11. シュギョウ2


 試験に合格したが、学校が始まるまで1週間ある。


 こっからどうするか悩んでいた矢先にある人が来た。


 ある人は天然でどこか抜けている。


 それでいて独特な修行方法だ。


 明日はどんな修行だろうか。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 山小屋に帰ると先客がいた。

 知ってる人だけどあまりよく知らない人。

 ここ最近修行の相手をしてくれたけどよくわからない。



「こんばんは、忌助くん」


「こんばんは、琥珀さん。どうしてここに?」


「それは紅蓮さんにこれを渡すように言われてね」



 そう言って琥珀さんが懐から出したのは水の型と書かれた巻物だ。

 師匠は自分がこれが必要ってわかったって事だ。

 なんでわかったんだ?

 師匠って何者なんだ?



「なんで紅蓮さんがわかったか? って思ってるでしょ」


「はい」



 なんでわかった?

 そんなに顔に出ていたのか?



「それは紅蓮さんの能力だよ。[風読み]でどんなことがあったかを確かめて、[地の声]で声を聞いたって感じだよ」


「とても有能な能力なんですね」


「まぁそうかな。使い方にもよるんじゃない?」


「使い方ですか」


「そう。だから入学までの一週間も私が修行相手になってあげる」


「ありがとうございます」



 琥珀さんが修行をつけてくれるって言っても前みたいなやつかな?

 世間話をしてから軽く打ち込み。

 それでも嫌じゃないけど鈍っちゃうような気がしてならない。

 そんな事よりも学校の提出書類を書かねば。

 なになに、名前と生年月日、それと学校に武器を持ってくる場合は武器登録もしなくてはいけないのか。

 霊術の授業で使う装備品は各自で用意しないといけないのか。

 指定はないけど防霊術と防刃が好ましいか。

 買いにいくか、師匠にもらったお金が余っているから。



 トントントン

「ごめんくださーい」



 と外から声をかけられた。

 こんな夜遅くにわざわざ誰だろう?

 扉を開けて確認すると、



「お届け物です。愛六忌助さまでしょうか?」


「はい、そうですけど」


「こちら愛六風馬さまからのお届け物です。それではありがとうございました」



 そう言って山を降りていく。

 愛六風馬さまから?

 どういう事なんだ?

 だって風馬は、

 そう思い急いで箱を開けると一番上に手紙があった。


 ================


『忌助へ

 これが届くということは僕はこの世にはいないだろう。

 僕の命は長くないとお医者さまから言われている。

 これは忌助への贈り物だから受け取ってほしい。

 紅蓮さんに忌助が学校に受験すると聞いてね、もちろん合格するだろうから、僕ができる事の一つだ。

 まだあるけどそれは秘密だよ。

 愛六風馬より』


 ================


 そう手紙には書かれていた。

 まだなにかしてくれているのか?

 それがなにかはわからないけど悪いことではないだろう。

 今までがそうだったんだからこれからも。

 紙包みのなかには服が入っていた。

 呪詛が這わせてあり、《守霊術》、《守刃》だと琥珀さんが教えてくれた。

 それと伸縮性に優れた帯をもらった。

 これは相手を拘束するのに使うといいと琥珀さんが教えてくれた。



「よく知ってますね? 琥珀さん」


「だってそれは君のお兄さんに頼まれて一緒に買いに行ったんだもん」


「へぇ?」


「それに私が呪詛を這わせたんだよ」


「そうだったんですか」


「そう、どういうのが必要か。って沢山聞かれたよ」


「なんかありがとうございます」


「いや、いいって。それに君のお兄さんを助けられなかった。なんか人為的に鬼の事件が愛六家に遠い所で沢山起きてたから」


「そんな事が‼」


「君は狙われてる。だからせめて君だけでも強くしてあげないと、君のお兄さんに、風馬にあったときに顔向けできないからね」



 風馬と琥珀さんは仲がよかったのか?

 どんな関係だったんだろう?

 もう少し仲良くなってから聞いてみるか。



 ※



 そして朝。

 扉を開けると外は白1色。

 雪の世界が広がっていた。



「今日は縛法ばっぽうを教えてあげる」


「縛法ですか?」


「そう、昨日の帯を使ってね」



 その声と同時に自分は吹っ飛んでいた。

 多分蹴られたんだろうけど痛みが感じなかった?

