08. テング ト コハク


 人にはなにかしら聞かれたくないことがあると思う。


 言わないんだったら無理に聞かないのが1番いいだろう。


 でもどうしても気になるときはどうするべきか....



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 心臓が鳴り響く。

 ただただ目の前の敵が危険だと知らせるために。

 他の天狗たちの氷には皹が入り始めた。

 逃がしてはくれないだろう。



「逃がしてって言ったら?」


「断る。お前を殺せばおなごを食える。だから断る」



 ですよねーーー。

 そんな簡単にはいかないか。

 師匠は今どこかに行ってるから助けにこない。

 夜叉丸、何かいい方法ってない?


『ないかな。僕が前に出てもすぐ殺されちゃうと思うから』


 そっか。

 まぁやれるだけやるぞ‼



「紅蓮流剣術炎の型 灯籠流し」


「守の舞」



 両刃刀を器用に操りながら、青い炎の刃を斬っていく。

 まるで踊っているような動きだ。



「攻めの舞」



 その言葉で隙を狙って突きを放ってくる。

 ギリギリで防げているがどこまで持つかわからない。

 一突き、二突き、三突きと続き五十何発目かで左肩に当たってしまった。

 傷は浅く致命傷ではないのが不幸中の幸いかな?



「爆ぜろ」



 東天狗はそう言った。

 そうすると自分は血しぶきをあげながら左腕が肩から落ちた。

 超高温で焼きつくすような激痛が全身に走りまわる。

 肩から血がボタボタと垂れている。



『止血をしといたぞ』


 ありがと、夜叉丸。



 夜叉丸が止血してくれて痛みは少しだけ和らいだ。



「これでも死なないのか。少し見誤ったようだな。

 次で最後。滅殺の舞」



 さっきよりも両刃刀の速度は落ちている。

 防ごうと刀を前に出すが当たる感触がしない。

 そのまま両刃刀が首を撫でるーーーー



「坊っちゃん、ここは子供の来るところじゃないよ」



 東天狗は距離をとっていた。

 運よく助けが来てくれた。

 白い髪の中性的な人で武器は短めの刀。

 体に釣り合ってないような感じがする。



「坊っちゃん、これを使うといい」



 呪札を渡された。

 これは完治の光という能力の呪札だった。

 使うと落ちていた左腕が消滅し、左腕は肩からはえてきた。



「ありがとうございます。助かりました」


「それは良かった。でもよく無事だったね。あの天狗たちそこら辺の鬼や悪霊だよりも強い特別な天狗だよ」


「そうなんですか?」


「まぁ見てて。私がすぐに片付けるから。おいで、極夜鬼ごくやき

 紅蓮流剣術炎の型 黒糸牢」



 えっ‼

 今紅蓮流剣術って言った‼

 ってことはこの人も師匠の弟子?


 天狗の周りには黒く燃える糸が張られている。



「舐めるな、人間。一人増えても....」



 近づいてきた天狗は黒く燃える糸に触れて、斬られてみじん切り状態だ。

 もしかして見えてなかったのか?



「炎の型 黒龍縫い」



 次に氷付けの天狗たちを軽々と葬った。



「さぁ、お家に帰りな」



 女の子に家に帰るように促している。

 あの人は師匠の弟子だよね?



