01. シュギョウ


 自分は忌み子。


 強すぎる力の持ち主。


 良くも悪くもまだ暴走はしていない。


 そして自分の名は....



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 自分は一番上の兄、風馬にしか会ったことがない。

 産まれてから毎日風馬が自分の世話をしてくれている。

 言葉や武術を教えてくれて、たまに「皆に内緒だよ」と言ってお菓子をくれた。


 皆、五歳になると名前を親からもらえるらしい。

 ただ、自分の場合は風馬が名付けてくれる。

 そのはずだった....



「名前はなにがいいだろう?」


「風馬‼ 風馬がいい」


「それは僕の名前だよ。君の名前を今から決めるんだよ。これから君が一生涯使っていく名前をね」



 そういわれてもよくわからない。

 ただ、風馬の顔から察するにとても大切な事だというのはわかる。



「これだけは決まっているからね。愛六、これが僕達一族の苗字だよ」


「あいろく?」


「そう、愛六。名前はそうだな?」



 そこに、一人の男がきた。



「その事についてだが決まっている」


「だれ? あの人」


「あれはお父様だよ。お父様、それはどういうことですか?」



 あれがお父様なのか?

 今まで会いにすら来てくれなかったのに。



「どうもこうもないよ。その子の名前はきすけだ」


「それはどのような漢字を書くのでしょうか?」


「忌助。それがその子の名前だ」



 お父様は紙を風馬に渡した。



「きすけ?それが自分の名前ですか?」


「....」


「これはあんまりではありませんか?」


「なにか文句でもあるのか?」


「いえ....なんでもありません」



 風馬はお父様になにも言えないようだ。

 お父様は踵を返すように部屋をあとにする。



「ごめんね、忌助」


「なんで謝るんですか?」


「君の名前は忌み子とすぐにわかるような名前なんだ。だから頑張って鬼の子になるんだ。そしてお父様を見返してやるんだ」


「鬼の子? とはなんですか?」


「僕もあまり知らないんだけど鬼の子は、忌み子の能力が使えるようになった人の事だよ。鬼の子の情報が少なくわからない事が多いけどね」



 忌み子はそんなによくないものなのか。

 そもそも忌み子ってなんなんだ。



「風馬、風馬。忌み子ってなに?」


「そういえば忌み子の説明をしてなかったね」



 忌み子が初めて出たのは千年前とされている。

 その最初の忌み子は力を制御出来ず、鬼の人と書いて鬼人きじんと呼ばれるものとなった。

 鬼人は理性を失い暴れまわる事しか能がなくなるんだ。

 一応その鬼人は討伐出来たんだけど被害がとても大きく名を「厄災」と呼ばれるようになったんだよ。

 その討伐に参加したのはたったの十人だけなんだよ。

 その一つが僕ら愛六家の先祖なんだ。

 さて、本題に入ろう。

 忌み子は産まれる過程で鬼の血が紛れてしまう。

 なんでかそうなるかは未だにわかっていないんだ。

 その血が産まれてくる子に常人以上の力を与えるんだ。

 普通は二つ、運悪く一つ、運良く三つの異能が与えられるんだ。

 忌助の能力の一つはここを見ればわかるけど氷だね。

 それも赤い氷だよ‼



「こんな感じの説明いいかな?」



 自分の部屋を見ると赤い氷がそこら辺に転がってる。

 最初からあったからそこまで考えてなかったがこれは自分が作り出したらしい。



「それで自分の能力はなんですか?」


「それはこれを使うんだ。これは呪札って言ってこれを使って色んな事ができるんだよ。じゃあこれに霊力を流し込んでみて」



 風馬に言われた通り、呪札に霊力を流し込む。

 紙には文字が沢山書かれていてよく読めない。


 書かれた文字が紫色に光輝き、浮かび上がる。

 さらに霊力がぐんぐん吸われていく。



 [赤い氷] [青い炎] [複製]