 それと首に針が刺さっているのがわかる。

 あれ?

 体が言うことを聞かない。


 ボフッ


 その音で雪の上に落ちたのだとわかった。

 雪の冷たさすら感じられない。



「驚いたかな?」


「....」


「そうだった。今は私の針で少しも動けないのか。

 それは私の能力だよ。感覚をすべて止めた。って言っても脳は動いてるけどね。

 じゃあ縛法の説明をしていくね」



 琥珀さんはそういうと優しくかな?

 優しくうつ伏せにしてくれた。

 そして針が少しだけ抜けた感じがした。

 そうすると触れられているのがわかる。

 それと雪の冷たさも。



「まずは相手の手を連行するときみたいに吊り上げる。

 次に帯で片手首を結ぶ。その時に、手首はできるだけ首に近づける事で痛い。この時になるべく端の方で結ぶこと。

 次に結んだ手と反対側から首に帯をかけてから、もう片方の手首を結ぶ。これで残った帯を帯で巻き付けると完成だよ‼」



 その瞬間に針が抜けて縛られている事を肌で感じる。

 腕が首に近く辛いので下げると首が締めつけられた。



「そうだ、言ってなかったけど腕は下げない方がいいよ。首が締まるから。って遅かったね」


「もっとはやく言ってくださいよ」


「ごめんごめん」



 そう言って琥珀さんは小屋に戻っていく。



「ちょっ、外してくださいよ」


「そうだった。おいで、極夜鬼」



 琥珀さんは刀を呼び出して帯だけを斬った。

 自分が斬られてしまうんではないかとハラハラドキドキした。

 そのまま琥珀さんは小屋とは反対方向に歩いていく。

 小屋に戻ろうとしてたじゃん。



「琥珀さん、どこに行くんですか?」


「ついてきて」



 それだけ言ってもう一度歩きだした。

 そのままどのくらい歩いただろうか。

 師匠と修行していた川についた。

 歩くとこんなに時間がかかるのか。



「ここでちょっとまっててね」



 琥珀さんは森の中に入っていく。

 見えなくなってしまった。

 なんでこんな所に来たんだろう?


 少しして森から変な物が出てきた。

 変な物は山なりに自分の方に向かってくる。

 避けてから、来た変な物を確認すると....鬼だ。



「琥珀さん、なんで鬼が? しかもまだ死んでません」


「よく見て、首もと」



 琥珀さんが森から歩いて出てきたので聞くと首もとと言われた。

 見てみると自分に刺さっていたのと同じ針が鬼にも刺さっている。



「これはどういう事ですか?」


「それは忌助くんの縛法の練習だよ」



 練習に鬼を使うとは。

 考えたこともなかったし、師匠もそんな事はしなかった。

 効率的だろうけどなんか気がひける。

 そんな事は言ってられないから縛法を始める。

 自分が締めている帯を外して手首から縛っていく。


 できた‼

 完成だ。手首を下げると首が締まる仕組みになっている。



「お疲れ、よくできたね。そしたら一回それを外そうか」



 言われた通り、鬼を縛っていた帯を外す。



「よし、じゃあもう一回」



 言われた通り縛法を始める。



「ウガァァァァァァァ。止めろ‼」



 鬼が急に暴れだした。

 否、あの首もとの針がなくなっている。

 実践方式ということだろう。

 鬼も基本的には人間と同じ体の構造なので、首にある頸動脈を抑えて血の流れを停める。

 数秒しないうちに鬼は気絶した。

 そのうちに急いで帯で拘束をしてから、蘇生法をする。



「起きろ」


「ウガッ‼」


「琥珀さん、これでいいですか?」


「うん、大丈夫そうだね。今のやつは誰に教えてもらったの?」



「これは雨三玖郎さんです」


「ふーん。おいで、極夜鬼」



 琥珀さんは鬼の首だけを斬り落とした。

 もちろん帯は無事だった。



「じゃあ明日は違う修行をしようか」


「はい」



 って返事をしたはいいが、琥珀さんの修行法は独特だから心配になってきた。

 鬼と戦わせたり、強い悪霊とか呼び出したりしそうだ。

 あぁ、師匠の修行の方が楽だったな。

 いやいや、ボコボコにされるのを楽と言っていいのか?

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