06. シュラノ ミチ

 

 あの鎖を断ち斬れば全てを壊せるだけの力が‼



 『さぁ、はやく。はやく』



 もう大事な人がいない世界なんて....



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 風馬はもういない。

 風馬を助けられなかった。



『周りは助けようともしない』



 そうだ、助けられたはずなのに助けなかった。



『鬼は憎い存在だ』



 そうだ、風馬の命を奪った許されざる敵だ。



『全部壊してしまえ。そうしたら楽になるぞ。そしてこの世の全てを壊すんだ』



 そうだ、助けなかった人間も風馬の命を奪った鬼も全て、スベテ、すべて壊してやる。

 壊してなにもかもこの世からなくす。

 風馬のいない世界なんて....なくてもいいんだ。



『なら力をあげる』



 忌助はまたも鬼の部屋にやって来た。

 でも居心地は前よりは悪くない。

 それが憎悪によるものだとは知るよしもない。



「力をくれるのか?」


『あぁ。喜んであげるよ』


「どうすれば――――」


『――――簡単だよ。刀を持ってあの扉にある鎖を断ち斬ればいいんだよ』



 いつの間にか禍々しい扉、否、羅生門・人間道と呼ばれる人の心の理性を保つための扉が現れた。



「あの鎖を断ち斬れば全てを壊せる力を?」



 夜叉丸は無言で頷く。

 今の忌助の体を動かすのは怒りの感情だ。

 風馬を助けなかった人間と風馬の命を奪った鬼にたいする憎悪にとりつかれている。

 そして、風馬を助けられなかった自分に対する憎悪に。


 自分は地面に刺さっている刀を持ち扉に近づく。

 近づくにつれてその扉が物凄く大きい事がわかるが今はどうでもいい。

 はやくこの鎖を断ち斬ってこの世のすべてを破壊するんだ。

 そして最後に自分も風馬のところに行く。

 それですべてが終了する。


 力一杯刀を大きく振るう。

 その瞬間、鎖を守るようにして黒い宝石が刀にぶつかる。



『なぜそうやって邪魔をする‼』



 急に夜叉丸が怒りだした。

 その声で自分の気持ちが少しだけ落ち着いた。

 否、黒い宝石の光が風馬みたいだったから落ち着いた。



『お前は死んだ。これで邪魔は入らないって思ったのに』


「どうしたの? なんで夜叉丸は怒ってるの?」



 思わず聞いてしまった。

 この答えに自分の希望があるように思えた。

 だから聞かずにはいられなかった。



『なんで僕が怒っているのかって? それは君の兄がずっと邪魔をし続けて更には死んでも僕の事を邪魔するからだよ』


「えっ? 風馬が?」


『あぁ、そうだよ。アイツはずっとお前が暴走しないように精神を安定させていた。そのせいで暴走させようにも出来なかったんだ。そして運よく死んだ。だからこれでお前の体を乗っ取れるって思ったのによ』


「....ふざけるな」


『なんだよ。聞こえねぇよ』


「風馬が死んだことが運がいいだと。ふざけるな‼」



 刀を振り上げて斬りかかる。

 横凪ぎに大きく一振りするが軽々と避けられる。



『僕じゃなくて鎖を斬りなよ』


「まずはお前からだ‼」


鬼掌爪きしょうづめ



 刀と夜叉丸の爪がぶつかりあい拮抗きっこうする。

 そのまま全力で刀を一振り、二振り、三振りと斬りかかるがすべて、爪や固くなった掌で受けられる。



『死ね、瘴気』



 スーーーと口から毒らしき煙を吐いて来たので一旦距離をとる。



『チッ、鬼火』


「....鬼火」



 夜叉丸の周りに般若の形をした炎が数個現れる。

 それは真似できそうなので試してみると案の定できた。

 お互いの鬼火は打ち消しあい、その衝撃で瘴気が晴れる。

 今なら紅蓮流剣術の他の技も出来るかもしれない。



「紅蓮流剣術炎の型 灯籠流し」



 師匠に貰った巻物に書いてある通りにやる。

 刀を撫でながら自分の[青い炎]を想像する。

 そうすると青い炎が刀を這うように浮き上がり刀が燃えているみたいだ。

 そのまま横に一振り、炎の刃が夜叉丸に向かって飛んでいく。



『マジかよ』



 驚きながらも避けてたが腕を斬り落とすに止めた。

 まだ倒せないのなら次の技だ。



「紅蓮流剣術氷の型 足枷」



 次は[赤い氷]を想像しながら刀を撫でる。

 そうすると持ち手まで凍りそうな冷たさになり、その刀を思いっきり地面に突き立てる。

 一瞬にして夜叉丸の下半身は赤く凍りつき逃げることが出来なくなった。



『厄介な事を』


「炎の型 爆流炎」



 夜叉丸が氷を砕こうとしている隙に首を斬りつける。

 その斬り口から青い炎が体を蝕み灰にしていく。

 その灰すらも燃やし続けている。



「これが地獄の業火に焼かれるって事なのか」


『そうだね、綺麗な炎だね』


「なっ‼ まだ殺せてないのか」


『まって、刀をしまって。もう戦うつもりはないから』


「本当だな?」


『あぁ。もう君を襲うことは出来ない。君に負けたから呪いが発動してしまう』



 夜叉丸は殴りかかってきたが途中で止まり、身体中を呪詛が縛っている。

 本当に襲えないのか。

 もしかしてこれが師匠が言っていた鬼を従えるって事なのかな?