 その三つが出てくる。



「凄い‼ 三つも出てきた。これは頑張って力を制御しないとね」


「うん、頑張ります」



 自分は風馬に誉められてとても喜ぶ。

 だが、平和な日というのは長くは続かない。

 そう、いつか壊れる時がくる。



 ※




「忌助、起きてくれ」



 朝はやくに風馬が起こしにきた。

 いつもはもっと遅くに起こしてくれるのに。



「おはようございます、風馬」


「忌助、君にお客様だよ」


「お客様? 自分にですか?」



 風馬は少し嬉しそうに無言で頷き、着替えをさせる。

 そしてその人はやって来た。

 自分の師匠になる存在が。



「お前が忌み子か?」



 その人は部屋に入ってくると風馬を指を差して聞いた。



「いえ、忌み子は弟の忌助です」


「そうか、そっちのガキか」



 自分は自己紹介をする。



「はい、愛六忌助といいます。よろしくお願いします」


「よし、ついてこい。今日からお前は弟子だ」


「弟子というのは?」



 自分はいまいち状況を掴めていないので聞いてみた。

 風馬はわかっている様子だけど教えてくれる気配はない。



「俺は鬼の子だ。紅蓮流剣術の伝承者で紅蓮っていう」


「紅蓮さん?」


「いや、お前は今日から師匠と呼べ。それ以外は認めない。では行くぞ」



 師匠は襟を掴み自分の事を持ち上げた。

 そのまま初めて家の外に出た。



 少しして町にでた。

 町には人が沢山歩いていて、こちらをチラチラ見てくる。



「師匠、なんでこんなに皆さんは見てくるんですか?」


「あぁ? それはあれだろ。俺が人拐いみたいな事をしてると勘違いしてるんだろう」


「でも実際誘拐みたいですよね?」


「大丈夫だ。お前の父親には許可をとっている。それと風馬とかいうやつにお願いされたんだよ。お前を鬼の子にしてくれってな」


「....わかりました」



 風馬がなんでこんなことを?

 これは自分の為になっているのか?

 いや、風馬がいままで間違った事なんてないんだ。

 だから大丈夫だろう。



 そこから一時間くらいぶら下がっていただろうか。

 自分は山小屋につれてこられた。



「今から十年間、お前はここで修行をする」


「どのような内容のですか?」


「そうだな。まずはこれだ」



 師匠は一振りの刀を投げてくる。

 ギリギリ落とさずに受け取る。



「これは?」


「それは折れない、刃こぼれしない妖刀だ」


「妖刀ってなんですか?」


「妖刀って言うのは珍しい刀の事だよ。色んな能力が付いてる。鬼の子と同じ感じだな」



 なるほど、それを自分にくれるのか。

 これは自分の身長に対してちょうどいい。

 刀の重さも重くなく軽くもない。

 振り回すにはなんの支障もないだろう。



「あとこれを食え」



 藍色の薬を投げてきたので、口で受け取る。

 噛み進めると体の芯から熱くなるのが感じられる。



「それは特殊な薬でな、一時的に体力を切らさない。これから修行を初めるからついてこい」



 師匠は小屋を出てから走りだす。

 自分がギリギリついてこれるはやさで走ってくれている。

 途中師匠は木の枝を折り腰に差し込んでいた。




 森の中を十分くらい走っただろうか。

 森が開けた場所に到着する。

 木々がはえてなく、地面は岩が剥き出し、崖の底のように岩壁に囲まれた場所に。



「いいか、俺はこの木刀を使う」



 師匠はさっき折った木の枝を使うようだ。

「それは木刀ではないだろ」と心の中でツッコミをいれておく。



「最初の修行は簡単だ。俺にその刀で傷をつけてみろ」


「この刀でですか?」


「そうだ。どこでもいいぞ。腕でも首でも腹でも脚でも。さぁかかってこい」



 自分は刀を構える。

 構えるといっても様になってるとは言い難い隙だらけの構えだ。

 師匠は肩をピクピクさせているので笑いを堪えてるのだろう。



「やぁーーーーー」



 いっちょまえに気合いを出して刀を振りかぶる。

 師匠がいる所を目掛けて刀を振り下ろす。

 刀は地面を斬りつけ、師匠は自分の後ろに回り込んでいて、木の枝で頭をつつく。


 次は刀を振りながら後ろを向く。

 その勢いで刀は手からはずれて飛んでいく。



「刀は大事に使え。武器はなにがあっても手放すなよ」


「はい、師匠」



 師匠は怖くなく優しいので安心した。



 ※



 木々があかく染まる。


 息が白くなり雪が降る。


 野に花が咲き虫が動きだす。


 蝉が鳴き太陽が肌を焼く。



 自分は師匠に傷1つつけれない。

 色んな事をした。

 卑怯なことや、負けたフリをして隙をついたりもした。

 それがすべて無駄に終わったのは言うまでもない。



 ※



 木々が紅く染まる。


 息が白くなり雪が降る。


 野に花が咲き虫が動きだす。


 蝉が鳴き太陽が肌を焼く。



 また一年が経過した。

 色んな作戦をたてて実行した。

 それでもまだ足りない....

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