04. オニト オニト


 辺り一面赤い氷に覆われ、鬼が何匹か死んでいる。

 鬼の死体は凍り、鬼の血は異臭を放ち気分が悪くなる。

 服は血に汚れベトベトしている。


 自分はなにをしていたんだ?


 なんでこんな事に?



 どうして....自分は....鬼なんだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 一日はあっという間に過ぎていく。

 午前中は技の練習で素振りを沢山して気がつけばお昼になってる。

 午後は川で師匠と修行をしてボコボコの傷だらけにされて一日が終わる。

 それの繰り返しになっている。

 技はなかなか完成しない。



「紅蓮流剣術 死」



 石に向かって刀を振り下ろすが斬れない。

 こう何て言うか、あと少しな感じはしている。

 そのあと少しはわからないけど。



 ※



 木々が紅く染まる。


 川の水が凍り息が白くなる。


 野に花が咲き虫が動きだす。


 蝉が鳴き太陽が肌を焼く。



 やってきました、年に一回の基礎学の時間。

 そして一四歳になりました。

 と思ったら、今日は玖郎さんは用事があるらしく一日自由になった。

 とくにする事もないし町に遊びに行くことにした。


 山を下りて町にでる。

 今日も町には人が沢山いて賑わっている。

 20金貨を持ってきたのでこれで遊べるだけ遊ぶつもりだ。

 これだけあれば武器の一つや二つくらい買えるだろう。

 いくつかある武器屋を冷やかして回ってる。

 これで三軒目だ。

 特に欲しいと思う武器はないんだよな。

 この刀自体刃こぼれなんてしないし、錆びたりもしない。

 やっぱりどこもいい武器はなさそうだ。

 もう少し町を散策しようと歩いていると


 ドン‼


 前にもこんな事あったな。



「お頭、コイツです」


「そうか、お前が言ってたガキはコイツか」



 ぶつかってきたヤツはそう言った。

 コイツ、コイツなんの事だ?

 なんか話が勝手に進んでいる。

 よく見ると弱そうな奴は一年前の犯人だ。

 面倒くさいのに絡まれてしまったようだ。



「あの~、人違いじゃないんですか?」


「別に人違いでも構わない。お前今どのくらい持ってんだ? 飛び跳ねてみろ」



 ダメ元で人違い作戦をしたが効果はなかったか。

 一応言われた通り飛び跳ねる。


 チャリンチャリン....


 あちゃー。

 そういうことか‼

 飛び跳ねさせてお金を持ってるか確かめたのか‼



「結構持っているみたいだな。大人しく渡せば痛い目見なくてすむぞ?」



 周りは見て見ぬふりをして助けてはくれなさそうだ。

 これは渡すべきなのか?

 いや、渡したくない。

 だってこれ自分のお金なんだもん。



「どうしても渡さないといけませんか?」


「痛い目見たいのかっ‼」



 お腹を思いっきり蹴られて後ろに吹っ飛ぶ。

 少し大袈裟に吹っ飛んで急所は外させたから痛くはない。

 師匠の方が何千倍も痛かったんだぞ。



「よっと‼」



 間違えて立ち上がってしまった。



「お前、今のが効かないか。よし、遊んでやろう」



 悪い笑みを浮かべ短刀を抜き放つ。

 こんな所で騒ぎを起こしたら師匠に怒られるだろうな。



「できたら止めてもらいたいんですけど? 師匠に怒られたくないので」


「ふざけんな‼」



 相手の短刀を避けながら説得を試みたが逆効果だったみたいで、怒りで顔が真っ赤になっている。

 とうしよう....。

 野次馬がどんどん集まってきた。

 これじゃあ反撃しようにもやりにくい。



「本当に止めてくれないんですね?」


「ああ‼ 止めるわけねぇだろ」



 ならしょうがない。

 身体強化霊術を使って屋根の上に逃げる。



「逃げるが勝ち‼」



 そのまま屋根の上から上へ移りながら町を出た。

 これで逃げられたか。

 もう今日は疲れたから帰るか。



「待ちやがれクソガキー‼」


「本当かよ....」



 お頭とか言うやつも身体強化霊術で追いかけてきてた。



「逃がさねぇぞ?」



 町を出たのはいいけど囲まれてしまった。

 まだ潜伏してるのを気がつく事ができないせいで誘い込まれたようだ。


 あれ?

 なんかお頭とか言うやつの霊力が禍々しいぞ?

 周りの手下達まで怯えてるじゃん。



「ウガァァァァァァァァァァ‼」


「「ギャァーーーーーーー‼」」



 お頭が鬼になって吠えて、手下達が驚いて悲鳴をあげながら逃げちゃった。

 ここは町に近いから討伐するべきだよね?

 ていうか逃がしてはくれなさそうだし。

 お頭って鬼の子だったのか?