『そうだよ。君の思っている通りだよ』


「なぜわかった‼ って心がわかるのか」


『そうだね、これで君は晴れて鬼人にならずに鬼の子になりました』



 夜叉丸は面倒くさそうに拍手をしている。

 心なしかあの黒い宝石も小さく弱く輝いている。

「頑張れ‼」と風馬が言っている気がした。

 っていつの間にか懐に戻ってきたんだ?



『さて、そろそろ戻った方がいいよ。君が残りの家族を守るのか守らないのかは君次第だけどねー』



 その言葉が頭の中でグルグルと木霊している。



 ※



 目が覚めると燃えている家の中だった。

 何1つ変わってはいない。

 その事に安堵しつつも、はやく燃え盛る火を消す方法を考えないと。

 遠くから鐘の鳴る音が聞こえてきて焦りが大きくなる。

 もうすぐこの家は他の家に燃え移らないように壊されてしまう。

 家族は救うきないけど、家はなんとなく残しておきたい。


 心の中から声が聞こえた。



『鬼の型 氷獄ひょうごく


 この声は夜叉丸なのか?


『そうそう。会話もできそうだね』


 うん、それはそうと鬼の型 氷獄ってなに?


『君が思っていたこの家を壊さずに火を消す方法だよ。君が僕に使った足枷の上位互換の技なんだ。力を貸すからすぐに使えるよ』



「こい、夜叉丸。鬼の型」



 名前を呼ぶと刀が手のひらに現れる。

 鬼の型と発しただけで物凄い力が刀から流れ込んでくる。

 これが力を貸すって事なのか。



「氷獄」



 刀を床に突き立てる。

 床から壁、天井までみるみる赤い氷に覆われていく。

 数秒して、なんとなく全体が凍った事がわかったので刀を抜く。

 そして家が凍ったからなのか、鬼の子になったからなのか鬼の気配が感じとれる。

 数は五匹。



『殺るのかい?』


 もちろん。風馬を殺した鬱憤を晴らす為にね。

 夜叉丸への怒りも入ってるから。


『....へぇ~』



 鬼がいる方に走りだす。

 最初の鬼は斧を持っていて、凍った部屋に閉じ込められている。

 襖の氷だけ溶かして開けれるようにする。



「そこにいるのは誰だ」


「自分は愛六忌助だよ」


「わざわざ俺に殺されに来たのか?」


「違うよ。わざわざ殺しに来たんだよ」


「舐めるなー」


「炎の型 爆流炎。灰になれ」



 突っ込んできた鬼の斧を避けて首を斬り落とす。

 まずは一匹目を討伐した。

 そのまま順調に二匹目、三匹目と討伐した。



「ありがと、夜叉丸」



 刀から手を離すと一瞬にして消えた。

 そして風馬が殺された部屋に行く。

 あの部屋に師匠に貰った刀を置きっぱなしだったのを思い出した。




「なん....で」



 風馬の死体がなくなっている。

 外では家族と火消しの声が聞こえるが風馬の事など喋っていない。

 刀はあるのに風馬の死体だけがなくなっている。

 この刀は妖刀だから結構な値はすると思う。

 言っちゃ悪いが風馬よりも価値はある。

 とりあえず刀を鞘にしまい、あとで師匠にでも聞いてみるか。


 門をくぐり家からでると声をかけられた。

 声をかけてきたのはお父様だった。



「お前は、忌助か?」


「はい、そうです」


「なんでこんなところに? 火事は? 鬼は?」


「風馬を助けに来たが間に合いませんでした。火事は自分が止めました。鬼も全て討伐しました」


「ば、化け物だ‼」



 お父様じゃない誰かがそんなことを言った。

 それに感化されたかのように広がっていく。



「ち、近づくな‼」


「来ないで」


「殺さないで」



 口々に悪口を言われていい気分ではない。

 てか物凄く不愉快だ。


『殺す? ねぇ、殺しちゃう?』


 いや、殺しはしない。

 でも脅してみる?



「こい、夜叉丸」


「「ヒィィィィィ‼」」



 刀を出すと面白いくらい驚いてくれた。

 そんなことよりもはやく帰らないと師匠が帰ってきて怒られる。



「それでは失礼します」



 お父様にお辞儀をしてその場をあとにする。

 鬼の子になれた‼


 夜叉丸は信用していいのか?

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