09. シケン


 人間は苦手だ。


 誰かに同調して周りに広がっていく。


 どんな悪いことだって拡大してしまう可能性がある。


 それが悪だとは思わなくなる。


 歯止めが効かなくなる。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 雪で山が白色に染まり風が冷たい朝。

 今日、入学試験の日がやって来た。

 この日の為に何かしたかと聞かれたら否だ。

 でも大丈夫だ。

 多分大丈夫だろう。


 琥珀さんは昨日の夜のうちに出てしまった。

 結局性別はどちらだったのか。

 そんな事を考えながら支度をする。

 といっても受験番号が書かれた木の札だけだ。



 学校に近づくにつれて人の量も多くなり、大半の人は親と来ているみたいだ。

 皆それぞれ身にあった武器を持っていたりする。

 持ってない人はいるけど霊術が得意なんだろう。



「やぁ忌助くん。おはよう」


「おはようございます、玖郎さん。と....」


「....」



 玖郎さんとたしか鈴だったかな。

 まだ嫌われてるのかな?

 本当に自分何しちゃったんだろうか。



「よろしくね」


「....」



 ダメだ、無視される。

 なんか悲しいな。



「お父さん行こ」


「あっ、鈴。ごめんね、忌助くん」



 鈴は逃げるように玖郎さんと行っちゃった。

 涙が出ちゃうよ。



「アイツ武器を持ってなんだな」


「あれが例の化け物だよ」


「うっわ、弱そうだな」



 悪口が伝染していき周りが自分の悪口を言っている。

 物凄く不愉快だ。



『殺す? 殺しちゃう?』


 だからなんでそうなる。

 前もそうだったよな。


『そうだっけ? 君の心から憎悪が物凄い溢れてるからさ』


 それはそうだろ。

 悪口や罵りを受けて喜ぶやつはごく一部だと思うよ。


『とんだ変態だな』


 特に偉い将軍さまとかそういうのが好きな人が多いらしい。



 夜叉丸と話していたら学校についた。

 番号ごとに別れていて千ずつ区切られている。

 校庭はおかしいくらい広い。

 零零五四一番なので零零零零一~零一零零零のところに並ぶ。

 時間的にはまだ余裕があるからそこまで来ていない。

 こんなに多くの同い年を見るのは始めてだな。

 あからさまに弱いやつや強そうなやつはいる。

 っていっても人を見る目がいいかわからないけど。

 集合時間がせまるにつれて人も集まりだして定刻前には全員集まったみたいだ。



「これから高等大霊学校入学試験を開始する。注意事項をーーーー」



 とても広い校庭に響きわたる音量で喋りだした。

 どんな原理なのか見当もつかない。



「知らないのか?」



 考えていたつもりが声に出ていて前の子に聞かれてしまったようだ。



「あれは呪札で拡声って効果のを使ってるからなんだぜ」


「そんなのもあるんだ」


「そう。ちなみにあれはうちが作ったやつだ。俺は つき。みんなからはながつきって呼ばれてるからよろしくな」


「自分は愛六忌助、よろしく」


「愛六忌助、忌助、忌助。お前があの鬼の子か‼」


「多分そうだと思うよ」


「そっか、なら尚更ながつきって呼んでくれよな」


「なんでそんなにこだわるの?」


「いやー、恥ずかしい話、親に関わるなって言われてんだよ、鬼の子と。でも昨日喧嘩したからその腹いせだ」


「う、うん。わかった。よろしく、ながつき」


「よろしくな、忌助」



 よし、初めての友達できた。

 ながつきがどのくらい強いかはわからないけど合格してほしい。


 とても長くてありがたーい話が終わり本格的に試験が始まろうとしている。


 みんな緊張なのかピリピリしていて居心地が悪い。

 先生方がせわしなく準備を進めている。

 あっ、玖郎さんも働いてる。

 学校の先生をやっていたのか。

 いや、違うな。

 あれは保健の先生なのか。


 やっと始まる。

 零零零零一-零零五零一-零一零零一-零一五零一-零二零零一-零二五零一と五百ずつ区切られて一斉に始まるらしい。

 合計四十個の場所が用意されてる。

 武器を使ったりして藁人形の首を落とそうとしているが特殊な木が首に刺さっていてそう簡単には斬れなさそうだ。

 実際最初の子は苦戦しているのがわかる。



「結構遅いね」


「うん、あれじゃあ実戦で使えないね」


「はやく忌助の番にならないかなー」


「なんでだよ」


「忌助がどんな事をするのか楽しみなんだもん」


「ならながつきだって凄いの見せてくれよ?」


「いいよ。九家くけの名にかけて俺の特製呪札を使ってやるから忌助も本気だせよ」


「わかった、ながつきのが凄かったらね」



 そんな他愛ない会話をしていると一人目が終わったところだった。

 そのまま順調に事件も起こらず進んでいきながつきの番がきた。



