に後ろから攻撃してくるからいやらしい。

 斬られれば焼けるような痛みで意識が飛びそうになる。


『手を貸そうか?』


 そうしてくれると助かる。


『なら中身が空洞の氷を作って、その中に最高火力の炎をいれてね。名付けて、昇炎華』



「鬼の型 昇炎華」



 言われた通り、空洞の氷の中に炎をいれる。

 煙と爆風で距離をとることができた。

 天狗をみると体に火傷がある。

 どういう原理なんだ?


『簡単だよ。個体が気体になる行程を利用したんだ。個体が気体になるときに体積が物凄く増えるからね』


 なにが言いたいのかわからない。


『....そっか』



「紅蓮流剣術水の型 五月雨さみだれ



 紫水を雨の如く降らせる。

 勢いが強いのか能力か地面のそこかしこに穴が開いた。

 天狗の体にも穴を開けながら降り続ける。

 さらにこれは[紫水]だからあの糸も消えるはず。



「うん、なかなかだね」



 東天狗が死んだときに琥珀くんは声をかけてきた。



「あの天狗は強かったです」



 もう跡形もなく消えている。

 これで新しい東天狗がどこかで誕生しただろう。

 そういえば東天狗から武器って奪えるのかな?



「今日は終わりだよ。また明日も頑張ってね」


「はい、ありがとうございました」



 今日はいつもより疲れた。

 天狗は互角くらいだったから倒せたのが奇跡に近い。

 夜叉丸も手助けしてくれたから倒せたにすぎない。

 明日はもっと辛い修行がまっている。

 そんな気がしてならない。



 琥珀くんとの修行三日目。

 と思ったら手紙だけ置いてあった。



『急な召集がかかった為、今日は自由とする』



 そう手紙には書いてある。

 誰からの召集なんだろう?

 今日はなにをしよう?

 自由と言われるとあの日の事を思い出す。

 自由な日に町に行き鬼に絡まれ暴走してしまった事。

 絡まれる事はあるかもしれないが、暴走はしないだろう。

 だから今日は町に出掛けることにした。


 とは言ったもののなにかを買うわけではないからお店を片っ端から冷やかして回っている状態だ。


 町を歩いているとなんか人だかりができている。

 なんの集まりだろうか。

 面白そうだから人混みを掻き分けて前に行くと、



「ほらほら嬢ちゃんたち、大人しくお金を渡せば怖いことはしないよ」



 あの人どこかで見たことがあるような?

 思い出した‼

 あの時の犯人だ。

 まだ懲りずにこんなことをしてたのか。

 上司は死んだと言うのに図太い神経だな。

 それにしても周りは誰一人として止める気はないのか。



「ほらほら?」


「や、やめてください」



 女の子は脅えてるじゃん。

 玖郎さんが来ると思うけどまだかな?

 ここはかっこよく止めるべきかな?



「あっ‼ 君この悪党と戦ってた人」



 えっ、なんで。

 隣にいる人に指を差されてしまった。

 これは止めるべきだな。

 女の子は救世主って顔でこっちを見るし、周りは止めてくれるって期待の眼差しで見てくる。



「なっ‼ お前は。だがこの前みたいにはいかないぞ」


「なにをする気だ?」


「なに、今回は邪魔をされないように用心棒を雇ったまでだ」



 用心棒ってこいつを守る人って事だよな。

 ならそれなりに強いかもしれない。

 下手したら自分より強い人なんてそこら中にいる。



「しかもそいつらはな、ここいらで有名な霊術大学校に受験したんだぞ」



 あの犯人はペラペラと喋り始めた。

 周りは絶望の表情を浮かべている人が多い。

 あの学校に受験した人か。

 知り合いじゃないことだけを願うか。

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