02. オニノ コエ


 『お前は力が欲しくないのか?』


 『お前は強くはなりたくないのか?』


 『お前は....』



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 修行が開始されて、はや二年。

 なかなか次の段階に進まない。

 そんなある日、山小屋に一人の....が来た。



「君が忌助くんだね。愛六忌助、そうだよね?」


「はい、愛六忌助です。あなた様は誰ですか?」


「初めまして。私は雨三あまみ、雨三玖郎くろう

そして久しぶりだね、紅蓮さん」



 この人、玖郎さんと師匠は知り合いなのか。



「あぁ? 誰だっけ?」


「あれ、忘れちゃったか。君の同期で卒業試験で同じ班だったんだよ?」


「そんなやつもいたかな?」



 玖郎さんは残念そうに溜め息をつく。



「まぁいいか。忌助くん、これから一年に一回僕が基礎学を教えるからね」


「基礎学ってなんですか?」


「基礎学は常識や簡単な歴史、読み書きも入ってくる」


「それはなんのためですか?」


「うん、疑問を持つことはいいことだね。それは忌助くんが学校に行くためだよ」



 学校、それは風馬に教えてもらった事がある。

 霊術や武術、勉強などを学べるところ。

 とても興味があり、行きたいと思っていた。

 それがこうも簡単に叶うなんて。



「まぁ、入学試験があるからそれに合格しないといけないけどね。」



 現実はそう甘くないらしい。



「それは紅蓮さんもいいかな?」


「俺は別にいいぞ。もし忌助が少しでも鈍ってたらボコボコにするだけだがな」



 背筋が凍る。

 流石に一日で鈍る事はないと思うが....。



「それじゃあ私はこの辺で」



 今日のところは玖郎さんは帰っていく。

 そうか、学校かぁ。

 今からとても楽しみだ。




 そしてすぐに修行が始まる。

 自分は刀を構える。



「そういえば最近は構えが良くなってきたな。隙があるんだけどその年でそれだけ出来れば充分だろう。よし、少し追加条件だ。俺は今日からお前に攻撃をしていく」


「えっ?」



 自分の驚きと師匠の動きは同時だった。

 師匠は上段に斬り込んでくるのでそれを刀で受ける。

 と同時に中段に物凄い衝撃を感じ後ろに大きく吹っ飛び、岩壁にぶつかる。

 その衝撃で肋骨あばらぼねが数本折れたのがわかる。

 痛みで立てず涙が出てくる。



「どうだ? それが痛みだ」



 師匠はそう言い、右足を強く踏み込む。

 攻撃が来ると身構えたが少しして、自分が寝ている地面に若草が生えて痛みが薄れていく。

 十分くらいしたら完璧に痛みが消えていた。



「さぁ、やるぞ」



 今の説明はないらしい。


 次は自分が先手をとる。

 刀を一振り、二振り、三振りと攻撃するが木の枝で軽くあしらわれる。

 そのまま蹴りを入れられ後ろに吹っ飛び怪我をする。

 そして治されて始まる。

 少しの攻防の後、腕や足が折れる。

 すぐに治されて始まる。

 少しの攻防の後、鼻から血は出てボロボロになる。

 また治されると始まる。

 そんな日が毎日続いていく。



 ※



 木々や地面を朱色に染める。


 息は白く雪は赤色。


 野に花が咲き虫が怯える。


 蝉が鳴き太陽が肌を焼く。



 今日は年に一回の基礎学。

 お金の単位とお金の使い方、基礎霊術の使い方を教わった。

 自分は物覚えがいいらしく二日分をやった。

 特に基礎霊術は覚えるのはよかった。

 えっ?

 なぜ覚えるのだけかって?

 それは自分のあまりにも多い霊力が、霊術を使うときに消費して自分まで怪我をするからだ。

 制御出来ていないということだ。



 ※



 次の日、また修行の始まりだ。

 ある程度は師匠の動きについていけるようになった。

 そして気づくと師匠は木の枝から木刀に変わっていた。

 木の棒はこの前折れたからだ。


 何度も何度も攻撃するがまだ攻撃を当てれない。

 師匠のはやさに追いついたかと思うと、師匠は、はやさが上がりついていけない。

 そのまま木刀でコテンパンにされる。



 ※



 木々や地面を朱色に染める。


 息は白く雪は赤色。


 野に花が咲き虫が怯える。


 雨が振り傷口に染みる。



 また来た年に一回の休息、基礎学の日。

 今日は呪札、回復霊術、簡単な武術の練習をした。

 武術では、何故か驚かれた。

 後に知った事だが、それは九歳のはやさではない程らしい。



 ※



 修行では師匠はなにも教えてくれない。

 ただただ攻撃をしてくるか、受け流すだけだ。

 でもそれで充分だと言われた。

 痛みを覚えることで痛みに耐性がつく(らしい)。

 吹っ飛ぶ度に自分にあった受け身の取り方を学べる(らしい)。

 師匠の無駄のない動きを真似てなにが無駄かを悟れる(らしい)。


 師匠のはやさはまた一段階上がる。

 追いついても追いついても離される。

 師匠のはやさは底がないんじゃないか?

