07. サイゴノ
心臓の音が聞こえる。
危険を知らせるかのように強く脈打っている。
ドクドクドクドクと....
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「何処に行っていたんだ‼」
その言葉と共に拳骨をくらう。
山小屋に帰るとそこには師匠がいた。
時間的にはまだ帰ってこないはずなのに、先に帰ってきていた。
「ごめんなさい、師匠。でもーーーー」
「ーーーーでもは使うな?」
「だってーーーー」
「ーーーーだってもダメだ。で、何処に行っていた?」
「自分の家に帰っていました」
「それはなぜだ? せめて置き手紙だけてもしとくべきじゃないか? 一応お前を今預かっている立場にある。だからお前に何かあったら俺が責任を取らないといけない。わかるか?」
「....はい。ごめんなさい」
今の会話だけで二つも拳骨をもらっちゃった。
たんこぶができちゃうし、お嫁にいけなくなる。
『なに一人でやってんだ?』
いや、なんでも。
夜叉丸と会話が出来るようになって少しむず痒い感覚だ。
でも話せる相手がいるのはいいことだ。
ここ最近は師匠としか会話してないしな。
いや、信用していいのか?
五歳までは風馬としか会話してない。
ってことは、自分って友達がいない....。
なんか悲しくなってきた。
学校行ったら友達沢山作るぞ‼
「あとお前鬼を従えれたようだな」
「わかるんですか?」
「あぁ、そのくらいはわかる。雨もあがった事だしって夜だな。明日は鬼の刀を使って修行だ。いいな」
「はい」
鬼を従えれた事は師匠にすぐに見破られてしまった。
明日は夜叉丸を使っての修行かぁ。
今日は色々あって疲れたからはやく寝よう。
※
朝になり草木にかかる雫が宝石のように輝いている。
今日は川での修行ではなく最初の岩場での修行だ。
「さぁ、始めようか。こい、金獅鬼」
「こい、夜叉丸」
お互いに呼び出した刀を構える。
そのまま何分が経過しただろうか、膠着状態が続いている。
動けば殺される。
そんな感じがして動けないでいる。
師匠は単に自分の鬼能の技がわからないから踏み込みないんだろう。
「どうした? 来ないのか?」
「師匠こそ来たらどうですか?」
師匠が挑発してきたけどそうはいかない。
挑発仕返す。
「なら俺から行かせてもらう‼
「えっ? なにその技」
師匠の持つ刀は大きな鎌に姿を変えた。
こんな技は見たことがない。
しかも刀の時よりも力が目に見えて大きくなっている。
「星の力
「ビリッ‼」という音がした。
なんで?
体が言うことを聞かない。
「星の力
師匠が喋り終えると体の硬直が解けた。
約十秒の硬直。
たかが十秒、されど十秒。
強すぎる‼
師匠と自分では天と地ほどの差がある。
もっと強くならないと。
「まぁこんなもんだろうな。これで修行を終わりにする。ここの山小屋は使ってもいいからな」
「師匠、さっきの技はなんですか?」
「それはそのうちな」
「じゃあ師匠は何処かに行くんですか?」
「そうだ、ちょっと急用が出来たからな。頑張って自主練しろよ」
「はい」
まだ続くと思っていた修行が終わってしまった。
あと一年で学校に行くために試験を受けなくてはいけない。
試験がどんな内容なのか教えてもらってないから心配な所だけどなんとかなるだろう。
「最後になんか聞きたい事はあるか?」
「はい、大丈夫です。師匠、お元気で」
師匠はなにも言わずにこの場をあとにした。
※
師匠がいない山小屋はとても静かで寂しい感じがする。
川に水が流れる音が。
風が木々を揺らす音が。
鍋を暖める火の燃える音が。
誰かが扉を叩く音が....。
えっ?
「誰ですか?」
「....」
誰かが来たのは確かだ。
霊力が扉の向こうに感じることができる。
小声で夜叉丸を呼び出してゆっくりと扉を開ける。
が誰もいない。
さっきまで感じていた霊力も消えている。
なんだったんだろうか?