 刀を抜いて構えて対峙する。

 相手は鬼になった腕を振り下ろしてくる。

 それを刀で受け流し、反撃を試みる。



「紅蓮流剣術 死」



 まだ一回も成功したことがない。

 でも物語などではこういうとき成功する。


 ズシュ‼


 刀が相手の首を斬り首が跳ねる。

 技は失敗したけど首は落とせた。



「まだだ‼ まだ死んでないぞ」



 首を落としたのにまだ生きている。

 そしてその声に反応するかのように鬼が数十体出てきた。

 一体でも厄介だというのに増えられたら勝てるかどうか怪しい。

 それに、いつの間にかお頭鬼は首と体をくっつけていた。

 どんどん状況が悪くなる。



「ウガァァァァァ‼」



 後ろにいた鬼に蹴られ派手に吹っ飛ぶ。

 それに合わせるようにして目の前の鬼に回し蹴りをいれられる。

 そのまま吹っ飛び、吹っ飛んだ先にいる鬼に蹴られる。

 何度も何度も蹴られた。

 最初の蹴りがとても効いたみたいだ。

 抵抗が出来ない。

 まるで蹴鞠けまりのようになっている。

 鬼の禍々しい霊力で集中出来ない。

 鼻が腐るような臭いで集中出来ない。

 もう、いつ意識が飛んでも不思議じゃない。



『力をやろう』



 どこからか声が聞こえる。



『ここにいる鬼を倒せるだけの力をやろう』



 胸の奥から湧き出るように声が聞こえる。

 そしてこの瞬間意識が途切れる。



 ※




『鬼の型 氷結』



 その声で辺り一面赤い氷で覆われた。

 槍のように出てきた氷に鬼達は体を串刺しにされて息の根を止めれた。

 そして赤い氷は鬼の血を浴びて赤黒く染まった。



 意識が覚醒して見た景色をなんて表現するべきか。

 そこは一種の地獄と化していた。

 鬼の腐敗した死体がそこかしこに散らばっている。

 また自分の服は鬼の血に汚れベトベトしている。

 そして氷に写る自分の姿はまさしく――――



『「――――鬼だ‼」』



 鬼以外の何者でもない。


 そう、自分は鬼なんだ。



「いつまでボーっとしてる気なんだ?」



 その声で我にかえり後ろを見ると師匠がいた。



「どうやら鬼が暴走しかけたみたいだな」



 師匠は状況を理解してくれている。

 それと、ゴンッ‼と拳骨げんこつをくらった。



「それでお前は鬼を倒せず力を暴走させて鬼を倒したってことか」


「....はい」


「俺の修行を受けてたのに鬼一匹すら倒せないと?」


「....はい」


「ならもっと修行を厳しくさせる必要があるな?」


「....えっ?」



 師匠は悪い笑みを浮かべている。

 どうやらこれからの修行が厳しくなるようだ。

 そこにあの人が来た。



「これは紅蓮さん、どういう状況ですか?」


「あ? 忌助が鬼を討伐出来ず力を暴走させただけだ。後の処理とかは頼んでいいか?」


「わかりました。請け負います」



 玖郎さんは部下に指示を出してこの場所を浄化し始めた。

 自分は師匠と山小屋に帰って、今日は寝ることになった。



 ※



 ここは....どこだ?

 自分は山小屋で寝ていたはずだ。

 自分の頬をつねると痛みがある。

 夢でもないのか?

 辺りは腐敗している地獄のようだ。

 地獄は見たことがないけど。



「やぁ」



 後ろから声をかけられて驚いた。

 見ると赤い髪、黒い肌に黒い角、血に染まったような紅い目が印象的な鬼がそこにはいた。

 気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見ている。



「お前は誰だ?」


「んー、僕かぁー。誰か知りたい? ねぇ知りたい? んふふ、僕はねぇー、夜叉丸やしゃまる。それが僕の名前だよー」


「お前は何者なんだ?」


「何者かぁー。君が思っている通りだよー。僕は鬼。それ以上でもそれ以外でもない。君の中にいる鬼」


「ここはどこだ?」


「質問ばっかだねー。ここは君の心の中だよ。君の心の中の一部だよー。鬼の部屋とでも呼ぶべきかな?」



 この鬼、夜叉丸は質問には答えてくれるみたいだ。

 大筋は理解した。

 自分が飼っている鬼は夜叉丸って言う名前で好意的? なのかな。



「君には飼われてないよー。僕は君の一部分」



 心の中も読めるのなんて、結構厄介な奴だ。



「厄介なんて酷いこと思うなー。僕は君の一部分なんだから心の声だって聞こえるんだよ」


「お前の目的はなんなんだ?」


「僕の目的かぁー。そうだなー。君の欲望を喰らう事かな?」


「欲望を喰らう?」


「そう‼ 欲望を喰らう。いつか君が僕の事を必要とするときが来るから」



 その言葉を最後にして意識が暗転する。


 水の中に沈んでいくような感覚。


 暗く、深く、重い水に沈んでいく。

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