「次零零五四零番、つき、前にでて始めてください」



 ながつきは呼ばれて前にでる。

 それと同時に一枚の呪札を投げて藁人形に貼りつける。

「滅」とながつきが唱えると呪札を中心にして藁が腐っていき数秒で跡形もなく消滅した。

 これは凄かった。

 あんな呪札は見たことがない。

 審判も感心しているくらいだ。



「次零零五四一番、愛六忌助、前にでて始めてください」



 呼ばれたので前にでる。

 そのまま歩き藁人形を間合いに入れる。



「こい、夜叉丸。紅蓮流剣術 死」



 夜叉丸を呼び出して刀を振るう。

 寸止めで藁人形の首は簡単に落ちた。



「なんだあれ‼」


「ずるじゃないのか?」


「どこから刀をだした」



 なんか色々と言っているが関係ない。



「今のはどこの剣術だ?」



 審判に聞かれたので紅蓮流剣術と答える。

 それに納得すると戻っていいと言われた。

 紅蓮流剣術って有名なのか?



「次、ってどうした?」



 一人手をあげている子がいる。

 審判が尋ねるとすぐに答えた。



「今の子はなにかズルをしたんじゃないですか?」



 今の子って自分の事だな。



「またはさっきの藁人形が不良品だったんじゃ?」



 とんだ言いがかりだな。

 どこにその根拠がある。

 ってやってないって根拠もないか。



「なんか面白くなってきたな」


「決して面白くはない」



 ながつきはなんか楽しんでるし。

 なんか回りは同調してきてるしなんでだよ。



「せんせーい。九家の名の元に命ずる。不満のある者は忌助と戦い勝ってその事を証明してください」


「まぁいいでしょう」


「はぁ?」



 ねぇねぇ、何言ってるのながつきくん。

 それに先生もなに了承しているの。



「それでは愛六忌助と愛六忌助に不満のある者は前に」



 これってやらなきゃいけない雰囲気だよね。

 どうしてもやらなきゃダメかな。

 大体二十人くらいが前にでてきた。

 多くない?

 ねぇ多くない?

 てか見るからに弱そうなやつばっかじゃん。

 これ下手しなくても殺しちゃうよ?



「忌助くーん」


「あっ‼ 玖郎さん止めにきてーーーー」


「ーーーーこれを使いな」



 あー、止めにきてはくれないのね。

 玖郎さんから渡された刀は透き通るような刃をしていて、なんかすぐ壊れそう。

 まぁこっちなら殺さないだろう。



「では始め‼」



 審判楽しんでるよな、おい。

 てか囲んだ状態から始まるのね。

 前と後ろから挟み撃ちで刀を振るってくる。

 動きは遅く対処しきれない訳ではない。

 ギリギリのところでかがんで避ける。

 頭上で刀と刀が衝突している。

 てかそっちは刀を使うのね。

 下手に当たったら死にかねないじゃん。

 あーもういいや。



「こい、夜叉丸。氷の型 足枷」



 夜叉丸を呼び出して技を使う。

 相手全員の下半身を凍らせて動けないようにする。



「雷の霊術」


「風の霊術」


「水の霊術」


「火の霊術」



 下半身だけだったので霊術の準備をしてた子達は撃ってきた。

 土の霊術だけないんだよな。



「炎の型 炎舞」



 円を描くようにして青い炎の刀で霊術を消滅させる。

 次は刀を投げてきた。

 武器は捨てる物じゃないって言えた口じゃないな。

 あえてギリギリで避けて破壊する。

 刀を投げてきた子達は「大事な刀が」って顔してるけど投げたのそっちだよね?

 物凄いイライラする。



「じゃあ次はこっちから行くね」


「待って、ごめんなさい」


「殺さないでー」


「いやー、ごめんなさーい」



 口々に命乞いをしたり泣き出した。



「そっちは殺そうとしといて殺されそうになるとやめてって都合がよすぎるんじゃないの?」


「死んでないじゃん」


「「そうだそうだ」」



 その「そうだそうだ」って超うざいな。

 なんだろう、物凄いイライラを掻き立ててくる。

 なら作戦を変えよう。

 コイツらは絶対に痛い目をみせてやる。



「みんな弱かったけど本気?」


「あぁ本気だよ」


「そうだ本気だ」



 次々に本気だと教えてくれた。



「そっか、本気だったか。ならこっちも本気でいくのが礼儀ってもんだよね」


「ひぃぃぃ」



 おかしいくらいの霊力を溜める。

 数人失神して、数人はお漏らし。

 そんな怖かったかな?

 うん、師匠にそんな事を言われて霊力溜めだしたら怖いなんてもんじゃないな。


「そこまで」


「なんで止めるんですか、玖郎さん」


「いや、このままだと忌助くん本気だすでしょ。そしたらこの子達の命が無くなるだろうから」


「まぁそうだけど」



 この時ここにいる人たちの心は一つになった。

「殺す気だったのか‼」と。

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