※
次の日のお昼に玖郎さんが山小屋に来た。
「間に合わなかったのか。こんにちは、忌助くん」
「こんにちはです、玖郎さん。師匠はどこかに行っちゃいました」
「知っているよ。そうだ‼ 忌助くんに言っとかないと。試験の内容だけどね、藁人形を壊す試験になりそうだよ」
「藁人形をですか?」
「そう、その威力で上から決まっていく感じだよ」
「ありがとうございます」
「あとこれが忌助くんの受験番号 零零五四一番だよ」
「結構な番号ですね」
「今年は結構多くって二万人前後はいるかな」
結構な人が受験をするのか。
多分受かるだろうけど周りはどのくらい強いんだろうか。
それにこの受験票は特別な呪術がかけられているが、能力は何かわからない。
「あと半年後ですよね?」
「そうだよ。それまで一人で頑張ってね。
もし何かあったらこれを使ってね」
「これは?」
「これは特別な花火だよ。これを使えばなるべくすぐ行くからね」
「ありがとうございます、玖郎さん」
玖郎さんはまだ仕事があるみたいで帰ってしまった。
独りぼっち....。
『一応僕もいるんだからね?』
二人ぼっちだね。
『そんな言葉は知らないよ』
修行でもするか。
『何をする気? もしなければいいのがあるよ』
何をさせるつもり?
『鬼の討伐‼』
....。
『鬼の討伐‼』
うん、聞こえてるよ。
鬼の討伐かぁ、夜叉丸が提案すると裏がありそうだね。
『特にないよ。それに鬼能の[複製]も使いたいからね』
その[複製]ってどういう能力なの?
『これは能力を持っている鬼や鬼人、鬼の子を倒すとその能力を使えるようになるんだ』
なんか凄い強そうだね。
『全部は物理的に覚えてられないから強いのだけは覚えておこう。そうすればこの鬼能は強い‼』
了解。
じゃあ鬼の討伐に行こうか。
鬼の討伐に行くことに決まったのはいい。
けどどこに鬼が出るかなんてわからないから、鬼に遭遇しないまま一週間が経過した。
時間を物凄く無駄にしてしまった気がする。
「なんでこんなに鬼っていないの?」
『わからん。じゃあ悪霊でも討伐すればいいじゃん。
猫の地縛霊は後々厄介になるから』
「こい、夜叉丸」
刀を呼び出して悪霊の霊力を探る。
と悪霊らしき霊力を感じたので近づいてみる。
数は複数体いるだろうか。
草むらから覗くと、
なっ‼
烏天狗が四体もいる。
それぞれ額に方角が書かれた水晶がある。
その烏天狗に囲まれているのは女の子だ。
拐ってきた訳ということか。
「こんにちは。その女の子を逃がしてあげるつもりはある?」
もしも何か事情があったら悪いから聞かないとな。
頭ごなしに否定してたらよくない。
「人間か? それとも鬼なのか?」
「両方じゃないのか?」
「旨そうだな」
「よし、最初にアイツを殺したやつがこのおなごを食う。それでどうだ?」
「いい考えだな」
ダメだ。
悪い奴らだな、コイツらは。
自分の事を殺そうとするのか。
「北星 重縛」
「南京 暴風」
「西洋武器 ミョルニル」
「東洋武器 草薙の剣」
北天狗は持っていた金色に光る錫杖で地面をつつく。
それと同時に自分は物凄い重圧で立てない。
南天狗が木ノ葉を振ると風が吹き荒れ体が傷だらけになる。
あの風は見えない刃があったのだろう。
『大丈夫か? まだ来るぞ‼』
わかってるけど動けない。
次に武器を呼び出した西天狗は金槌から雷を発生させて撃ち込んでくる。
東天狗は両刃刀を振りかぶり突っ込んできた。
雷は転がる事で避ける事が出来た。
「あっ‼」
そのまま東天狗は北天狗の重圧の範囲に入り地面にひれ伏した。
なんだろう、東天狗だけ遠距離技がないのかな?
ちょっと可哀想に思えてきた。
自分は刀を地面に突き刺して無理矢理立ち上がる。
「鬼の型 氷獄」
そのまま技を発動させて相手の行動を封じる。
重圧は解けて立てるようになった。
「ふんん‼」
おいおい。
さっきの可哀想って気持ち返せよ。
東天狗だけ氷の牢を破った。
「なかなかやるではないか、人間」
「さっき仲間の技で動けなくなってましたよね?」
その言葉が引き金になったのか東天狗は両刃刀を振るう。
ギリギリで防ぎきれたけど危ない。
東天狗は自分よりも遥かに強い。
心臓は高速で脈打ち危険を知らせている。
鍔迫り合いを東天狗からやめて飛び下がる。
「おい人間。お前俺よりも弱いな」
勝てない。
今の自分では絶対に勝てない。
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