「あの、さっき紅蓮流剣術使ってましたよね?」


「うん、知っているのかい?」


「知ってるもなにも師匠に教えてもらいました」


「師匠って紅蓮さんかな?」



 紅蓮さん....そういえば一番最初にそんなことを言っていたような。



「多分そうだと思います」


「そっか。私は琥珀っていうんだ。紅蓮さんがつけてくれたの」


「自分は愛六忌助といいます。助けてくれてありがとうございました」


「別にいいって。それよりも忌助くんの鬼の能力は何?」


「自分の鬼能は[青い炎]と[赤い氷]です」


「鬼能? って鬼の能力で鬼能ってこと。それいいねぇ。私の鬼能は[黒炎こくえん]と[黒石糸こくせきし]、[黒石針こくせきばり]だよ」


「だから炎の型なんですね」


「そういうこと。じゃあまだやることあるからまた会おう‼」



 琥珀さんは行ってしまった。

 それにしても始めて他の鬼の子に会ったな。

 それに強かった。

 あの天狗は他の天狗と違うんだよな。

 調べてみるか。



 ※



 自分は玖郎さんを尋ねた。

 そしたら書物庫というところに連れてってくれた。

 沢山の本や巻物などがあり調べ物をするにはもってこいの場所だ。

 歴史の書物の中に天狗についての記述があった。


 天狗の中でも上位に位置する烏天狗。

 そのおさは四体いて、額にそれぞれ守っている山が書かれた水晶を宿している。

 長は強い奴が自動的になるようになっていて、倒しても倒してもきりがない。

 それにそれぞれの山に封じられた武器を使うためとても強いため討伐には適していない。

 北天狗は大昔の特殊な霊術を使う。

 南天狗は昔からの天狗の技を使う。

 西天狗は西洋神話の武器をつかい魔術と呼ばれる特殊な技を使う。

 東天狗は東洋神話の武器をつかい剣術にとても秀でている。



 簡単にこんなところかな。

 長と呼ばれる強いやつなのか。

 夜叉丸、鬼に長っているのか?


『いるよ。鬼の場合は王って呼ばれるけどね』


 ちなみに今の王はどんな名前?


『そこまではわからないかな』


 ありがと、夜叉丸。



 わかった情報は少なかった。



 ※



 山小屋に帰り、一人で修行をする。

 とにかく反復練習。

 それしか上手く、強くなる方法はない。

 何度も何度も素振りを繰り返す。

 気がつくと夜になっている。

 今日は疲れた。

 自分はまだまだということが物凄く身に染みた。

 もっと修行をして強くならなければ。



 ※



 朝、雲一つない晴天。

 木々が赤や黄に染まり始めた。

 空気は乾燥して木枯らしが吹く。

 そんな毎日を過ごす。


 試験まで半年をきった。

 毎日毎日同じ事の繰り返し。

 一人での修行はとても不安になる。

 これであっているのか。

 見本もなければ目標も見えない。

 高めあえる相棒もいなければ、どこがダメかを教えてくれる人もいない。

 素振りをしては木に刀を打ち込み、走り込んでは小鬼を狩る。

 これで自分は強くなれているのか。

 ひょっとしたら自分は弱くなっているんじゃないか。

 そんな不安が頭をぐるぐるしている。

 頼れる人もいない。

 師匠はどこかに行ったし、玖郎さんは仕事がある。

 家族は頼れない、否、頼りたくない。

 どうすればいい。



「ここが忌助くんの山なのか」



 走り込みをしてると声をかけられた。

 その声の主はこの前会った琥珀さんだった。



「お久しぶりです」


「久しぶり、忌助くん」


「どうしてここに?」


「もうすぐ忌助くん試験があるでしょ。それを見てくれって紅蓮さんに頼まれたんだよ」


「師匠がですか?」


「そうそう。だからこれから私が修行をつけてあげる」



 琥珀さんの修行は独特だった。

 いや、これを修行と呼んでいいのか?

 大半が世間話をしてから、少しだけ刀をあわせる。

 琥珀さんとの話はとても勉強になることが多く、悪くはないけど修行とは言いがたいような気がする。

 刀をあわせるのも、琥珀さんが一瞬で自分の首に刀を当てて終わりになる。

 まったく反応できない。

 こんなんでいいのかな?

 それにとても気になる事がある。

 琥珀さんは男なのか女なのか。

 聞いてもいいことなのかわからないから聞けていない。


 そんなこんなで明日は試験だ。

 なんかとても無駄な時間過ごしてしまったような。



「とうとう明日は試験だね。頑張ってね」


「もちろん頑張ります。」




 ◆◇◆◇◆



「性別ってどっちですか?」



 意を決して聞いてみる。

 気になって気になって仕方ないし、明日急に思い出して集中を切らしたくない。



「えっ‼ あーそっか。言ってなかったか。私は◯だよ」


「....」



 しまった‼

 どっちの場合もどう反応すればいいのかなわからない。

 ◯なのか。

 どう反応するのが正解なんだ?

「そうだったんですか。てっきり◯の子かと思ってました」とか言ったら傷つける可能性あるし、

「そうなんですね」って言っても◯の子って期待させたって思われるかもしれない。

 どうしよう、聞かなければよかった。



「まぁよく◯の子に間違われたりもするからね。わからないのも無理はないよ」



 すぐ返答しなかったから物凄く気をつかわせている。

 ってことになりかねないから聞くのはやめよう。


 これは自分の妄想だ。



 ◆◇◆◇◆



 世界には知らなくてもいいことがあるんだ。

 それに聞かれたくないこともあるはず。

 言わないんだったら無理に聞かないのが一番いいだろう。


 でもとっても気になる‼

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