 そして毎日ボコボコにされる。



 ※



 木々は紅く染まる。


 息は白く体から湯気が出る。


 虫が箸で捕まえられる。


 蝉が鳴き太陽が肌を焼く。



 十歳になりました。

 これで自分も大人に一歩近づいたでしょうか?

 今日は年に一回の基礎学の日。

 基礎的な罠の仕掛け方、解除の仕方を教えられた。

 それと武術の柔術を練習した。

 拘束されたときに使う、関節などをはずして使うそうだ。

 それと一つ、玖郎さんには手伝ってもらった事がある。



 ※



 まだ師匠に傷をつけれてない。

 また作戦を思いついた。

 だがその作戦は絶対に師匠に怒られる。

 でもこれしか思いつかないから準備をする。



「今日こそは‼」



 ここ最近毎日言っている。



「よし、かかってこい」



 刀を構えて斬りかかる。

 その時にわざと足を隙だらけにする。

 師匠は足をかけて転ばせてきた。

 そのまま上に蹴りあげ、上から木刀を叩き込まれる。



「ぐはっ」



 中段にくらい血を吐く。

 師匠は狙い通りに動いてくれたが....。



「まだまだだな」



 師匠は首を傾けると、顔の場所に刀が落ちてくる。

 頬の横を刀が通るとき、突風が吹き刀がずれる。

 刀は師匠の頬を浅く斬る。

 突風は呪札を使って発生させた。

 玖郎さんに呪札をもらってあれこれ教えてもらった事が役にたった。

 これが玖郎さんに手伝ってもらった事だ。



「これで次に進めますよね?」


「まずはよくやったなと褒めておこう。次に武器はなにがあっても手放すなと言っただろう」



 師匠の顔は笑ってるけど笑っていない。



「ごめんなさい、でも」


「でもじゃない」



 「でも」は使えない。



「だって」


「だってじゃない」



 「だって」も使えない。



「うーーーー」



 やはり師匠に怒られてしまった。

 でも次の段階には進める。



 ※



 夜に自分は変な夢を見た。

 否、声を聞いたの方が正しいか。



『お前は力が欲しくないのか?』


 ....。


『お前は強くはなりたくないのか?』


 ....。


『お前は....』




「起きろ。おい起きろ、忌助」



 師匠の声がして目が覚める。



「おはようございます、師匠。ってまだ夜じゃないですか」


「お前今うなされてたけど大丈夫か?」


「....変な声が聞こえてきました」



 それを聞いて師匠は考えこむ。

 そしてなにかを決めたように手を叩く。



「それは九割方、鬼の声だ。だがいいか。絶対に鬼に惑わされるな。鬼とは仲良くできるよう頑張れ。お前の中の鬼がいいやつかわかんないけどな」




 師匠の最後の言葉がとても心配だ。

 鬼がいいやつじゃなかったらどうすればいい?

 そもそも鬼と仲良くできるのか?

 わからないことだらけだ。



「まぁもう一回寝ろ。多分今は鬼はでてこないだろう」


「わかりました。おやすみなさい、師匠」



 また眠りに落ちる。

 黒く、クロく、くろく....深く、フカく、ふかく。



 ※



 輝く太陽の光で目が覚める。

 暖かく心地がいい太陽の光。



「いつまで目を瞑ってる?」


「ごめんなさい、今起きます」



 師匠は気がついていたのか。

 起きて布団を片づける。

 そして師匠と一緒に朝食を食べる。



「次の段階とは何をするんですか?」


「それはだな、川の中での修行だ。川では足がとられるし走りにくい。練習にはもってこいだ。それとこれから俺は真剣を使う」


「えっ....」


「なんだ? 次の段階に進むんだぞ。これくらい当たり前だ」



 師匠が真剣を使う。

 それは自分がいつ大きな怪我をするかわからないということだ。



「それで次の段階に進む為には?」


「簡単だ。次は俺からも本気で攻撃を仕掛ける。いや半分くらいで攻撃する。その攻撃を半日と少し耐えればいい。無傷で耐えられたら次の段階に進む」



 これはとても不可能に近い。

 師匠が自分のことを殺そうとすれば十秒も耐えられないだろう。

 そんな人の攻撃を半日とか不可能だ。



「諦めるなよ。少しは手加減をする」



 師匠は獰猛な笑みを浮かべそう言った。

 それが事実なのか嘘なのかわからない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る